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Artificial Island 人工のユートピア  作者: 花火研究員
6/11

6 働くということ

働くということ


衣食住が確保されているということは、野生動物のように努力しなくても生きていけるということだ。

動物たちがそうであるように、食べられるのならダラダラとしてしまうだろ、だから人間の尊厳として「働く」ということが大事なんだ。というのは、サピエンスの一般的な考えだ。働かなければ、日々の生活で必要なお金が手に入らない。

「働かざる者喰うべからず」


動物がだらだら寝ているのは消化に大きなエネルギィを使うためだったり、瞬発力を高めるためにエネルギィ効率が悪いせいだ。すぐにど正論を語り始めるルウトの口に、おにぎりを詰め込んでおく。八櫛さん(風道さんの奥さん)が、お昼ごはんにと作ってくれたものだ。うまいだろう、塩辛いけど。

ルウトだけに聞こえるように「うんうん言っとけ」と諭す。


この町は俺たちが住んでいた町と違って、サピエンスがほとんどだけど、旅で立ち寄ったディモスを受け入れて泊めてくれる家がたくさんある。

だいたい、20軒くらいごとの「同行」と言われる組合があって、その班長の家が受け入れてくれることが多い。お返しとして、僕らが専心している技術で色々な手伝いや贈り物をしていて、サピエンスには無い技術だったりするので、結構喜ばれている。

ディモスの間ではあまり必要ないので意識することはないが、ディモスにもサピエンスと売買を行うための通貨のシステムがあって、色々な活動で入ってくる収入が蓄積されていたりする。AOIが管理している決済システムだが、はるか昔は硬貨や紙幣で行われていたらしい。古銭として展示されているのを見たことがあるが、面倒くさそうだ。

なので、一応、お金で支払うこともできる。サピエンスは俺たちからお金を受け取ろうとしないことが多いので、旅で世話になるときでも滅多に使わない。



俺たちが風道さんの家に泊めてもらっていることは、すぐに回りに伝わったらしく、風道さんの家には朝から珍客と話をしたい人たちがやってくる。娯楽に飢えているだけでなく、色々と頼まれごとも多い。

例えば、ルウトはディモス用のマイクロマシンだけでなく、サピエンスが使っているインフォメイショングラスデバイス(インフォグラス)の調整や修理までできる。今回も風道さんの家の縁側で、訪ねてきた人たちと四方山話をしながらインフォグラスの再調整をして、小遣い(おやつ)を稼いでいる。彼の隣には採れ始めたビワやそら豆が小山を築いている。

親身に話を聞いていたりするので、そんなにサピエンスに興味がでてきたのかと思ったが、

「一人ひとり生活スタイルが違うからね。その人の生活パターンをよく知らないと、中途半端な仕上がりになるんだ。」

なんとも神経し、ゴホン、几帳面なことだ。


「リブの教えか?」まだ気にしているかもと思ったが、つい聞いてしまった。意地悪だったか・・・

「いや・・・うん、それもあるな。」「元々は僕の師匠の教えだったんだけどね。」

当時はそれが、そんなに大事なこととは思わなかったらしい。

「リブが音を集めているときや音楽を作っているとき、聞いてくれる人がどう思うかが一番大事だって言うんだよ」「自分のために専心してるんじゃないんだよな」すごく新鮮だったけど、一緒に暮らしてよくわかったと。

「僕が好きになる人には、やっぱりそういうところがあるみたいだ」

ルウトは明るく話す。


「へえぇ、わからんでもないけどなあ、俺は結局みんなが目を丸くしたりする反応が面白いだけだなあ。自分のためにやってるだけだから、よくわからんなあ。」

ルウトがこっちを見てちょっと微笑む。

なんだ、なんか変なこと言ったか?



ルウトがサピエンスと茶話会をしている間は特にすることもないので、前に来たときから何か変わったことがないか調査するため、風道さんのところのぐり娘と近所の子どもたちを引き連れて町を散策する。

みんな背格好が同じなので、同じくらいの歳の生まれなのだろう。序列がるようだが、どんぐりの背比べだ。俺たちには幼馴染という感覚がないため、なんか面白い。

途中で創作に使えそうな素材があれば拾い集める。

どんぐりたちは面白い素材が落ちている場所を色々教えてくれるんだけど、変な場所ばかり通っていく。

こいつらネコか!

あまり良いものは落ちていないが、ぐり娘はセンスがいい。子どもたちが同じように石を拾っても、この子は「みて、黒いシロクマ!」という風に言葉選びとキャプションセンスが秀逸だ。

黒い石なんだから普通に熊でいいだろうに。


先立つものの心配はない。ルウトからも心配されたが、実は俺は結構なブルジョワジィなのだ。というのも、昔の作品がサピエンスの間で取引されるごとに、金額の上昇分の一部が著作権料として俺の収入になるだ!不労収入というらしい。サピエンスにはウケが悪いので、ルウトの腰巾着のフリをしている。

しかし、宿泊のお礼として金銭は受け取ってくれないだろうし、芸術家としての矜持が許さないので、ここを旅立つまでに何か作るかなあ。

「よしいいぞ、どんぐり団、勲一等をさずけよう。」

色々集めてくれたお礼に、駄菓子屋でお菓子を買って子どもたちに配る。

みんな1$までのを一つだけだぞ。ケチなのではない。昼ごはん前に沢山お菓子を食べると八櫛さんにめっちゃ叱られるのだ。

お菓子をもらった子どもたちは「でうっさんありがとお~」と礼を言うと、そのまま丘の方に走っていってしまった。

べつに解散ではなかったのだが、得るものを得たらおっさんの相手は終了なのだろう。現金なものだ。


しかたないので一人で探索を続ける。子どもたちのせいで散策が探検になっている。

町の外まで出るとベンダ・マトンが管理する自動圃場があって、かなり大きな規模で整然と同じ農作物が生産されている。この近隣で食べられている食糧の一種類だ。他の町ではまた別の農作物や樹木などが育てられている。

サピエンスの畑は1反地(だいたい1,000平方メートル)くらいごとに違う作物が育っている。日々食べている野菜なんかは、ほんとうにちょっとずつ色々なものが作られていて、モザイクのようになっている。今は晩春でずいぶん暖かいので、どの植物も一生懸命育っているところだ。上から見れれば新緑がきれいなことだろう。


最初に目指してきた空港の近くには加工工場(白い大きなプレハブの建物)があって、生産物の加工も行っている。工場にはなっているが、だだっ広い場所に大きな木樽や調理台があるだけで、AOIの自動工場のように加工機が隙間なく並んでいるわけではない。収穫が終わると、ここに皆が集まって一斉に加工したり貯蔵して熟成させたりするのだ。

サピエンスはいつも言うのだが、「味が違う」らしい。AOIは味見をせずに作っているので、それに比べれば確かに美味しい。でも違う気もする。それにしても、大体のものはいちど塩漬けにするので、全体に塩辛い。


加工した食べ物や竹製品、木製品などは自分たちで食べたり使ったりもしているが、別の町に運んで産品の交換をしている。量が多いので不公平がないよう、貨幣による取引になる。遠い町に運ぶときはS-TALを使っている。ずいぶん昔になるが、いちど乗せてもらったことがある。

風道さんの母親、万珠が畑仕事の合間に操縦士をしていて、たまたま400kmくらい南方の町に交易に行く便に乗せてもらったのだ。

出発するまでの3日間くらいでAOIによる操縦に関する学習プログラムを受けたので、当日は離陸から万珠の監督で操作させてもらった。いわゆる仮免許状態だ。

それで100kmくらい飛んだけど、そこが限界だった。

操縦を万珠に代わってもらい、俺は副座の窓に張り付いて動けなくなってしまった。

地上に見える小さな町、そこから伸びてどこまでも続く道筋、見たこともない廃墟、ダム湖、山、海、海、海・・・

どうしてもそこに行きたくて、どうやって降りようかとばかり考えていた。とんでもない乗客だ。万珠が「冗談でもよしてよ!」を10回くらい繰り返した頃、目的地に到着した。お互いクタクタだった。

もう2度と乗るまい。



町をひと周りして風道さんの家に帰ってくるころには昼になっていた。

縁側では風道さんの息子嫁の泉樹さんとルウトが膝を突き合わせて、何かを睨んで云々言っていた。

未来のAI像は、多分、攻殻機動隊(地上波放送)のタチコマの影響が強いです。


誤字脱字、物語の矛盾などがあれば、修正がんばりますので教えてください。

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