第三話:ギルドの陰謀とリリアナの疑念
レンはギルドを出た後、すぐに魔力映像機を再起動させた。
次の配信に向けて、視聴者の意見を集めるためだ。
配信タイトル: 【緊急企画】視聴者が選ぶ!Fランク冒険者の最初の装備 現在の視聴者数: 200名
レンは通りに面した小さな装備品店へと向かいながら、コメント欄に目を走らせる。
視聴者「アリス」: 錆びた剣はダメ! 最低限、皮のチェストアーマーとブロンズのショートソードにしよう!
視聴者「匿名G」: VITが低いから、防御よりAGIを活かせるように軽装がいい。皮鎧と短剣で、ヒットアンドアウェイ戦術を強化すべき。
視聴者「匿名H」: INTが高いんだから、魔法攻撃をメインにすべきだろ! マジックワンドを買え!
レンは【異世界配信】の解析機能で、店内の商品のステータス補正を瞬時に確認した。
ブロンズソード(中古): STR+3
マジックワンド(粗悪品): INT+1
革のチェストアーマー: VIT+2
「INTが15あるとはいえ、魔法レベルは1。現状、生活魔法しか使えない。STRが5のままでは、基礎攻撃力が不足する」
レンは視聴者の助言と解析情報を総合し、ブロンズソード(中古)と、耐久力に補正のある革のチェストアーマーを購入した。
これで銅貨35枚はほとんど消えた。
同じ頃、冒険者ギルド「銀の盾」の会議室。
ギルドマスターのバルカスは、受付職員から提出されたレンの登録記録を前に、頭を抱えていた。
向かいの椅子には、Bランク冒険者のリリアナが座っている。
「...コボルトを討伐した? レベル3の【無職】が、か」
バルカスは低い声で唸った。
「はい。ステータス測定結果も、筋力、敏捷性、耐久力が極端に低く、魔力と精神力だけが突出しています。常識的に、コボルト相手に勝てるステータスではありません」と、職員が報告した。
リリアナは腕を組み、鋭い視線を記録に落とした。
「あの男、レン。彼の動きには違和感がありました。私から見ても、彼は戦闘の素人です。しかし、敵の弱点を、まるで事前に知っているかのように正確に突く。特にコボルトの脇腹の鎧の隙間を狙った一撃は、熟練の冒険者でも難しい」
リリアナは、ギルド内でレンを見かけた時の状況を思い出す。
彼は、ギルドマスターにも気づかれないほど微細な動きで、周囲の人間を観察していた。
「バルカス様。彼が何か『鑑定』のようなユニークスキルを持っている可能性を排除できません。しかし、そのスキルが彼の低すぎるステータスを補って余りあるとは...」
バルカスは重々しく机を叩いた。
「この街のダンジョンは、最近、魔物のレベルが徐々に上昇している。安定した攻略情報の確保が急務だ。リリアナ。お前には悪いが、彼の行動を監視してくれ。もし彼が、未確認のスキルや情報源を持っているなら、それがこの街の防衛に役立つ可能性がある」
リリアナは不満を露わにした。
「監視、ですか。私は討伐依頼で忙しいのですが...」
「頼む。これはギルドの存続に関わる。彼がもし危険な異端者でなく、ただの変わった冒険者なら、お前が指導してやればいい。彼が再び『灰色の石窟』に入ったら、尾行してくれ」
リリアナは、レンの薄っぺらい装備と、無表情な横顔を思い浮かべた。
「...分かりました。ただし、彼の正体が判明したら、すぐに私の本来の任務に戻らせてください」
その日の夕方。レンはブロンズソードと革のチェストアーマーを身につけ、再び「灰色の石窟」の入り口に立っていた。
視聴者「アリス」: おお! 装備がまともになった! かっこいいよ、レンさん!
視聴者「匿名I」: レベル3でブロンズ装備なら、コボルト相手に多少は耐えられるか。
レンはコメントを確認し、新しいショートソードの感触を確かめた。
「視聴者の皆さん、見ての通り、装備を更新しました。今日は、第三区画への到達を目指します」
レンは昨日と同じようにスキルを起動し、石窟の奥へ進む。
彼の背後、入り口から十メートルほど離れた大岩の陰に、リリアナが潜んでいた。
「まったく、本当に来たわね」
リリアナはため息をついた。彼女の持つ短剣が、夕暮れの光を反射する。彼女は自分のBランクのプライドをかけて、レンの謎を解明するつもりだった。
レンは、新しい解析情報を視聴者に開示した。
情報解析:
エリア名: 灰色の石窟 第二区画
魔物: コボルト × 2体、コボルト・リーダー(レベル7) × 1体
コボルト・リーダーの弱点: 精神力(MND)が極端に低い。魔法耐性が皆無。
(リーダーがいる。レベル7相手に正面戦闘は不可能だ。だが、弱点は...魔法耐性皆無?)
レンは、彼自身の高いINTと、コボルト・リーダーの致命的な弱点が一致していることに気づいた。
「視聴者の皆さん。新たな脅威がいます。今回は、魔法に頼ります」
レンはブロンズソードを収め、意識を集中させた。
彼の背後、リリアナは耳を疑った。
(魔法? 彼が使えるのは初級の生活魔法だけのはず...まさか、あの板切れで魔法を使うつもりなのか?)
リリアナは、レンの行動から目が離せなかった。彼の持つユニークスキルが、このアルカディアの常識を覆すことを、彼女はまだ知らない。
あの男、レン。
本当に信用できないわ。
ギルドで彼のステータスを見たわ。
筋力が5よ? 私の半分以下じゃない。
それなのに、あのコボルトを倒した記録があるなんて、まともじゃないわ。
そして、あの怪しげな「魔力映像機」を手に、また石窟に入っていった。
私はマスターに言われて彼の尾行をしているけれど、彼の言動が全く理解できない。
「魔法に頼る」ですって?
彼が使える魔法なんて、水滴を出す程度の生活魔法だけのはずよ。
レベル7のコボルト・リーダーを相手に、水滴でどうするつもりなの?
...もし、彼がその「魔力映像機」を通して、何か強力な魔術師と交信しているとしたら?
彼自身は弱くても、裏に強力な支援者がいる。
そう考えると、辻褄が合うわ。
くっ...あの男、単なる弱小冒険者だと思っていたけれど、どうやらただの初心者じゃない。
裏があるわ。
絶対に目を離さない。
私は彼の正体を暴いて、それが街の脅威ではないと証明しなくてはならない。
もし彼が本当に危険なら、私がこの手で...。
リリアナ (フォルトナ冒険者ギルド所属 Bランク剣士)




