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Artificial Island 人工のユートピア  作者: 花火研究員
5/11

5 3600年 サピエンス

サピエンス


旅は道連れのルウトが色々と昔の話を聞いてくるので、色々と自分語りをする。カッコいいかな~と思って、「まあ、大した過去じゃないよ」とかもったいぶってみたりする。

ルウトが目をキラキラさせるので、かえって恥ずかしい。

・・・142歳だろ、”駆け出し”みたいな目をするなあ・・・とか思うと笑ってしまう。


ディモスは生まれて5年くらいで一通りの基礎学習が終了し、普通、それから数年間、生み親や育て親と一緒に暮らし、15歳くらいまでには自分が進む道を見つけて徐々に親離れしていく。

50歳くらいまでは寝食を忘れて没頭することが多く、自分のペースが判っていないような姿を”駆け出し”と言っている。生活習慣が悪くなりやすいため、AOIによく説教される。

「ほんとに死んじゃう人もいたんだよ!わかってる?」というが、だいたい、疲れれば死ぬ前に眠ってしまうし腹が空けばご飯を食べたくなる。そりゃ、大好きなことをしているんだから集中するし、それこそ「専心」の姿勢だけど、集中しすぎて死ぬなんてありえない。

AOIの説教はいつも大げさだ。


自分も駆け出しくらいの頃は、よくサピエンスの町を旅して創作活動をしていた。

ルウトに出会う前もサピエンスの町にいた。

※正しくは、畑マトンに追われて隠れていただけだが、記憶は美化されている※

今回の旅で最初の町はここだ。ルウトのネストを出て4日くらいで到着する。結構近くだ。


はじめてサピエンスの町を訪れたときは、本当に衝撃だった。

色々と事前に知識としては知っていたが、本当にそうした生活をしていたのだ。

まず、自分で食べるにしては大きな畑を耕して野菜を育てていた。こんなにたくさんどうするのだろうと思ったが、町中の人で食べるらしい。

通常、農産物はAOIが管理するベンダ・マトンが自動農場で生産しているので、わざわざ人の手で育てる必要はない。しかし、自分で育てると愛情が違うらしく、自動農場で作られたものよりずっと美味しいそうだ。

・・・俺には違いが解らなかった・・・

そして、初めて食べたサピエンスの料理は、結構塩辛かったがおいしかった。ここでも「使っている野菜が違うんじゃ」と言われたが、そこではないと思う。

知らない調理方法もけっこうあった。

揚げ浸し?油でカリカリに揚げたあとで、別に作っておいた出し汁(かなり塩辛い)に漬けてシナシナにするのだ!間違っているような気がするが、ご飯と食べると旨くて唸ってしまった。

それにしても、せっかくのカリカリをシナシナにするなんて、何という発想だ!

この町では、パンはお菓子という扱いで、食事ではほとんど食べないらしいが、ちょうど、食房で貰って残していたパンがいい具合に乾いて硬くなっていたので、これを半分に切って挟んで食べた。

「でうっさんは変な食い方をするなあ」といって、世話になっていたサピエンスから笑われた。


サピエンスの町にはネストがほとんどなく、生み親、育て親、その親や兄弟が集まった「家族」という集団で同じ家に住み続けている。旅をしないのだ。

林業と養殖漁業はAOIが管理する自動農場や漁場で行っているが、天然の魚介類を採っていて、養殖では入手できない珍しいものがたくさんあった。これらを専門に採取している人たちが「漁師」だ。採って食べるのが楽しいからしているのではなく、「仕事」として採取している。

彼らにはこの「仕事」という概念があり、ほぼ毎日、何らかの作業を行っていて、「生きがい」だったり「責任」だったりするらしい。この感覚は、俺らにはなかなか理解が難しい。


そんな昔話をしながら歩いていると、降下してくるS-TALが見えた。

「あの銀色の飛行機が着陸する辺りに町があるから、もう10分も走れば着くよ。」

眩しそうに空を見ているルウトに、町が近いことを伝える。

S-TALは滑るように丘の向こうに降下し、イオンジェットの独特の噴射音がその少し後方あたりから遅れて聞こえてくる。

指向性をもたせたプラズマで空気を加熱して推進力とする熱ジェットに似た電力推進エンジンで、NOxが発生するので離着陸のときには少し臭う。

そんな話をすると、「サピエンスはプラズマ臭と言っているが、それは違う。彼らはよくこういった表現を使うが、正しくなので直したほうがいいと思う。」とルウトが硬いことを言い出す。

「もうすぐ雨が降る匂い、とか、鉄の匂いとか、おかしいよな」

本気の顔で言うルウトがおかしくて、つい笑ってしまう。

「おまえはサピエンスの風情が解っていない。」というと、ルウトは神妙な顔になる。

「そうなのか?サピエンスは解っていてこういう比喩表現を使うのか?」

まったく、そういうところだぞ!と言っておく。



そろそろ町に入るというところで、クワの実集めをしているサピエンスの子どもの集団と出会う。

クワはベンダ・マトンが養蚕のために栽培しているが、その実については特に使い道がないらしく、この時期サピエンスの子供や僕たちのおやつになっている。

子どもたちからクワの実を分けてもらう代わりに、来る途中で捕った蜂の子の燻製を差し出す。小さい子はキャーキャーと驚いていたが、味を知っている大きい子どもたちが喜んで食べるので、最後は競い合うようにして食べていた。


子どもたちが帰るにはまだ早い時間だったが、僕たちを案内する、といって一緒に街に入ることになった。特に境界があるわけではないが、道祖神がある場所からが、この町の中になるらしい。

小さい女の子がさっき採ったクワの実を供えているようだったので、食べずに我慢して残していたんだと感心したが、よく見るとどんぐりだった。年をまたいでいるので、だいたい割れてしまっている。



この町の住人はほとんどがサピエンスで、5kmくらいの範囲に3千人くらいが密集して暮らしていて、俺たちとは生活様式が違うためネストは僅かしかない。支調房で空いているネストを照会してもらうこともできたが、どんぐりの少女のおじいが知り合いだったので、何日か泊めてもらうことにした。


風道さん(どんぐり娘のおじい)とは2年ぶりくらいだったが、白髪とシワがかなり増えていた。

庭には万珠もんじゅが大事にしていたつる薔薇がきれいに手入れされていて、満開になっていた。


サピエンスはあっという間に歳を取って会えなくなってしまう。

未来のAI像は、多分、攻殻機動隊(地上波放送)のタチコマの影響が強いです。


誤字脱字、物語の矛盾などがあれば、修正がんばりますので教えてください。

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