私だけの可愛いご主人様
本編完結!!
皆様ここまでありがとうございましたぁぁ!!
城から出て足早にレスタリさんが待つラゼルディア公爵家の馬車へと乗り込み、私たちは互いに無言のまま、だけど手だけはしっかりと握られた状態でラゼルディア公爵家の屋敷へと戻った。
そして馬車から降りるや否や、私は手を引かれるがままに私たちがいつも使用している、本来なら使われる予定のなかった公爵夫妻の部屋へと連れられた。
ベッドサイドの小さな明かりだけが灯る薄暗い部屋で二人きりになって、あらためて先程の出来事が脳裏によみがえってくる。
視線は自然とロイ様の薄い唇へ──。
私……あの唇に……!!
思い出すだけで顔が熱くなる。
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのはロイ様だった。
「先程は……すみませんでした。唇を簡単に許してはいけないと言いながら、あなたに無体を働かないと誓いながら、突然あんなことを……」
気まず気に私を見つめて、ロイ様が頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。
「い、いえ!! 大丈夫です!! その……あの場を収めるためですよね? 大丈夫!! わかってますから!!」
「場を……って、ちょっ、ちょっと待ってください!! そこは誤解の無いように言っておきますが、私は場を収めるためだけに女性に口付けるような軽薄な男ではありません!! …………突然、あんなことをした後で何なんですが……」
私の言葉を力一杯否定し頬を赤く染めて視線を漂わせた後、意を決したようにロイ様は私に向き直った。
「……フェリシア・グラスバート伯爵令嬢。私は、あなたをお慕いしております。──10年前から……ずっと……」
「!!」
時が止まったように思えた。
今、なんて言った?
夢?
それとも私の妄想?
あれこれ考えるけれど、目の前のロイ様の瞳があまりにも真剣そのもので、引いたと思っていた熱が私の身体に再燃していく。
「あ……あの、10年前って……?」
そもそもそこからわからない。
10年前って8歳の頃よね?
ロイ様は確か私の5つ上だから当時13歳。
その頃に私、ロイ様とお会いしたかしら?
「あぁ……。そうですね、そこの説明がなければわかりませんね。……10年前、私が13歳の時。あの日私たちは初めて話をしました。私の父母が馬車の横転事故で亡くなった翌日のことです。あの横転事故で亡くしたのは、父母だけではありません。私の乳兄弟である、メレルとシシリアの息子、そして御者だったレスタリの祖父も一緒に亡くなっているのです」
「メレルさんとシシリアさんの息子さん? それにレスタリさんのおじいさまも?」
驚き声をあげる私に、ロイ様は小さく頷いて続ける。
「レスタリもその馬車に乗っていたのですが、彼は奇跡的に生き残りました。葬儀の場では、レスタリやメレル、シシリアの手前、私が当主になるのだから気丈に振る舞わねばと気を張っていましたが、やはり突然一人になった私は心細かったのでしょう。葬儀の翌日、私は1人、父母の墓の前でうずくまっていました。しばらくそうしていたら──いつの間にか小さな女の子が、私の隣で私に寄り添うように座っていたんです。白いドレスを着たプラチナブロンドの髪の可愛らしい女の子が──」
まるで幸せな記憶を噛み締めるように目を細めて語るロイ様。
「その女の子に気づいた私は、流れていた涙をゴシゴシと拭いて誤魔化そうとしました。さすがに年下の女の子の前で泣くなんて恥ずかしいですから。ですがその女の子はそんな私に、自分のドレスと同じ真っ白いハンカチを手渡して、『たくさん泣いたら良いと思います』と言って優しく微笑んだんです。それから私は、年下の女の子の前でたくさん泣きました。今思い返せば、やっぱり少し恥ずかしいのですが……。でも、あれがあったから、私は前に進むことができました。その子はその日、婚約式をしたのだと言って、その瞬間に私の初恋は敗れ去ったわけですが……。……その女の子があなたです。フェリシア」
わ……私が……?
でも確かに私、その記憶あるわ。
婚約式の後、とっても綺麗な男の子と、お墓の前で話した記憶。
朧げだけれど、確かに銀色の綺麗な髪をしていた。
「あの時の美人さんがロイ様!?」
「ふっ、美人さん、ですか」
私の反応に吹き出すロイ様を見て、私は口をぱくぱくさせながら言葉を失った。
驚くのも無理はないだろう。
だって微かに記憶に残る男の子は、すごく線が細くて、儚い美人な女の子と言った方がしっくりくるような子だったのだもの。
まさかこんなにいい筋肉をした色気たっぷりの男性になるなんて思わないじゃないか。
「婚約者がいるとわかっても、どうしてもあなたを諦められず、この歳まであなただけを思って生きてきました。正直、あのパーティーであなたに声をかけられた時、幸せすぎて顔面崩壊を起こすところでしたし。それに、こんなことになって、むしろ嬉しかったというか……」
口元を自身の手で覆い、真っ赤な顔で視線を逸らすロイ様がなんだかとっても可愛く見える。
そしてロイ様は、私の足元に片膝をついて跪いた。
「……フェリシア。順番がめちゃくちゃになってしまいましたが、あらためて私の気持ちを伝えさせてください。私は、あなたのことを愛しています。私と、この先の人生も共に歩んでいただけませんか?」
まるで御伽噺の王子様のような姿に、大きく胸が高鳴る。
撒かれたままだった種は長い年月をかけて芽を出し、今やこれでもかと言う程に大きく花開いてしまった。
だから考えるまでもない。私の答えは、もう決まっている。
「ロイ様。……私も、昔街で助けていただいた日から、ずっとあなたに憧れていました。私には婚約者もいましたし、私なんて平凡で可愛げもないので、ずっと遠くから見つめるぐらいでしたが……。その……私も、ロイ様のことをお慕いしております。私でよろしければ、喜ん──んぅっ!?」
私の言葉はロイ様の二度目の突然の口付けによって、彼の唇へと吸い込まれていった。
さっきの口づけよりももっと深く、熱い口付けに、立っているのもやっとだ。
あまりにも長く唇をついばむように角度を変えながら口付けられた私は、ロイ様の唇が離れ、再び落ちるまでの一瞬の隙を狙って声をあげる。
「ま、【待って】!!」
「っ!!」
硬直するロイ様の身体。
もう首輪はないのに、どうやら身体に染み込んだ忠犬の本能はすぐに反応してしまったようだ。
「っはは!! やっぱりあなたは、私の【ご主人様】です……!! っははは!!」
目に涙を浮かべながら可笑しそうに笑う氷の騎士団長に、私はぷくっと頬を膨らませて「その呼び名はやめてくださいっ」と顔を背ける。
【ご主人様】って……。
なんだかイケナイ関係みたいじゃない。
恥ずかしすぎる!!
「ふふ、すみません。でもこの私を従わせてしまえるのはあなたぐらいですよ。──フェリシア、愛しています。私の……私だけの可愛い【ご主人様】──」
そう言って再び私の唇にロイ様のそれが重なって、抵抗することをやめた私は、その唇の温かさを受け止め続けるのだった──。
【END】
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景華




