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第10話:『二つの感情』

校庭の桜が、一瞬にして散った。その異常な光景は、蒼一の目に焼き付いていた。世界は、ルカを消し去るために、過去も、現在も、そして季節までもを容赦なく書き換えている。だが、天海ユキという存在は、その波紋の中で、ルカの面影を宿し、そして「三日月と星」の記憶を共有している。


蒼一は、ユキがルカを取り戻すための唯一の希望だと確信していた。

それからというもの、蒼一は、これまで以上にユキと時間を共にするようになった。放課後、図書館で並んで「並行世界論」の本を読んだり、美術室でユキの絵を見たり。ユキは、蒼一の問いかけに、いつも穏やかに、そして真剣に耳を傾けてくれた。


「この多世界解釈って、もし本当なら、私たちが知らないだけで、たくさんの世界が同時に存在してるってことだよね」

蒼一がそう言うと、ユキは静かに頷いた。

「そうね。そして、それぞれの世界で、違う選択をして、違う人生を歩んでいる自分がいるってこと。想像すると、少し不思議な気持ちになるわ」

ユキの言葉は、蒼一の胸に深く響いた。まさに、ルカと自分に起こっていることではないか。彼女は、無意識のうちに、この世界の真実に近づいているのかもしれない。


ユキと過ごす時間は、蒼一にとって、かけがえのないものになっていった。彼女の隣にいると、ルカが消えた世界の孤独が、ほんの少しだけ和らぐ気がした。ユキの優しい声、穏やかな笑顔。それは、ルカの面影を宿しながらも、確かに「天海ユキ」という一人の人間としての魅力に満ちていた。

蒼一は、気づいていた。自分の中に、ルカを取り戻したいという強い願望とは別に、ユキという存在そのものへの、新たな感情が芽生え始めていることに。それは、ルカへの純粋な想いとは異なる、複雑で、しかし温かい感情だった。


ある日、蒼一はユキと一緒に、学校帰りの商店街を歩いていた。ふと、パン屋のショーケースに飾られた、見慣れない新作パンが目に入った。

「あれ? あのパン、昨日までなかったよな?」

蒼一が思わず呟くと、ユキは不思議そうに首を傾げた。

「そうかしら? ずっと前からあったような気がするけど……」

蒼一は、また世界が書き換えられたことを悟った。昨日、確かにこのパン屋にはなかった。蒼一の記憶は、またしても、世界と乖離している。

しかし、今回は、その変化が、以前よりも微細で、日常に溶け込んでいるように感じられた。


その夜、蒼一は自宅で、ルカの未送信メールを改めて開いた。

『もし世界がわたしを忘れても、蒼一くんだけは、わたしを覚えていてください。』

そして、あの日のルカの言葉が脳裏に蘇る。

「きっと、わたしはもうすぐ消えるから」

ルカは、なぜ消えることを知っていたのか。そして、なぜ、自分だけが彼女を覚えているのか。

蒼一は、ユキとの会話を思い返した。ユキが語った「夢の中で光る三日月と星」。

もし、ルカが消える直前、精神時間粒子が活性化し、その影響でルカの意識の一部が、並行世界の「天海ユキ」に転移したとしたら?

そして、ルカが消えることを予見していたのは、彼女自身が、その現象の「起点」だったからだとしたら?


蒼一の頭の中で、すべてのピースが繋がり始めた。

ルカは、消えたのではない。

別の世界に、別の形で「存在」しているのかもしれない。

そして、天海ユキは、その「別の形」なのだ。


蒼一は、スマホを握りしめた。

ルカを取り戻すには、天海ユキの秘密を解き明かすしかない。

そして、その秘密は、きっと、この「精神時間粒子」と「並行世界」の理論の中に隠されている。

蒼一は、ユキへの複雑な感情を胸に抱えながらも、ルカを取り戻すための、新たな決意を固めた。

彼の孤独な戦いは、今、ルカの痕跡を辿る旅から、ユキという「もう一人のルカ」の真実を追う旅へと、確かな一歩を踏み出していくのであった。


ーお試し版完

初期プロットで書いた作品なので、好評でしたら、構成を見直して、再度1話からやり直します。

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