混線
冬の夜空は澄んでいる。晴れた日には星の光が地上までよく届き、普段はなかなか見えない小さい星までよく見える。冬の夜空が届けるのは星明かりばかりではなく、ラジオの電波もまた遠くまで運んでいく。県を二つも三つも跨いだ放送局の電波が届くことも珍しくなく、遥か海を超えて海外の放送を耳にすることもあるほどだ。そういった時、ラジオは全ての電波が渾然一体となり、時として奇妙なものを生み出してしまうことがある。
あの日もよく晴れていた。会社から帰宅途中の車中で聴いていたラジオは混線し、ひどく聴きづらいものになっていた。
『ザザ…、続い…、ザ、ザザ…、事故…、ネーム、タマ二郎、私は、ザ、死亡が確認されました、ザザザ…、の定食屋の……』
雑音と混線の中でかろうじて聴き取れたのは、ラジオ仲間である同僚のラジオネームだけだった。せっかくのメッセージ、何もこんな混線のひどい時に読まれなくてもいいだろうに。間の悪さがいかにも同僚らしい。それきり、そのことは気にも留めなかった。
次の日、出社すると職場がざわついている。何事かと思っていると、同僚の一人が教えてくれた。社員が昨日亡くなったのだという。ラジオ仲間のアイツだった。帰宅途中の事故とのことだった。