No.000:君はなんのために生きる?
カクヨムでもやってます
神樹歴???年
雨が降っている。周りの大人たちは血を流して倒れ伏している。立っているのは自分だけだ。
「ああ、……あ"あ"あぁぁぁぁ!!」
都市の骸の中で少年の悲鳴が響き渡る。その手に握られているのは自分を救ってくれた少女だ。その胸に残る穴は確かに銃弾が貫いたことを示していた。
「はぁ、はぁ」
『ギャオオオーーーーン!!!』
「ーーーー!」
近くを黒い鱗を持つ大怪獣が通っている。ズシン!ズシン!と大きな音を立てて歩いている。紛れもない人類の敵対種【魔物】だ。
「逃げなきゃ……」
少女の亡骸を抱えて歩き出す。せめて、埋めるか燃やすかしなければ。
「はぁ、雨、うざいなぁ」
少年の紫瞳から透明な液体が流れる。その正体がなんなのかは白髪の少年にしかわからなかった。
◆
神樹歴421年
「………ここが迷宮かぁ!!」
白髪の少年は、大都市フォールンにやって来てから初めて大迷宮【フォールン】にやってきていた。
「なんだぁ?坊主ぅ、おまえさん迷宮初めてかい?」
「ああ、そうなんだ。……そうだ、なぁおっさん迷宮について教えてくれないか?身元の証明が出来ない【名無し】だからその辺の情報を冒険者ギルドが渋ったんだ」
「ああん?そりゃねぇだろ坊主。この【迷宮乱立時代】だ。迷宮について知らないなんてありえねぇ。それに坊主は【冒険者】じゃねえのか?」
「それが知らないし、ここでは冒険者でもないぜ、てなわけでたすけてくれ」
「まぁ、同じ名無しのよしみだ。教えてやる」
そう言っておっさんは語り出した。題して、【バカでもわかる迷宮乱立時代】
「ああ……はるか昔にこの世界には七つの【大迷宮】が出現した。そしてそれを皮切りにその大迷宮から派生した同じ属性を持つ【小迷宮】が発生しだしたんだ。それが迷宮乱立時代の幕開けだ」
「ふむ。それで?」
「そしてこの大迷宮を所有している都市が大都市と呼ばれる。まぁ、俺たち名無しなら滞在するのにも金がかかるクソッタレな場所だがよぉ」
「でも安全だよな」
「そりゃ人類生存圏外に比べたらな!!……そんでもって、いまおまえさんが突っ立ってるそこも大迷宮だ。名は【フォールン】。属性は【呪】。半端な仲間を連れて行くのは勧めないぜ?」
呪属性 洗脳や衰弱などを主な攻撃手段とする属性だ。使える人間は希少で使えてもその気味の悪さから大体の人間から迫害や軽蔑を受けている。
「ふーん、【呪】ね。オッケー。ありがとなおっさん」
そう言って少年はトコトコと大迷宮【フォールン】に向かって歩き出した。武器も防具もない状態で。
「ちょ!?おまえさん武器は!?防具は!?」
「大丈夫だ。俺は死なないから」
少年は心配するおっさんに振り返り良い顔をしてそう言い切った。
◆
【フォールン】の中は案外普通の洞窟といった感じで特に不気味なものは感じなかった。
「……お」
『『『グッギッグギャ!!グギャギャ!!』』』
子供並みの体躯に醜い顔がついていて緑色の肌の魔物だ。小鬼だ。
「3体の小鬼……童話か?」
そう呟いた瞬間、少年の身体が消える。次にその姿が見えた時には足が振り上げられた状態で声を出す間も無く、小鬼たちの頭と胴体がお別れを果たしていた。
「………まぁ、変わりは無しかー」
以前狩ったのと同じぐらいの強さなのを確認して少しだけ落胆してからずんずんと先へと進んだ。
◆
【フォールン】に入ってからかなりの時間が経過した。随分と深くまで進んできた感覚はある。もしかしたら【呪】の影響で誤魔化されているかもしれないが、1人で進んでいるのだし自分にはそう関係はないなと考え怖がらないことにした。
「グッ……やめろぉ、やめてクレエエエ!!」
「どうしたの!?やめて!!」
2人の……冒険者だろうか?争っている。痴話喧嘩か、仲間割れか。彼らの周りには2人が倒れている。
「………仲間割れ?……いや、呪か!」
【フォールン】の属性、【呪】。その例がようやく見られた。襲っている側がやめろと言っているから【呪】によって操られているのだろう。身体の制御だけを奪うとはなんて残酷なんだ!!
「………はぁ、助けるかぁ」
「ーーーーっいま!助けるわ!!!!」
助けようと少年が動こうとした時、背後で突風が起こった。少年を追い越した少女はその手を振りかぶり手に持っているビンを操られている男の方にぶん投げた。
バリン!!
「グッ!?グゥゥゥ……ガァァァぁ!!!!」
「ーーっなに!?どうしたの!!」
少女はそのまま飛びついて取り押さえた。
「動かないで!!今投げたのは聖水。【呪】特攻の秘薬よ!!」
「………聖、水?」
「グゥゥゥゥ」
その体勢のまま数十秒が過ぎた。如何に特攻の聖水といえど解呪の対象は大迷宮産の強力な呪いだ。完全な解呪に時間がかかるのは仕方ないだろう。
「…………はっ!?身体が、動く?」
「…………ふう、よかった」
「よかったぁぁぁ!!セーヤぁぁぁ!!」
襲われていた女の方がセーヤと呼ばれた男に抱きつく。よく見れば泣いて頰ずっている。殺されかけたのに、タフな人だ。
「……すまない、世話になった」
「ありがとおおおおお!!」
「………いいえ、大したことではないわ。礼は必要ないけれど、貰っておくわね。それと倒れていた人たちならまだ息があったから回復魔術をかけておいたわ。死にはしないと思うわよ」
それから少しして2人の冒険者はそれぞれ倒れていた仲間を背負いその場を後にした。
そして彼らを助けた少女はこちらを見た。
「あなた、どういうつもり?」
「…………………どういうって?」
「どうして彼らを見てすぐに助けなかったの?」
「……聖水、無くてな」
「それは嘘よ、あなたはソロだし、もし持っていないとしても呪に対抗する手段はあるはず」
「…………」
少年は沈黙した。答えたくなかったからだ。
「沈黙は肯定と受け取るわ」
「………」
「目の前で死にそうな人を放っておけるなんて信じられない」
「………」
「あなたは【勇者】でしょ?」
「それほどの実力を持って、あなた、なんのために生きているの?」
紫色の髪を短く整えた彼女の問いに少年は答えることはなかった。
◆
「私の名はユーリ。ユーリ・セブン・ノースターよ。一応【勇者】に覚醒しているわ」
「ーーーっ!」
【勇者】は他の【勇者】がわかる。あくまで直感だが、それは間違えることはない。勇者センサーは正確なのだ。
「………そうか」
「それじゃ、またいつかね。あなたのことは勇者として気に食わないけれど私と似て非なる何かを感じるわ」
そう言ってユーリは迷宮の奥へと進んで行った。彼女の姿が闇へと消える。
「…………暗視か。いやぁ、にしても"なんのために生きているの?"か」
彼女へは答えられなかった問い。
「俺が生きる理由なんてあの日からずっとーー」
少年は目を閉じる。もう二度と見たくない光景を脳裏に映しながら、
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。ユーリ」
伏せられた問いの答えを知る者は少年を除いているはずがない。
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