第六話:エメラルドの洞窟:レンの配信戦略
レン、リリアナ、リーナの三人は、フォルトナ市から半日かけて、中級迷宮区「エメラルドの洞窟」の入り口に到着した。
洞窟の入り口は、周囲の苔生した岩とは異なり、青緑色に光る魔石の層に覆われていた。
入口前には、数組の冒険者パーティーが準備運動や情報交換を行っている。彼らは皆、最低でもDランク以上の、中級者以上の装備を身につけていた。
リリアナは重い口を開いた。
「レン、もう一度確認するけれど、ここはレベル15推奨の迷宮よ。あなたのレベルは4。私がいなければ、最初の数歩で死ぬわ」
「心配は無用です。私の解析スキルは、その推奨レベルの差を埋める情報を提供します。リーナ、魔力映像機の状態は?」
リーナは背中の巨大な工具箱から小型の魔力測定器を取り出し、映像機をチェックした。
「ばっちりだよ! 地球からの魔力流入は安定している。レンさん、どんどん面白いことして、もっといっぱい魔力をもらっちゃおう!」
レンは頷き、魔力映像機を起動させた。
配信タイトル: 【レベル4で挑戦】中級ダンジョン「エメラルドの洞窟」攻略開始 現在の視聴者数: 500名(安定)
レンたちが入り口に立つと、彼らの存在はすぐに目立った。
特に、Bランクのリリアナが、Fランクのレンと子供のリーナという異様な組み合わせのパーティーにいることに、周囲はざわついた。
その中の一団から、一人の男が近づいてきた。
全身を黒い革鎧で固め、背中には一対のシックル(鎌)を背負っている。
その目は鋭く、レンたちを値踏みしていた。
情報解析:
名前: ザック
クラス: 【ハンター】
レベル: 28
ランク: D
状態: 警戒、嘲笑、リリアナへの不信感
「おや、リリアナさんじゃないか。Bランクのあなたが、まさか子供の遊びに付き合っているとはね」
ザックは嘲るような笑みを浮かべた。
「そちらの新人さんは、Fランクのプレートを下げているが...。リリアナさん、ここは『灰色の石窟』とは違う。レベル15未満は、ただの餌だ。特に、その魔力馬鹿の子供連れでは、我々の進路の邪魔になる。悪いことは言わない、引き返したらどうだ」
リリアナは不快感を露わにした。
「ザック。私の行動に口出し無用よ。私たちはギルドの正式な依頼を受けている」
「依頼? まさか、この新人の護衛か? リリアナ、あんたも落ちたな」
レンは、ザックの言葉を無視し、洞窟の入り口に立っている魔物に向けて解析スキルを発動させた。
魔物名: エメラルド・スライム
レベル: 15
弱点: 光 への極端な耐性低下。重量 に耐性がない。
ドロップ: 濃緑魔石
「弱点が見つかりました。リリアナ、ザックは無視して、予定通り進行します」
レンはそう言って、魔力を集中させた。
レンの次の行動は、リリアナやザックの予測を遥かに超えていた。彼は初級魔法の「光」を起動させた。
「【生活魔法:光】」
彼のINT15が注ぎ込まれた「光」は、太陽そのもののような輝きを放ち、周囲の魔力を激しく震わせた。洞窟の入り口にいたエメラルド・スライムの体が、その光を浴びた瞬間に、音を立てて溶け始めた。
ザックは目を細め、信じられないものを見るかのように叫んだ。
「馬鹿な! 生活魔法の『光』は、ただの照明だぞ! 攻撃力など皆無のはず!」
レンは、溶けかけのエメラルド・スライムの真上に向けて、次に別の生活魔法を放った。
「【生活魔法:重量】」
この魔法は本来、物をわずかに重くするだけの魔法だが、レンの膨大なINTによって、スライムの体全体に、巨岩のような重圧がのしかかった。
スライムは悲鳴を上げることなく、その場で完全に潰れて消滅した。
システム: エメラルド・スライムを討伐しました。
レベル が 4 から 5 に上昇しました。
濃緑魔石 を獲得しました。(経験値ゲージ:10%)
「弱点を突いたため、魔力消費は最低限です」
レンは涼しい顔で、魔石を拾い上げた。
リリアナは驚きで声が出なかった。
彼女が何十回と戦ってきたスライム系の魔物は、通常、物理攻撃や火炎魔法が有効で、「光」や「重量」など、全く意味のない魔法だとされていたのだ。
「あれが...彼のユニークスキルによる『解析』の力...」
ザックは、レンの冷徹な戦闘方法と、彼の装備からは想像もできないほどの圧倒的な威力に、初めて恐怖にも似た感情を抱いた。
レンはザックを一瞥した。
「邪魔にならないよう、先に行かせてもらいますよ」
三人は、驚愕に包まれた冒険者たちを背後に、エメラルドの洞窟の奥へと進んでいった。
リリアナの警戒心は、今、確かな協力関係へと変わり始めていた。
信じられない。あのチンピラ新人。レン。
あの女剣士リリアナが護衛についている時点で胡散臭いとは思っていたが、まさかあんな馬鹿げた光景を見せつけられるとはな。
レベル15のエメラルド・スライムだぞ。
通常なら、我々Dランクパーティーでも最低二人がかりで仕留める、厄介な魔物だ。
それが、あのひょろい男の「光」と「重量」の生活魔法で、一瞬にして消し炭になった。
生活魔法だと? 笑わせるな。あれは、奴が何か隠している証拠だ。
リリアナは奴が「ユニークスキル」だと言っていたが、そんな生易しいものではない。奴は、魔物の弱点を完全に知っている。まるで、迷宮の地図と魔物の生態図を完璧に頭に入れているかのようだ。
そして、あの魔導具。
あの子供が「遠くから魔力を取り込んでいる」と言っていた。
もし、奴が裏社会の巨大な情報網と繋がっていて、ダンジョン内部の極秘情報をリアルタイムで得ているとしたら?
チッ。
我々は長年の経験と命を削って情報を集めてきたというのに、奴はたった一人で全てを手に入れている。
気に入らない。
だが、無視はできない。奴の動きを追う。もし、奴がこの街の秩序を乱すような真似をすれば、このハンター、ザックが容赦なく狩り殺してやる。
ザック (Dランクハンター・レンへの警戒者)




