第八話:Sランクの魔導師と、秘密の共有
グレートストーンゴーレムとの戦闘はクライヴによって決着し、一行は第三層への階段を確保した。
しかし、レンの周りを取り囲む空気は一変していた。
セレスは、レンの魔力映像機に釘付けになっており、目を離そうとしない。
「いい? レン。あなたには私の研究室に来てもらう。そこで、その魔導具の構造を全て解析させてもらうわ。逃げられると思わないことね」
その威圧的な口調は、Sランク大魔導師としての絶対的な自信に満ちていた。
リリアナは、この状況の危険性を肌で感じ、緊張で全身の筋肉が強張っていた。
「セレス、待ってください。レンはギルドの依頼を受けている。それに、あなたは現在、ダンジョン攻略中です」
リリアナが抗議する。
「依頼? 知らないわ。私の研究こそ、この世界の未来よ。クライヴ! あなたは先に進んで。私はここで少し遊ぶわ」
クライヴは深くため息をつき、「勝手にしろ」と吐き捨てると、グレートストーンゴーレムの残骸を跨いで先に進んでいった。
Sランクパーティーの結束は、意外にも緩いようだった。
レンは即座に状況を解析した。
リリアナ(Bランク)の戦闘力: セレス(Sランク)には全く及ばない。 リーナ(Lv.15): 戦闘能力は皆無。 レン(Lv.5): 逃走以外の選択肢はない。
レンはセレスに気づかれないよう、密かに視聴者へメッセージを送った。
視聴者へ: Sランク魔導師に拘束されそうです。逃走のために、一時的にコメントと魔力供給を意図的に停止してください。
レンのメッセージは即座に実行された。熱狂的なコメントの流入がピタリと止まり、それに伴い、レンへの魔力供給も停止した。
システム: 視聴者からの魔力供給が停止しました。
MP: 40 / 60 → MP: 38 / 60 (自然回復のみ)
セレスは、魔力映像機から発せられていた特異な魔力の「脈動」が突然途絶えたことに気づき、驚愕した。
「何? 今、魔力の流れが途切れた...あなたがやったの?」
その一瞬の隙を、レンは見逃さなかった。
彼は【生活魔法:重量】を自分自身の足元に発動させ、岩だらけの床に一瞬で体重を固定した。
そして、その反動を利用して、全力で洞窟の出口方向へ駆け出した。
「リリアナ、リーナ! 逃げます!」
リリアナは遅れて状況を理解し、レンの背中を追って走り出した。
リーナは工具箱を背負いながら、懸命についていく。
セレスは動揺からすぐに立ち直った。
「逃げると思ったわよ、Fランクの小僧が」
彼女は逃げるレンの背中に向かって、中級魔法を放った。
「【風縛】!」
突風がレンの周囲を包み込み、彼の動きを鈍らせた。
しかし、レンは逃走中に解析を続けていた。
魔法解析: 風縛(中級・風属性)。
風魔法は、石窟内の岩壁に反射し、効果が増大する。
対処法:風の反射を利用し、進行方向への推進力に変える。
レンは、風が石壁に当たって跳ね返ってくるタイミングを予測し、その風に乗るように体を傾けた。
レンのAGIは低いが、解析による完璧な物理演算がそれを補った。
彼は風縛の拘束から逃れ、洞窟の入り口へと走り続けた。
レンは、なんとか第二層を突破し、第一層へと戻ってきた。
出口はすぐそこに見えている。
リリアナとリーナも懸命に彼を追っていた。
しかし、出口のすぐ手前、レンの視界に致命的な情報が表示された。
情報解析: セレス・リーゼロッテ: 詠唱完了。瞬間移動。
「逃がさないと言ったでしょう」
セレスは、レンのわずか三メートル前に、青い光と共に瞬間移動で現れた。
レンは急停止できず、そのままセレスの強固な魔力バリアに衝突し、弾き飛ばされた。
「ぐっ!」
レンは地面に倒れ、ショートソードを手放した。
セレスは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、レンに近づいた。
「次元魔力を扱うほどの才能を持ちながら、逃走方法が単純な物理移動なんて、滑稽だわ。いい? レン。あなたには選択肢はないの。私の研究室で、その魔導具の全てを私に捧げるのよ」
リリアナが駆け寄り、セレスとレンの間に入り、ロングソードを構えた。
「セレス! 彼はギルドの保護対象よ! 手を出させない!」
セレスは冷たくリリアナを見下ろした。
「邪魔よ、Bランク。あなたのランクでは、私と本気でやりあうことはできない」
その時、リーナがレンの倒れた脇に転がった魔力映像機を拾い上げ、絶叫した。
「お姉ちゃん、やめて! レンさんの研究を邪魔しないで!」
セレスは、自身の研究への熱意を否定するリーナに対し、わずかに戸惑いの表情を浮かべた。その一瞬がレンの配信の次の展開を決定づけることになるのだった。
チッ、やはりな。
俺はあのチンピラ新人レンの動きが怪しすぎて、洞窟の入り口で潜んでいたが、まさかSランクの大魔導師セレスまで絡んでくるとは。
しかも、あのセレスだ。戦闘狂のクライヴとは違って、滅多にダンジョン深層まで来ない魔導具オタクが、あの新人を取り囲んでいる。
遠くから見ていたが、レンは逃げようとしていた。だが、一瞬でセレスに捕獲された。
瞬間移動まで使われたら、あのFランクのチンピラに勝ち目などあるわけがない。
リリアナが何か叫んでいたが、Sランクの前ではBランクの抵抗など無意味だ。あの新人、レンは確実にセレスの「おもちゃ」にされるだろう。
だが、これで一つ分かったことがある。レンの持つ魔導具は、Sランクをも惹きつけるほどの、とんでもない秘宝なのだ。
そして、あの大魔導師セレスの研究室に入り込めば、その秘宝の情報だけでなく、ダンジョン攻略に関するギルドの未公開情報も手に入るかもしれない。
フン。あの新人は役目を終えた。
次に俺がすべきことは、セレスの研究室への侵入ルートを探ることだ。
ザック (Dランクハンター・Sランクを追う男)




