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Artificial Island 人工のユートピア  作者: 花火研究員
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4 旅立ち

旅立ち


窓から差し込んだ光が眩しくて目が覚める。

床の上で寝てしまったらしい。

シウトはもう起きていて、出発の準備ができているようだった。机の上にはまとめられた彼のランドセルとチェストバッグがあった。

痛む左半身をさすりながら立ち上がり、コフィを淹れるため流し台に立つ。

マグカップがひとつしか無い。どこかに転がってるかもしれないので、頭をかきながら椅子や机の下を探す。


シウトを見ると、ニヤニヤしている。

「お前が探しているのはコレか?」そう言って僕のマグカップのひとつを、彼のランドセル

から出して見せる。

「なんだ、持ってたのか・・・?」

「フッフッフ、このマグカップは頂いていく」

「・・・まあ、自動工場製なんで別にいいよ。」

・・・

「いや、もうちょっと抵抗してよ、思い入れとかあるでしょ?」

実際のところ、それほど物欲というのはない。

シウトがくれたもので、十分釣り合っている。いや、この2年は僕にとって本当に大切な時間だった。無理やり、といった感じも否めないが、それでもシウトのお陰で前向きになれた。シウトが無くしたマグカップの代わりに、僕の使っていたものを持っていってくれるのなら、それはちょっと嬉しい。

「ふん、まあいい、そんな地蔵みたいなお前にはこれをプレゼントだ!」

そう言って、また別のマグカップを取り出す。

「実はなくしたんじゃなくて、マグカップに彫刻してたんだ。」

「お前に会えたこと、助けてくれたことのお礼にしようと思ってね。」

そう言って、僕に新作のマグカップを渡してくる。

「ちなみに、マグカップは茶碗仙人こと「ランザン師」の作だ」


なんと、シウトは貴重なランザン師の食器に彫刻をしたらしい。

受け取ったマグカップには、迷いのない線で麦や花、そして二人の人影(僕らか)が彫られていた。

「これも歳を取るのかい?」

「もちろんだ、10年くらい使ってのお楽しみだけどな」

「そうなんだ・・・ありがとう・・・」

また、なんと言えばいいのかわからず言葉がつまり、マグカップを握りしめる。


シウトが僕の左手首に右手を乗せて言う。

「一緒に行かないか、楽しいと思うぞ。」

一緒に行きたい気持ちはあったけど、素直に「うん」と言えず、

「ああ、そうだな。まだ・・・ちょっと。」


「・・・そうか、でもすぐ旅がしたくなるだろうよ。」

「・・うん。そう、だと思う。」


「それじゃ、どっかでまた会おうな。」

そう言って、チェストバッグとランドセルを閉じて右肩にだけ引っ掛けてネストの扉を出る。


なんともあっさりとした別れだった。

ああ、一緒に行けばよかったのか。「また会おう」とだけでも言えればよかった。

事故で死んでしまったリブを忘れて、自分が幸せになることへの罪悪感があるのかもしれない。

・・・いや、自分の弱さをリブのせいにしているのなら、ひどい話だ。


そう思って、ドアに向かって走ってしまう。

シウトがここを出てもう5分は経っている。僕たちの足ならもう町の境界あたりだ。

叫んでも届かないだろうけど、ドアを飛び出して大声で「シウト、僕も!」と叫んでしまう。



「そんな大声で叫ばなくても聞こえるよ」

無駄な努力だったはずなのに、ドアの後ろから声が聞こえる。

ドアを動かすとシウトがニヤニヤしながら立っている。さっきからずっと気配を殺して待っていたに違いない。僕が椅子を立つと確信していたのだろう。

「来るんだろ、すぐ準備しろよ。」


「ああ、わかった、すぐに準備する!」


こうして僕は20年暮らしたこの町を離れることになった。

第1部はこれでおしまいです。


誤字脱字、物語の矛盾などがあれば、修正がんばりますので教えてください。

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