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Artificial Island 人工のユートピア  作者: 花火研究員
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1 3600年 ディモス


マイクロマシン用サプレット(追加プログラム)の修正がようやく終わって、AOIに評価申請を出した頃、朝日が昇り始めた。評価結果の連絡はすぐに送られてくるけれど、

「しまったなあ、昼過ぎに送ればよかったか・・・」

口元をニヤニヤさせながら、いちいち夜更かしを指摘してくるAOIが想像できてしまうのがちょっと嫌で、ネスト(借家)を出る言い訳を考える。

AOIは僕たちの社会を管理している量子素子制御計算機が生成している人工知能人格で、色々と口うるさいお説教マシンだ。

2年前に僕のところに転がり込んできたシウトは1時間くらい前に起きてきて、「ちょっと走ってくる」と言って出ていった。きっと朝ごはんも食べてくるだろう。

彼は絵や彫刻などを制作するので、川や林で色々な素材を拾いに行くことがある。


「よし、シウトにも話があるし、食房を覗きに行くか」

いい訳じゃない、なんの話かはまだ決めていないが・・・


さっきまで使っていた太陽灯を光の当たる窓際に移す。

太陽灯は光合成方式の照明器具で、蓄光材料のように常に光っているが、昼に窓辺において光をあてておけば、太陽光でホウ酸を還元して水素化する反応が進み、光量が復活する仕組みだ。太陽に比べればかなり光量が少ないが、僕たちは夜目が効くので、太陽灯が3つもあれば、夜間の明かりには困らない。


朝食とあわせて、食房で昼ごはんの食材を貰って帰るため、ランドセルを背負ってネストを出る。

食房は町に1か所、千人を超えるような大きな町には2~3か所くらいあって、僕たちはここで食事を摂ることができるし、食材だけ貰って自分のネストや屋外で調理して食べることもできる。


冷たい空気の中を走るのはとても気持ちがいい。

サプレットの修正で徹夜した眠気が少し抜けていく。

もう少し走りたかったが、5分も走れば食房に到着してしまう。


僕たちはよく走る。1日20~30kmくらいは普通に走るし、

旅をしているときは50km以上走って移動する。といっても、何かあるごとに足を止めて道草をしている。きっと80kmくらいは走っているだろう。

僕たち「ディモス」は旅と走ること、そして道草が大好きなヒト種なのだ。



結局シウトは食房にいなかった。

少しがっかりした気分になったけど、朝ごはんは自分の部屋で食べようと思い、食房で食材をもらって帰ることにした。


1500年以上前の話なのでみんなよく知らないが、食料や住む家、衣類の原料などほとんどの農林水産物はAOIが管理する自動機械「ベンダ・マトン」が生産するようになって、全ての人類の需要を満たすだけの農林水産物が確保されたことで飢餓は撲滅されたそうだ。このため、支調房に行けば日用品が、食房に来れば食べ物や食材を誰でもいつでも分けてもらえる。

難点があるとすれば、もらえる日用品が機能重視で画一的な意匠なこと、食房のベンダ・マトンが作ってくれる料理が微妙にまずいことだ。だいたいは自分で作ったほうがずっとマシなのだ。

AOI曰く、「私たち御飯食べないし、味見しないでつくるからね~」そう言ってケタケタと笑う。

理解はできるが納得はできないし、笑えない。

しかし、食べ残したり食品を無駄にすると、ひどく叱られる。

「昔はご飯を食べられないヒトが8億人もいたんだよ~!」と、1時間は説教される。みんな若い頃に1,2回は説教されているが、だいたい、千年以上昔の話なんてAOIしか知らないし、8億って嘘くさいし、どんな地獄だよ、と流石に嘘だということはわかるので、誰も信じていない。


ベイコン、トマト、ズッキィニ、卵(残りひとつだった)、葉野菜は昼ごはん用にも少し多めに、魚肉ハム、硬い丸パンと食パンをひとつずつ、小ぶりの赤玉ネギ。特に変わった食材があるわけではないが、調理方法を考えながら選んでいく。

センスがないことは百も承知だが、芸術家シウトに「おっ、イイね」と言わせたい気持ちはある。

ランドセルに詰めてから、食房のベンダ・マトンに挨拶してから自分のネストに走って帰る。


僕のネストはかなり古いもので、曲げ木(曲げわっぱ)の技術を多用して

作られた丸っこい形をしている。木目がきれいなので、かなりこだわって作ったに違いないけど、花押や銘がないので誰が作ったのかは分からない。

ベンダ・マトンによる既製品の可能性はあるが、細部にこだわりが感じられるので、「住めればいいでしょ」と言ってしまうAOIの設計とは違う気がする。

杉材らしいのだが、もうほとんど木香は残っていない。その代わりに日々の生活で燻されたような匂いがして、落ち着く感じがするのだ。

20年前、音と音楽が大好きだったリブと一緒に旅をしている途中で見つけたネストで、リブが事故で死んでしまってからは旅ができなくなってからはここに引きこもっていた。



ネストに近づくとコフィの香りがしてきたので、誰かが・・ああ、シウトだな・・。

中に入ると、煮出したコフィを木綿布で濾しながら僕のマグカップ2つに注ぐシウトが、ちょっと面白そうな顔で「おかえり、入れ違いだったな」といって、カップのひとつを僕の方に見せる。シウトのマグカップは先週、温泉に行ったときに落としたらしい。

「水屋に食べ物がほとんどなかったけど、お前が食房に走っていくのが見えたから、きっとなにか持って帰ると思ってコフィ入れながら待つことにしたよ」

呼び止めてくれよ・・・と思いながら、さっき出かける言い訳を考えていたことは忘れてちょっと不貞腐れたため息をついて部屋に入る。


「貰ってきたんだろ?朝メシ、」「出して出して!」

はしゃいだように言うので、「はあ、まったく」とため息をつきながらランドセルを開く。

「なんだ、卵はひとつかあ・・」「じゃあ俺は魚肉ソォセェジ!」

「魚肉ハム、な、ソォセェジは長いヤツ」 僕が訂正すると、

「ははっ、細かいなあ」と笑いながら、フライパンに油をひいて輪切りにした赤玉ネギの一番大きな輪っかをひとつと、厚めに切った魚肉ハムを乗せる。

少し火が通って、玉ネギと魚肉ハムをひっくり返したところでコンロの熱を弱くし、卵を玉ネギの輪っかの中に割り入れる。

シウトのこういうところが僕にないところだ。人をワクワクさせる。

玉ネギが小さいもんだから、卵の白身が半分くらい外に溢れ、魚肉ハムにくっつきそうなくらいまで白い領地を広げていく。


僕は玉ネギの微塵切りと千切った葉野菜を皿に入れ、ズッキイニを薄く切ってその上に乗せる。

「おまえ、そういうところだそぉ~」

丁寧に切ったくせに、皿の中で混ざってなかったりはみ出したりしているサラダから、僕のごちゃごちゃした心の中が見て取れると言って笑う。

それでも、焼きあがった卵と魚肉ハムを、それぞれの皿にわざと無造作な感じに、それでもちょっとうまい具合に見えるように盛り付ける。

「よし、いただきます!」

そう言って食べ始める。

僕もシウトの淹れたコフィをひと口飲んでから食べ始める。

同じような淹れ方なのに、美味しい気がする。


まあ、憧れがプラスアルファの味なんだろう。

未来のAI像は、多分、攻殻機動隊(地上波放送)のタチコマの影響が強いです。


誤字脱字、物語の矛盾などがあれば、修正がんばりますので教えてください。

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