二つの色を混ぜ合わせて
「私も、ロイ様を守ることができたら良いのに」
意識せずしてぽろりと口から出て行った言葉に、マダム・シシリアが優しく目を細める。
「大丈夫ですわ。ぼっちゃまは、もう十分あなたに守られているのですよ。……そうだわ!! 心配でしたらこちらの魔法糸で刺繍をなさってはいかがでしょう?」
そう言ってマダム・シシリアは、たくさんの糸が詰まった棚の引き出しを引きあけ、引き出しごと机の上へと持ってきた。
中には色とりどりの糸がぎっしりと詰まっていて、心なしかキラキラと光り輝いているように見える。
「あの、魔法糸、とは?」
「魔法が込められた特殊な糸ですわ。全て宮廷魔術師であるテト様が魔法を付与されたもので、この魔法糸で魔法陣が刺繍されたものを身につけると、一度だけその魔法陣の効果を発生させることができるんですのよ。全ての魔法陣に効果があるものにしてしまうとよからぬことを企む輩もいるので、テト様があらかじめ効果が出るようにした【一度だけ攻撃から身を守ってくれる魔法】【あたりを光で照らしてくれる魔法】【探し物を見つける魔法】のみですが」
【一度だけ攻撃から身を守ってくれる魔法】──。
騎士団の任務で戦うこともあるロイ様にはピッタリかもしれない……!!
「こ、これをください!!」
「ふふっ。了解いたしました。何色にいたしますか?」
何色だろう。
ロイ様はとっても落ち着いた方だから、黒──いや、それでは黒に黒で刺繍が埋もれてしまう。
白?
……なんかイメージと違う。
なら氷の騎士団長らしく水色……は、派手な色よりは良いんだけども、なんだか少し違う気がする。
私は糸を一つ一つ取り出して剣帯に当てながら、ロイ様がそれをつけている姿を想像していく。
落ち着いた色で、埋もれなくて、でも主張しすぎない──これだ……!!
銀色の魔法糸。
ロイ様の銀髪と相まってきっととても素敵だと思う。
「これを──……あ、あと、こちらも」
そう言ってもう一つ私が選んだのは、薄い金色。
プラチナブロンド──私の髪色だ。
2人の色を使って、守りの魔法陣を施す。
私の思いが、彼を守ってくれますように、という願いを込めて。
「まぁ、素敵ですわ。剣帯はこのフェザードラゴンのものでよろしいので?」
「はい。せっかくロイ様が頑張って倒したんですもの。ロイ様のために使いたいです」
「ふふ。わかりましたわ。ではお包みしますわね。ご請求は──」
「あ、私、お金持ってきたのでここでお支払いします」
実家であるグラスバード伯爵家には「働かざる者食うべからず」という家訓がある。これはどこか遠い国のどこか遠い世界から来た異世界人が言っていたことから広まった言葉らしいのだけれど。
お手伝いや何らかの仕事をしてお金を稼ぐのが当たり前だった。
特に無駄遣いすることなく、小さな頃からお手伝いをしてコツコツ貯めたお金たち……。
今こそ君たちを使う時が来たわ!!
「まぁまぁっ。わかりましたわ。ではこちらが請求になります。私はお包みしてきますわね」
そう言ってメモにサラサラと金額を書いて破り私に手渡してから、選んだ商品を抱えて部屋から出て行ったマダム・シシリア。
えーっとどれどれ?
…………え……?
高っ!!
0が2桁違う!!
内訳を見ればフェザードラゴンがそのほとんどの金額を占めていた。
そ、そうよね。
ロイ様が18の時に狩って以降、今まで買い手がいなかったくらいなのだものね。そりゃ高いわ。
うん、大丈夫。
足りる。
ギリギリ足りる。
こうして私は、自分の長年貯めてきたお金をほぼ全て使い果たし、剣帯と糸を手に入れたのだった。




