首輪の理由
「すごいねこれ。この道具一つで忠実なワンコの完成じゃないか。これであの氷の騎士団長殿を自分のペットにできるなら、皆欲しがるだろうね」
「使いようによっては危険な代物だな。相手が善良なフェリシアでなかったらと思うとゾッとする……」
ようやく立てるようになったロイ様が再び椅子に座り直す。
ごめんなさいロイ様。私、そんな善良じゃないです。
犬耳ロイ様を想像して鼻血出しそうになってた変態です……!!
「そうだねぇ。そもそもウィス、お前はなんでこんなものを作ろうと思ったわけ? まさかロイをペットにしたかったってわけじゃないんだろう?」
そこで全員の視線がウィスベリル様へと向かう。
大人たちの視線を一身に浴びたウィスベリル様は、ビクリと体を跳ねさせると視線を伏せながら口を開いた。
「そ、それは……。……婚約破棄させないために……」
「婚約破棄を?」
予想外の言葉に私が聞き返すとウィスベリル様は気まずげに視線を揺らしながらもこくんと頷いた。
「今、他国の実話から【真実の愛】のためという理由での婚約破棄騒動が世間を騒がせていますよね? でも【真実の愛】の裏で涙をのむ女性たちを生み出さないために、と……。あんなのただの浮気ですよね? なら首輪で繋いでしまえば、他の女性と浮気をされることもないし、結婚するより他なくなると思ったんです。解除法を口づけにしておけば、それが既成事実にもなる、と……」
婚約破棄という自己中心的な流行り。
【真実の愛】という名の浮気で結ばれた人たちの裏では、それに泣いた人ももちろんいるわけで──……。
ウィスベリル様は、そんな人たちのことを思ってこれを作ったのね。
「……でも、こんなことになって、フェリシア様にもロイ様にもたくさん迷惑をかけて……本当にごめんなさい」
そう言って深々と頭を下げるウィスベリル様に、胸がキュッと締め付けられる。
婚約破棄(正確には解消だけど)された直後に婚約破棄されないように作られた魔法の首輪で繋がってしまうなんて、改めて考えると不思議なご縁ね。それも相手は初恋の人。
「ウィスベリル様、頭を上げてください。私は本当に大丈夫ですから。婚約破棄された女性のことを思ってとのこと。私、そんなことを考えてくださる方がいると知ることができてよかったです」
婚約破棄される側に『される側が悪だ』というレッテルが貼られる風潮。そんな中で、される側に想いを寄せてくれるウィスベリル様の気持ちが私の心には沁みていった。
「フェリシア様……」
「罪悪感を感じる必要はありません。ロイ様には申し訳ありませんが、私は本当に大丈夫ですから。ロイ様は紳士で、とても優しく誠実な方ですもの。そんな方とならば、繋がっていてもやっていけそうです」
少しだけ屈んでウィスベリル様と視線を合わせにっこりと微笑むと、ウィスベリル様はウルウルと目を潤ませてから「フェリシア様……ありがとうございます……!!」ともう一度頭を下げた。
「師匠、僕、部屋に帰って今のデータをもとに、魔法式を組み立ててみます!!」
「ん。僕も、もう少し話をしてからすぐに帰るよ」
ウィスベリル様は私たちに向かってお辞儀をすると、指先で円を宙に描くと、光り輝く円の中へと吸い込まれるようにして消えていった。
本当、魔法ってすごいわね……。
「ウィスのこと、怒らないでやってくれてありがとうね。フェリシアちゃん」
「怒るだなんて──」
むしろお礼を言いたいくらいだ。
あの場で、あのままの気持ちのまま帰っても、きっと荒れに荒れて部屋から一歩も出ることのない自分になっていただろう。ロイ様と繋がって、少し落ち着くことができたのだから、ロイ様には悪いけど、私はウィスベリル様に感謝している。
「あいつは元々男爵家の子でね。小さい頃に親が死んで、歳の離れた姉と二人で生きてきたんだ。でも、あいつの姉さん、最愛の婚約者から婚約破棄にあって──自ら命を絶ったんだ」
「!! そんな……」
ウィスベリル様にとっては他人事ではなかったんだ。もう二度と、お姉さんと同じような人を生まないように頑張ってたのね。
「一人になったウィスを、元々弟子として面倒を見てきた僕が引き取ったんだ。それが二年前のこと……。大丈夫、必ず君たちのことはなんとかするよ。それまで不便かけるけど、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げたテト様は、さっきまでの飄々とした様子はなくウィスベリル様の保護者としての顔を見た気がした。
「言われなくとも、こちらは大丈夫だ。相手がフェリシアだから──なんの問題もない」
そう言って私を驚くほど優しい瞳で見つめたロイ様に、私はドキドキしながらも「私も、です」と答えた。
「ありがとう、二人とも。じゃぁ僕も行くね。何かまた異変でもあればすぐに言って。データ取るからさ」
テト様はさっきウィスベリル様がしたように、指で円を書き空間を作ると、その中へと足をかけ「ロイ、せっかくのチャンスだから頑張ってね」とだけ言い残して、円の中へと消えていった。
「余計なお世話だ!!」
なんだろう、よくわからないけど、ロイ様がものすごく疲れてらっしゃるわ。
それにしても……。
「まさか婚約破棄の流行りがここまでの問題になっているなんて思っていませんでした」
「えぇ。あなたが自らの命を絶つ前に私に会ってくれてよかったです」
ウィスベリルの姉の二の舞にならずに済んでよかった、と息をつきながら言うロイ様。
「えぇ!? 私、そんなこと考えてませんでしたよ? むしろ婚約解消の話し合いの際に潰しておけばと──ぁ……」
しまったぁぁぁっ!! つい本音が……!!
「つぶ──!! あなたは本当に……。ククッはははっ!! 本当、逞しくて何よりです……!!」
いつものクールな表情を破綻させロイ様が声をあげて笑うと、その子どものような笑い方にキュン死にしそうになる。
「今の風潮、なんとかなるといいですね」
「えぇ。流行りというものは、次の流行が生まれると同時にそちらへと移り変わります。それを待つしかないのでしょうね」
やっぱりそうよね。
ゆっくりと移行していく流行りの中で、あとどのくらい涙を流す人が出てしまうんだろうか。
「【偽りの愛】ありきの【真実の愛】などくだらない。皆、そのまやかしに気付けばいいのですけれどね……」
呟いたロイ様の言葉に、私はただぎゅっと自分の手を握りしめるのだった。
ウィス君(´;ω;`)
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