お手をどうぞ、ご主人様
そして今日はついにレイシア王女16歳の誕生日パーティの日。
私は首輪と鎖で繋がっているので、ロイ様のパートナーとしての参加だ。
憧れの人とパートナーになれる日。
だけど少しだけ億劫になっている自分がいる。
だって、今回のパーティーの主役レイシア王女がロイ様に夢中なのは、噂だけでなく先日実際にお会いしてもひしひしと伝わってきたのだから。
そして私はかの方からしたら明らかに邪魔者だ。
今のところ婚約話はまだ進んでいないようだけれど、それも秒読みなのではないか。そんな噂は、私たちがこんなことになったあのパーティーでも聞いた。
それが胸の中でぐるぐると回っては私の心にほんの少しの痛みを加えていく。
朝からロイ様がサニタリールームで待つ中、浴室でピカピカにグレタさんに磨き上げられ、オイルを塗りたくられた。
そしてその後はマダム・シシリアに仕立ててもらった綺麗な青いドレスを着させてもらい、セリアちゃんとピオニーさんが2人がかりで私の髪を結いながら生花とリボンを組み込んでいく。
合間にカリフさんが焼き菓子を届けてくれ、休憩を入れながら皆の力で私が出来上がっていった。
「さ、ロイ様、よろしいですわよ」
グレタさんの合図で、またも黒い目隠しをしていてくれたロイ様が頭の後ろで結んだそれを解き、その美しい瞳を解放させた。
私を見るなりに大きく見開かれていくブルーサファイアの瞳には、同じ色のドレス姿の私がくっきりと映り込む。まるで私が閉じ込められているかのように見えて不思議な錯覚を起こす。
「っ……綺麗です……!! フェリシア……とっても……」
とろけるような笑みを浮かべる氷の騎士団長に、私はなんだか恥ずかしくなって「ありがとうございます」と消え入りそうな声でつぶやいた。
美しいけれど冷たいお方。
今まで何人もの令嬢が玉砕してきた難攻不落の砦。
そんな世間の常識は私の中には最初からないけれど、それでも一緒に暮らし始めて、今まで知らなかったロイ様の姿を知っていって、もっと惹かれていった自分がいる。
もう自分を誤魔化すこともできないほどに、私はロイ様のことが好きだ。
思わぬ事態になって一緒に暮らすことになって、その中で彼は私の心を癒してくれた。ロイ様の言葉一つ一つが、私の一部になってしまっている。
困った。これじゃ離れ難いじゃないか。
いやいや、だめよフェリシア。
ただでさえご迷惑をかけているんだもの。
今日はしっかり足手まといにならないように、公爵のパートナーらしく振る舞わないと!!
私は自分の思いを振り解くように、気持ちを切り替えようとロイ様を見た。
白で固められた、騎士団長の正装服。
普段の騎士服よりも細かな装飾が施され、かっちりとしたその衣装はロイ様の鍛えられた体にフィットしてとても美しい線を描いている。
「ロイ様もとても素敵です。綺麗です。美人です。眼福です」
私の正直すぎる言葉が口から漏れて、ロイ様はポカンと私をみてからぷっ、と吹き出した。
「あなたは本当に面白い方だ。それは全て、あなたにそっくりそのままお返しします。私も、眼福、です」
眩しげに細められた瞳が三日月を描く。
「本当に……とても、美しい」
うっとりと見つめられれば身動きが取れなくなる。
「ま、マダム・シシリアやピオニーさん、それにグレタさんとセリアちゃんも頑張ってくれたので……」
冴えない私が美しいと思ってもらえるくらいになったのならば、それは紛れもなく彼女たちのおかげだ。
「そうですね。皆、短い時間での準備、感謝する。ありがとう」
ロイ様が側に控えている使用人の皆へと感謝の言葉を送ると、マダム・シシリアが目尻の皺を深くして優しく微笑んだ。
「ぼっちゃま、お礼を言うのはこちらの方ですわ。私との約束を覚えていてくれてありがとうございました」
約束? なんのことだろう。
次に私の顔を見たマダム・シシリアは、優しい笑顔のまま私の両手をそっとその分厚い暖かな両手で握った。
「フェリシア様。ぼっちゃまと出会ってくださって、ありがとうございました。ようやく、ロイ様の大切な人のドレスを仕立てたいという夢が叶いましたわ」
「大切な、人?」
「し、シシリア!!」
慌てたようにロイ様が口を挟むと「あらいけない。まだ進展してないのでしたわね」と、まるでいたずらっ子のように笑った。
「っ〜〜〜〜!! もう、黙ってくれ」
顔を赤くして項垂れるロイ様に、マダムは「はいはい、これは失礼」と楽しそうに肩をすくめた。
「……フェリシア、確かにその姿はここにいる皆のおかげです。でも、それだけじゃない」
「それだけじゃ、ない?」
「はい。あなたは元から、とても美しかった。中身ごと、ね」
「っ……!!」
甘い!!
甘いわ……!!
そんなこと言われたら、私の押し戻している淡い恋心がまた顔を出し始めてしまうじゃないか。
心の中で自分と戦い始めた私をよそに、ロイ様はふっ、と笑った。
「さ、お手をどうぞ。私の【ご主人様】」
悪戯っぽく笑いながらロイ様が手を差し出して、私は「【ご主人様】はやめてくださいっ」と頬を染めながらも、自分の手をそっと重ねた。




