美味しい食事
グレタさんが用意してくれていたドレスがどれも素敵すぎて、どれを選んだらいいのか迷っていた私にロイ様がこれはどうかと選んでくれたのは、彼の髪の色とよく似た色の、シルバーブルーのシンプルなドレスだった。
宝石やリボンなどが抑えられた落ち着いたデザインながら、銀糸で刺された美しい花々の刺繍が素朴なものではなく上品なドレスに仕立て上げている。
目を開けて、選んでもらったドレスに着替えた私を見たロイ様は、いつまでたっても朝食に現れないロイ様を心配したメレルさんが呼びにくるまでの間、私をぼんやりと見つめたままフリーズしてしまった。
「……フェリシア。先程はみっともない姿をお見せしてしまって、すみませんでした」
意識を戻したロイ様に無言のまま広間に案内されると、広間に入るや否や、彼は居た堪れないといった様子で私に向かって頭を下げた。
「い、いえ、全然!! 硬直しててもロイ様はとても素敵でしたよ?」
「すっ……ゴホンッ。その……さっきはぼーっとしていたので言いそびれましたが、そのドレス、とてもよく似合っています。フェリシア」
「っ……ありがとう、ございます……」
至って真面目な顔をしてそんな美声で甘い言葉を吐かないでぇぇっ!!
こっちは婚約者にすら褒められるようなこと言われたことなくて慣れてないんだからぁぁっ!!
「さぁ、食べましょうか」
「は、はい」
普通は向かい合って食べるところを、鎖があるので隣り合って座る。
わぁ、美味しそう。
テーブルの上には美味しそうな焼き立てパンにハムとサラダ、それにほわほわと白い湯気が上がる温かそうな野菜スープと、果物が並んでいる。どれもとても美味しそうなのだけれど、全てのものが数種類ずつ用意されていて流石に全て食べ切ることはできなさそうだ。
公爵家っていつもこんなたくさん種類を用意してるものなの!?
「あ、あの……いつもこんな量なんですか?」
恐る恐る私がたずねると、ロイ様は「まさか」と声をあげた。
「あなたの好みのものがわからなかったので、とりあえず今朝はいろんな種類を用意してもらったんです。いつもはこれらがそれぞれ一種類ずつの、普通の食事ですよ」
私のために朝からこんなに!?
料理人の皆さんにお礼を言わなくちゃ。
これだけの種類を朝から作るなんて、相当早起きしなければならなかったに違いないもの。
「あの、私のために朝からこんなにたくさん用意していただいてありがとうございます。後で料理人の方達にお礼を言いたいのですが、厨房に案内していただいても?」
「あぁ、それでしたら、朝食後に屋敷の者たち全員にここに集まるように言ってあるので、うちの料理長にも会えますよ。礼でしたら、その時にでも」
ここに!?
十分広い部屋ではあるものの、仮にも公爵家の使用人全員が入れるのだろうか?
疑問に思いながらも、私は目の前の美味しそうな焼きたてパンをちぎって、まだ僅かに白い湯気が出るほかほかのそれを口の中へと入れる。
「美味しい……!!」
ふっくらと柔らかくて舌触りも良く、ほんのりとした甘味が口の中いっぱいに広がってくる。噛めば噛むほどその甘味はどんどん増して、味が失われることがない。
こんなに美味しいパン、初めて食べたわ……!!
「このパンも、毎朝料理長が手作りで作ってくれているものです。気に入っていただけたのなら、彼も喜ぶでしょう」
「毎朝手作り……!?」
うちのグラスバート伯爵家は街のパン屋さんと契約をしていて、週に三回パン屋のおじさんが届けに来てくれるのだけれど……毎朝作っているなんて、ここの料理人さんはそんなにたくさんいるのかしら?
──と、そう思っていた私の予想は、見事に外れた。
もう食べきれないという程に朝食をたくさんいただいてからロイ様がベルを鳴らしてメレルさんを呼び、グレタさんが机の上のお皿を下げ終わると、いよいよ待ってましたとばかりに使用人達が部屋へと入ってきた。
1、2、3、4……7人が入ってきて、これからまだまだ入って来るのかと思いきや、後から続いて入ってくるものはいなかった。
ん……? これだけ!?
それは予想していたものよりも大幅に、それはもう大幅に少ない人数だったのだ。




