幸せの星空シチュー
そしてついにやってきたロイ様の誕生日。
私たちは朝から大忙しで、夕方までに精一杯の飾り付けと料理の仕込みを進めていく。
私はメインのシチューに全力で、命をかけて真剣に向き合い、カリフさんは他の料理とケーキを手作りしてくれた。セリアちゃんやゼノンくん、レスタリさんもケーキの飾り付けを手伝い、グレタさんにメレルさん、マダム・シシリアにピオニーさんは会場を綺麗な花々で彩ってくれた。
そして陽が落ちてきた頃。
約束通り夕食前には帰ってきてくれたロイ様の腕を引っ張って、私はパーティ会場である広間へと足を進めた。
「ちょ、ふぇ、フェリシア? 一体どうしたんで……」
ロイ様の言葉を無視して、私は力一杯扉を引きあけた──。
パンッ!! パンッパンッ!!
「ロイ様、お誕生日おめでとうございますっ!!」
「ロイ、おめでとぉー!!」
テト様お手製の筒状花吹雪砲が音を立てたと同時に部屋の中を花吹雪が舞い降り、なぜか筒の中から花吹雪とともに鳥まで出てきて部屋を飛び回る。
そして花吹雪まみれになりながら、その様子を呆然と見つめるロイ様。
動かない。
微動だにしない。
もしかしてサプライズパーティ失敗?
いつまで経っても動かないどころか表情の変わらないロイ様に不安になった私は、彼の服の裾を引いて声をかけた。
「ろ、ロイ様? あの、お気に召しませんでした……か?」
尻すぼみになっていく私の言葉に、はっと我に帰ったロイ様は、すぐに首がもげるんじゃないかというほどの勢いで左右に首を振って否定の意を示した。
「ち、違います!! その……驚いて……。まさかこんな……」
混乱中のロイ様にカリフさんがグラスを手渡しながら、
「毎年自分の誕生日も仕事してる誰かさんの誕生日をちゃんと祝いたいって、フェリシア様が企画してくれたんすよ」
とニンマリ顔で続ける。
「気心の知れない人を集めたパーティは逆に疲れさせるだろうからって、俺たち使用人とマダム・シシリア、テト様とウィスっていう、気心の知れたメンバーだけで。しかもこのシチュー見てくださいよ!!」
「シチュー?」
カリフさんがロイ様を真ん中のテーブルへと誘導し、ロイ様のサファイアの瞳が私の作った星空のシチューをとらえた。
「これは……」
「これ、フェリシア様が作ったんすよ」
「フェリシアが!?」
声をあげこれでもかというほどに目を見開いて私に視線を向けたロイ様。
料理をする素振りも見せたことはなったから、ロイ様が驚くのも無理はない。
「そ。もう毎日毎日、若に内緒で猛特訓したんすから。包丁さばきは文句なしなんすけど味付けが破滅的で、ソース作る時に爆発させて火傷したり、なんか食べ物じゃないものも出来上がったりもしたけど……」
「ちょ、カリフさん!! そこは言わなくて良いですっ!!」
なぜ実家で作っていた時誰も進んで食べようとしないのかがわかった。
私は味音痴なのだ、それも破滅的な。
恥ずかしくなって両手で顔を覆う私の隣から、「っ、だから最近、フェリシアの手に傷が出来ていたんですね」と小さくつぶやく声が落ちた。
「そ、その……。ロイ様のお母様には及ばないとは思いますが、どうしてもロイ様の好きだというものを作りたくて……」
「フェリシア……」
「ほれ、ラブラブしてないで、座って食べてみてください。フェリシア様の愛妻シチュー」
そう言ってカリフさんがロイ様の椅子を引けば、ロイ様は無言で頷き椅子に腰掛け、スプーンでひとすくいしてシチューを一口口の中へと運んだ。
ごくり、と喉が鳴ってロイ様の身体の中に私の作ったシチューが通っていく。
「っ!! 美味しい……!! フェリシア、すごく美味しいです……!!」
「本当ですか!? よかったぁ……!!」
ロイ様は感想を述べるとすぐにまたひと口、またひと口と、口の中へとシチューを流し込んでいく。
こんなに幸せそうに食べるロイ様を、私は初めて見たような気がする。
少しだけ幼さを含んだ、嬉しそうな笑顔。
きっとこんな笑顔で、ご両親とも食事を楽しんでいたんだろう。
「フェリシア、私のためにこんなに頑張ってくれて、ありがとう……。皆も、礼を言う。ありがとう」
私の手を取り優しく瞳を細めてから、ロイ様は周りの皆にもお礼の言葉を述べた。あのいつも無表情なロイ様の柔らかい表情に、使用人の皆も照れ臭そうに笑顔を向ける。
このお屋敷は、本当に暖かい場所だ。
あらためて、ロイ様の妻になって、皆の家族になれたことが幸せだと感じる。
皆でわいわいと食べる食事はとても美味しいものだった。
カリフさんとセリアちゃんはいかに私の料理が酷くて私がそこから努力したかをロイ様に語ってきかせ、ピオニーさんは私が懸命に会場の飾り付けの花を選んでいた様子を事細かに教え、ロイ様はその一つ一つに耳を傾け、時々驚いたり表情を柔らかくしたりしながら、会話と料理を楽しんでくれた。




