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7/2発売【アイリスIF大賞銀賞】氷の騎士団長の飼い慣らし方〜婚約破棄されたら憧れのイケボ騎士団長様と魔法の首輪で繋がって溺愛されました〜  作者: 景華
【第二章】

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ロイの幸せな記憶


 カリフさんの作ってくれた美味しい夕食をロイ様と一緒にいただいて、身支度を終えてから少しの間ベッドの上で会話を楽しんで、おやすみの口づけをしてから眠りにつく。

 

 けれど色々あって心も身体も疲れているはずなのに目だけは冴えてしまってどうしても眠りにつけなかった私は、右に向いたり左に向いたりと忙しなく向きを変えていた。


「フェリシア? 眠れませんか?」

「ロイ様……。ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」

 気がつけば私の様子を隣でサファイアの双眸そうぼうが見つめていた。


「大丈夫ですよ。あんなことがあったんです。眠れないのも無理はない」

 おいで、と広げられた腕の中へ、ためらいながらも身体を滑り込ませると、ロイ様の温もりが私を包み込んだ。

「あったかい……」

 更なる温もりを求めて彼の胸に擦り寄れば、頭上でロイ様の喉がゴクリと鳴った。


「私の理性がまたも試されている……」

「? ロイ様?」

「あ、いえ、なんでもありません。少しは落ち着きましたか?」

「はい。ありがとうございます」


 胸の中にあった不安や恐れが少しずつ消えていく。

 ロイ様に癒し効果まで備わっているだなんて……なんてハイスペックなのかしら、うちの旦那様。


「それはよかった。不安は、無理になくそうと思えば思うほど大きくなってしまいます。だから不安に飲まれそうな時は、楽しいことを考えるのが1番です」

「楽しい、こと……? ……なら、ロイ様のことを考えている時ですね」

「私のことを?」

 私から飛び出した予想外の答えに、ロイ様は驚いたように聞き返した。


「はい。ロイ様のことを考えていると、ほっこり温かくなります」

「そう、ですか……。なら、私のことで何か聞きたいことでもあればお話ししましょうか。今更のような気もしますが」

 出会ったばかりの男女というわけでもないですしね、と困ったように笑うロイ様に、私は食い気味で「教えていただけるのならば是非とも!!」と彼に詰め寄った。


 出会ったばかりというわけではないけれど、ロイ様に関しては知らないことが多すぎる。

 こっちが聞かないとロイ様は自分からは話さないだろうし、これはロイ様を知るチャンスだ。この手を逃してはならない!!


「私たちは夫婦ですが、私、ロイ様のこと知らなさすぎるんです。だから時々不安になります。ボニアさんのことでも、私の前ではケーキを食べたことなかったから、てっきりケーキはそこまでお好きでないと思っていたのに違ったのかなと、ロイ様のことを何も知らない自分がショックでしたし……」

 実際はそこまで好きというわけではなかったということは話の中で教えてもらったけれど、やっぱりそれでも知らないことが多いのは嫌だ。


「なるほど。すみません。私は、あまり感情表現が得意ではないですし、自分から自分のことを語ることもないので、不安にさせてしまいましたね。いつでも、なんでも聞いてください。あなたには、嘘偽りなく答えますから」

 安心させるように頭を撫でながら穏やかな瞳で見つめてくれるロイ様。

 甘やかされている。あの氷の騎士団長様に、甘やかされている……!!

 こんな贅沢会っていいのだろうか……!!

 でも今はこのまま、甘えさせてもらおう。


「あの、じゃぁ……ロイ様の好きな食べ物と嫌いな食べ物はなんですか?」

 今最も重要なこと。

 誕生日パーティの食べ物を決めるのに、情報収集をしなければ……!!

「え、好きな食べ物と、嫌いな食べ物、ですか? ……特には……」

「無いというのは無しで!!」

「うっ……。嫌いなものは本当に特にないんです。幼い頃は酸っぱいものが苦手でしたが、今はもう大丈夫ですし」


 酸っぱいものが苦手なちびっこロイ様……!!

 絶対可愛い……!!


「好きなものは……そうですね……カリフの作るものは本当になんでも美味しいと思うのですが……一つだけ、それ以上に好きなものが……」

「それ以上に?」

 カリフさんの料理以上に好きなもの?

 いったい何なんだろうか?

 興味津々でロイ様の言葉を待つと、ロイ様は少し照れ臭そうにゆっくりと口を開いた。

「……母の作ってくれた、シチューです」

「!! お母様の?」

 ロイ様は少しだけ眉を下げてから小さく頷く。


「はい。母はシチューが大好物で、シチューだけは自分で作って、よく私たちにも振る舞ってくれました。それがとても嬉しくて、美味しくて……。私は今も、母が作ってくれたシチューが忘れられないのです」

 そう語るロイ様の表情は穏やかで、幸せそうなお顔に見えた。


 お母様のシチューか……。

 だけどお母様はもういない。作ってもらうことは不可能だ。

 きっとロイ様にとっては、お母様が作ってくれたという記憶があるからこそというのもあるのだろう。

 そこは私にはどうにもできない。


 でも、幸せな記憶をロイ様にもう一度感じてほしい。


「ロイ様、そのシチューは、色は白でしたか? 茶色でしたか? それとも別の色?」

「え? えっと、茶色、でしたね」

 ということはビーフ系か。


「不器用な母が、一生懸命私のために星形に野菜が切ってくれて……ぷかぷかとシチューに浮かぶ野菜の星を皆で楽しみながら食べていました。父は指をボロボロにしながらも自分で作ったシチューを頬張る母を愛おしそうに見つめて……。私は、そんな仲のいい2人を見るのが好きでした」

「素敵なご夫婦だったんですね」

「……はい。とても」


 だからこそ、突然2人同時にいなくなった時のロイ様は絶望しただろう。

 幼いロイ様を思うと、胸が痛む。

 私はたまらなくなって、ぎゅっとロイ様の胸元にしがみついた。


「フェリシア?」

「……ロイ様。私たちも、ロイ様のご両親のように仲睦まじい夫婦になりたいですね」

「フェリシア……。……はい」


 それから私は、眠気が訪れるまでロイ様に質問をし続けた。

 主に食べ物についてだけれど、ロイ様は一つ一つ考えながらも丁寧に教えてくれた。


 そして話している間に、私の意識はまどろみの中へと溶けていってしまったのだった。


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