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始まりのダンジョン配信者  作者: 沼口ちるの


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第十五話:武の極意:リリアナの覚醒

第一節:魔力を断つ特訓

フィリスの道場での二日目。リリアナは疲労で全身が悲鳴を上げていたが、その瞳には昨日以上の決意が宿っていた。レンの配信は塔の上で継続中だが、リリアナは一時的にその情報源から離れ、純粋な己の肉体と向き合っていた。


フィリスは、リリアナにまず「魔力断ち」を命じた。


「戦闘中、魔力切れは死を意味する。魔力切れの状態でも、相手を確実に仕留める動作が必要だ」


フィリスは、リリアナの『型の安定』を追求した。リリアナが剣を振り下ろすたび、フィリスは容赦なく彼女の足の甲や膝裏を手の甲で軽く打った。


「その踏み込みでは、力が地面に逃げている。魔力による衝撃吸収を前提とした、脆い足場だ。武道では、『下腹の三寸下に重りがある』ように重心を意識しろ。全身の力が、刃先に一直線で伝わるよう、肩の力を抜け」


リリアナは、武術の達人が教える「体軸の感覚」に驚愕した。これまで魔力任せで力を出力していたため、肉体だけで力を伝える効率が極端に悪かったのだ。


この特訓は、「立つ」「歩く」「振る」という基本動作を、魔力を使わない極限まで最適化させるものであり、リリアナの身体が、まるで精密な「古式機械」のように再構築されていった。


第二節:心眼と残心

次に、フィリスは対人戦闘の極意に移った。フィリスは木刀を持ち、リリアナと向かい合う。


「いいか、リリアナ。お前の剣は、相手の動きを見てから反応している。それでは遅い。お前の視線は、剣先に囚われすぎだ」


フィリスは木刀を構える。リリアナが動くのを待たず、フィリスの木刀が閃光のようにリリアナの脇腹を打ち据えた。リリアナは痛みに膝を折った。


「私の動きは、『予兆』の段階で終わっている。相手が力を入れる前の、微細な『呼吸』の変化、『瞳孔の動き』、『重心の沈み込み』を捉えろ。それが武道の『心眼しんがん』だ」


フィリスは、リリアナの目を固定させ、周囲に設置した複数の発光する小さな魔導具を見つめさせた。魔導具は不規則に点滅し、リリアナはそれを見分けることに集中する。その間もフィリスは、木刀でリリアナの死角を突く。


レンの解析スキルは、フィリスの【心眼】が、相手の潜在的な意図と身体の動きの予兆を、未来予測に近い精度で捉えるスキルだと示していた。リリアナは、視覚ではなく、全身の皮膚と精神で相手の動きを読む訓練を強制されていた。


さらに、フィリスは戦闘の終了についても説いた。


「魔物を討伐した後、お前はすぐに剣を収めているな。それは『残心ざんしん』がない。相手が倒れた後も、次の敵、あるいは敵の再起に備えて、意識と魔力を周囲に張り巡らせ続ける。心は動かさず、静かに、そして鋭くあり続けろ」


第三節:魔力と肉体の融合

特訓の終盤、リーナが特製のアームバンドをリリアナの腕に装着した。これは、リリアナの身体の強化に合わせて、魔力を出力するタイミングを極限まで最適化する魔導具だった。


「リリアナお姉さん、私の作った『魔力最適化アーム』だよ! これで、フィリスお姉ちゃんに教わった体軸で動けば、魔力切れの心配はなくなるよ!」


フィリスは再び木刀を構えた。今度は、リリアナも自身のロングソードを抜いた。


「さあ、武と魔を融合させろ。武道とは、究極の効率化だ。お前の魔力を、余計な防御や爆発的な出力に使わず、体軸を通した一撃のためにだけ使用しろ」


リリアナは、フィリスの助言に従い、剣を振り下ろす瞬間にのみ、リーナのアームバンドを通して魔力を流した。


シュン!


これまで魔力で剣速を上げていた時とは比べ物にならない、重く、鋭く、一切のブレがない斬撃が生まれた。それは、Bランクの剣士の剣ではなく、武の極意を体得した者の一撃だった。


フィリスは初めて、口元に微かな笑みを浮かべた。


「...良い。お前はもう、ただの魔力依存の剣士ではない。その剣は、闇の力を浄化する勇者の剣とは違い、純粋な『破壊』を極めた、『人の剣』だ」


特訓を終えたリリアナは、疲労困憊であったが、その体にはかつてない力が漲っていた。彼女のステータス自体は変わっていないが、その戦闘力は、間違いなくSランクの領域に片足を突っ込もうとしていた。


リリアナは、塔へと戻る道を歩きながら、フィリスに教わった「軸」を意識した。その時、彼女の全身の感覚が、遠く離れた塔の上で配信を続けるレンの「情報解析の周波数」と共鳴し始めたような錯覚を覚えた。


全身が痛い。骨の一つ一つが悲鳴を上げている。だが、私の中で何かが変わった。


フィリスの教えは、私のこれまでの冒険者としての経験を、全て否定するものだった。魔力に頼ってごまかしていた、身体の脆さ、剣の甘さ、心の油断...全てを暴かれた。


特に『心眼』と『残心』。闇の帝王の使徒と戦う上で、相手の殺気の予兆を読み取り、戦闘後も意識を緩めないという教えは、生存に直結する。


そして、リーナが作ってくれた『魔力最適化アーム』。フィリスの特訓で作り上げられた体軸と、リーナの魔導具の正確な魔力制御が組み合わさることで、私はもう、魔力切れの恐怖に怯える必要はない。


セレスの解析台にいるレンは、闇の組織にとっての最高の標的だ。次の刺客は、ザックのような素人ではないだろう。


でも、もう私は「Bランク」の剣士ではない。フィリスの特訓を経た『人の剣』として、あの塔を守り抜く。


来なさい、『五星陣』。私の剣が、あなたたちを待っている。


リリアナ・フェンネル (武の極意を得たBランク剣士)

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