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始まりのダンジョン配信者  作者: 沼口ちるの


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第十八話:煉獄の特訓と、INT極振りの覚醒

第一節:武術の達人の論理

リリアナとリーナの特訓から数日後、レンと勇者アリスは再びフィリスの道場に立っていた。リリアナとリーナは、セレスの塔で防御システムの最終調整にあたっている。


レンは、あくまで「情報解析の専門家」として道場に来ただけだった。


「アリス、あなたの魔力は次元を超越している。しかし、その圧倒的な力は、あなたの身体の動きが最適化されていないために、最大効率の三分の一しか発揮されていない」フィリスは静かに言った。


アリスは真剣な表情で頷いた。「フィリスさん、お願いします! 闇の帝王を倒すために、私は完璧になりたい!」


フィリスはレンを一瞥し、冷酷な目で言った。「さて、勇者。お前の特訓の最初の相手は、そこの『動く分析装置』だ」


レンは戸惑った。「え? 私ですか? 私は戦闘能力が極めて低いです。特訓には参加できません」


フィリスはレンのFランクプレートと、彼が放つ「弱者の魔力」を無視した。


「お前は、この世界で最も『偏った肉体』を持つ。お前の肉体は、魔力の奔流に耐えるために、全ての物理的な防御と敏捷性を削ぎ落としている。その『偏り』こそが、勇者の『心眼』を磨くための、最高の標本となる」


フィリスの論理は、レンのINTでも反論の余地がないほど徹底していた。アリスの【心眼】を磨くには、「動きの予兆が全くない、しかし魔力は膨大」というレンこそが、最適な訓練相手と見なされたのだ。


第二節:強制的な魔力断絶

レンは観念し、道場の中央に立たされた。フィリスはリーナが開発した「魔力映像機に繋がる一時遮断装置」をレンの首筋に装着した。


「いいか、レン。勇者がお前の『予兆』を捉える訓練中、お前は一切の魔力を使うことを禁ずる。お前のユニークスキルも、私とリーナの共同作業で、外部からの情報入力を三十分間、完全に遮断する」


「な、なんですって!?」


レンの頭の中で、視聴者からのコメントと、ダンジョンの情報解析が突如、無音になった。レンは、初めて自分のユニークスキルが停止した恐怖に襲われた。


「さあ、勇者アリス。お前はレンの『殺気』を探る。そして、この男の身体の脆弱な部分へ、正確に木刀を振り下ろせ。レン、お前はただ、本能で避けろ」


アリスは躊躇しながらも、フィリスの鬼気迫る指示に従い、木刀を構えた。


レンの体は、Fランクの脆弱なステータスそのものだった。回避行動を取るには、フィリスの教えにある『心眼』が必要だが、レンの精神は、常に外部の情報解析に依存しており、肉体の予兆を捉える能力は皆無だった。


アリスの木刀が、レンの心臓めがけて振り下ろされた。


第三節:INT極振りの究極覚醒

(レンの脳内)


警報! 物理攻撃回避率:0.001%。


AGI: 5。回避は不可能。


ユニークスキル: 【異世界配信】(外部情報入力:停止中)


利用可能な情報: 術者自身の肉体データのみ。


INT: 15。魔力演算、強制実行中。


演算対象: 術者レンの肉体データ。


レンの意識が肉体から切り離され、彼の高すぎるINTが、彼の「回避不能」という現実を前に、暴走を始めた。


INTの力は、外部の世界ではなく、彼の「肉体」という、これまで無視してきた唯一のデータセットの解析に集中した。


演算: 「AGI 5」でこの速度を回避するための最適解を計算。


結果: 筋肉の収縮角度、関節の固定、空気抵抗、地面からの反発力をミリ秒単位で計算。


指令: 完璧な『体軸移動』を実行せよ。


レンの体は、本能ではなく、INTによる極限の計算によって動かされた。彼の肉体は、彼の意志とは無関係に、フィリスがリリアナに教え込んだ『体軸の感覚』を完璧に再現し、アリスの木刀を紙一重で避けた。


アリスは驚愕した。「え…!? 今の、どうやって避けたの!?」


フィリスの鋭い眼光が、初めて驚きに変わった。「…今の動きは、武道の極致...魔力もスキルも使っていない。ただの肉体操作。だが、その精度は、私が到達した領域を超えている」


レンは息も絶え絶えで地面に膝をついた。彼の意識は戻り、再び外部の魔力解析が流れ込んできた。


システム: ユニークスキル【異世界配信】が、内部演算の副産物として新スキルを獲得しました。 新スキル: 【瞬間身体最適化リアルタイム・オプティマイズ】(パッシブ・レベル:1)


効果: 物理的な危機に瀕した際、INT値を演算リソースとして消費し、肉体をAGI、VITの数値に依存しない「理論上の最適解」で瞬間的に操作する。


欠点: 演算負荷が極めて高く、使用後は極度の疲労を伴う。


レンは、フィリスの特訓によって、「解析能力」を「肉体操作」に応用する、新たな力を覚醒させたのだった。彼のINT極振りは、もはや情報処理だけの能力ではなくなった。


死ぬかと思った。本当に。


あのフィリスという人は、Sランクのセレスよりも、闇の帝王よりも、私にとっては遥かに恐ろしい存在です。


特訓という名の拷問です。私の命綱である情報と魔力を完全に断ち、ただAGI 5のこの貧弱な肉体で、レベル100の勇者の攻撃を避けろと...。


しかし、その極限の状態が、私のユニークスキルを予期せぬ進化へと導きました。


【瞬間身体最適化】。つまり、私のINTの膨大な演算能力を、私の肉体の操作に利用する**「究極の自己解析」です。一瞬だけ、私の肉体が『Fランクでは不可能な、理論上最高の動き』**を実行できる。


これで、私はただの**「動く分析装置」から、「理論武装した戦闘員」**へと進化しました。ただし、使用後の疲労度は尋常ではありません。


勇者アリスの特訓は、これからも続きます。私は彼女の**「生きた標本」**として、さらにこの新スキルを磨き上げなければならない。


フィリス、そして視聴者の皆さん。これからも、私の過酷な試練を見届けてください。


レン (Fランク配信者・理論武装した戦闘員へ)

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