AFTER 少年は大人になる〜SIdeゼノン〜
たくさんの応援ありがとうございます……!!
本日2度目の更新!
単体番外編After!!
初恋はある日突然やってくるものだ。
そんなふうに楽しげに僕に話して聴かせたのはカリフだったか。
あの母国の内乱で父母を亡くしてから、僕の世界は双子の姉のセリアだけだった。
自軍の奴らに父母が殺されてから、僕はセリアを連れていろんな場所を歩き回った。
食べ物を求めて。
水を求めて。
生きるために。
軍人に見つかって危ない目にもあったし、子どもだからとだまされせっかく調達した食料を奪われたこともあった。
それでも生きようとしたのは、必死で明るくして僕を慰めようとするセリアがいたからだ。
ミスティアの騎士が内乱の仲介に入り、内乱が収まった頃。
僕たちはミスティアとの国境の街に流れ着いた。
そこで出会ったんだ。
──若様に。
何を思ったのか僕たちを育てると言って連れ帰った若様は、ちょうど屋敷に来ていたテト様やウィスに俺たちの怪我の手当てをさせ、風呂に入れてくれ、清潔な衣類を与えてくれた。
正直あの時はまだ、この親切には裏があると疑っていたけれど、そんな裏などどこにもなく、若様は僕たちに部屋も与え、勉強する時間も与え、仕事を与えてくれた。
屋敷で暮らす人々も皆、若様に似て、いや、若様以上に変な大人達ばかりだった。
僕たちはそんな変な大人達に囲まれながら、暖かい場所で、落ち着いた暮らしを手に入れた。
今となっては若様には感謝しかない。
そんな若様がある日突然呪いで女と繋がれたと聞いた時は、僕もセリアも心の底から心配した。
若様の女難はカリフから聞いていたからだ。
だから、過去に若様を襲った女達のようなやつだったら、僕たちが物理的に切り離してやろうと思っていたのだけれど……。
紹介された女は、なんていうか、普通、だった。
若様に一方的に想いを押し付けるような女じゃなく、うまくいえないけれど、嫌ではない女、という印象だった。
それどころか、この人なら、とも思えた。
若様の彼女を見る目が、完全に愛おしいものを見るような目をしていたからだ。
前に、若様が未だ女性と付き合うことなく婚約も断り続けているのは、心に決めている人がいるからだとテト様から聞いたことがあった僕は、この女──フェリシア様こそがその若様の思い人なんじゃないかと瞬時に悟った。
よくわからないけれど、若様も、そしてこのフェリシア様も、お互いがお互いに恋をしている。
そんなふうに思えてならなかったけれど、奥手で真面目な2人はそんなに急速に距離が縮まるわけでもなく、僕たち使用人も随分とやきもきさせられた。
ある日、若様とフェリシア様に夕食の準備が整ったことを知らせに部屋に伺った俺は、飛び込んできた光景に目を疑った。
なんとあのいつも隙のない若様が、フェリシア様の肩にもたれかかって眠っていたのだ。
「……若様が誰かの前で寝ているの、初めて見ました」
何も考えることなくぽつりとつぶやいた言葉に、僕がまさか声をかけるとは思わなかったのかフェリシア様がしどろもどろになりながら「え、あ、そう、なんですね」と答えた。
「きっと、フェリシア様のこと、心から信頼しているんでしょうね」
「え?」
キョトンと目をまん丸くしながら、フェリシア様が小さく声を漏らす。
あぁ、これは……。
僕は表情に感情を乗せるのが得意ではない。
だからか、僕が誰かに嫌悪感を抱いているとか誤解されることが多いのだけれど……フェリシア様のこの顔は、きっとそんな誤解をしている表情だ。
この人はすぐに顔に出るからよくわかる。
「フェリシア様、僕があなたを嫌ってるんじゃないかと思ってますよね? 違いますから。全然。むしろセリア同様、若様と繋がったのがあなたで本当によかったと思うくらいには、歓迎しています」
これは本心だ。
この人だから、僕もセリアも、物理的に切り離すような強硬手段を取らずに済んでいるのだから。そんな本心を伝えたところで、フェリシア様はどう受け取るべきかと戸惑っているようだけれど。
「フェリシア様は面白いくらい顔に出ますね」
「ふぇっ!?」
「僕は感情表現がセリアのように豊かではないので、この顔で申し訳ないですが、嘘は言いません」
そう言ってみれば、フェリシア様は少しだけはっとしたような顔をして、それからシュンと肩を落とした。
「あ……。気を悪くさせたならごめんなさい」
素直か。
「大丈夫ですよ、当然の反応ですし」
真面目に謝ってくれるフェリシア様。
だけれど、感情の起伏が少ない僕の感情を読み取れるのは、セリアと、そして若様、仕事仲間だけだ。
多分仕事仲間達ですら、時々よくわかっていない。
それくらい僕の表情を読み取るのは難しいんだから、この間来たばかりのフェリシア様がわからないのも無理はないのだ。
無理はないのに。
少しだけ胸に刺さるのはなんでだろう。
不思議な感覚に戸惑っているとフェリシア様の口が再びゆっくりと開かれた。
「いいえ。当然なんてないと思います」
それは静かな否定の言葉。
「よく見れば、わかるはずだったのに」
どこか思い詰めたように伏せられた視線。
「ゼノン君、私を歓迎してくれて、受け入れてくれてありがとうございます」
そう言いながら、僕の手を取ったフェリシア様。
「フェリシア、様?」
何?
この手の温もりは。
何?
そのありがとうは。
全てが予想外すぎて、自分がとてつもなく戸惑っているのが自分でもわかる。
わかりやすい女のくせに、わからない。
「ゼノン君、さっき、ロイ様と繋がったのが私でよかった、って言ってくれましたよね?」
「はい。それが何か……」
「私もロイ様のそばにゼノン君たちがいてくれてよかったです。ここにいてくれて、ロイ様を支えてくれて、ありがとう。ロイ様を一人にしないでいてくれて、ありがとう」
「っ……!!」
違う。
僕が支えていたんじゃない。
僕が支えられていたんだ。
僕が助けてもらったんだ。
ひとりにしないでくれたのは、セリアであり、若様なんだ。
それでも……。
そうか、僕も若様の役に立っていたんだ。
それを当然のように伝えて感謝の言葉をくれたフェリシア様をもう一度見ると、僕の体温はこれ以上ないくらいに急上昇した。
なんだこれ。
知らない。
こんな熱くて、恥ずかしい感じ。
僕はこれ以上フェリシア様に今の僕を見て欲しくなくて、
「ゆ、夕食、冷めないうちにここに持ってきます。フェリシア様はロイ様をお願いします。そ、それではっ」
と逃げるように部屋から出て行ってしまった。
部屋から出てもまだ熱い頬に自分の手袋越しの手を当てる。
「……気のせいだ。そうじゃない。気のせい、だ」
ぶつぶつと唱えながら、僕は冒頭の言葉を述べた張本人を訪ねて厨房へと向かったのだけれど……。
翌日、パーティから早々に帰ってきた2人の様子を見て、ストン、と何かが心の中ではまった。
あの穏やかな光景が日常になる日が近くなったんだと。
それと同時に、僕のほんの少しの熱を持った感情にちくりとした痛みが落ちた。
そういえばカリフはこうも言っていたな。
【初恋は実らない──】
まぁ、実った例が、今目の前にあるのだけれど。
僕の好きな2人が、このまま幸せになってくれたならいいなと思う。
けど──。
まだしばらくは、【待て】でいてほしいと思うくらいは、許してほしい。
【AFTER 少年は大人になる】END
ゼノンくん、個人的にめちゃくちゃ好きなキャラなのでつい書いてしまいました!!
無表情ショタの初恋は主の想い人(;//́Д/̀/)'`ァ'`ァ
次回からは婚約~結婚の数話続き物になります。
お楽しみにっ^ ̳> ̫ < ̳^❤︎




