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厄介な相部屋

 オーディションにあたって二人とも同じ姿形では流石に都合が悪いので、俺と一樹は微妙に姿を分けた。


「元の姿から思ってたけど、お前ってかなり色白だよな?」


「ああ、おじいちゃんが北海道生まれなんだ」


「関係あるのか……それ?」


「はは。あんまりないかも」


 髪型も変えた方がいいと言うことで、それぞれ俺はショートカット、一樹はポニーテールにした。


「一つ結びってなんか良いよな」


「それより一樹、さっきと比べて日焼けしてない?」


「ああ。元々がこんくらいの肌だからな。こっちの方が違和感がないんだ」


 自分でしっくりくるならその方がいいかもしれない。何にせよ素体はモデルなので見た目は悪くない。そのまま勢いに任せて俺たちはオーディションに申し込んだ。


◇◇◇


「それじゃあ二人とも、オーディションにあたって写真を撮る必要があるので別室で着替えてきて下さい」


 芸能事務所の人いわく書類選考用の写真が必要であるらしい。一樹と分かれて別々の部屋に入った。


「こんにちは。メイク担当の者です」


「よ、よろしくお願いします」


「もしかして緊張してる?」


「は、はい。メイクとかどんな風にすればいいのかよく分からなくて……」


「うーん。そうだねぇ」


 メイク係のお姉さんは俺の顔を見ながら考え込んだ。そもそも良し悪しも種類すらも分からない。


「大きく分けるとしたら、私のメイクはカッコイイ系と可愛い系に分かれるんだけど……」


「ど、どっちの方がいいですかね?」


「私が思うに、君は可愛い系の方が似合うと思うな。うん、そうしよう……!」


「え、えぇ……っ!?」


「うん、何か不満?」


「い、いや。自分ではどちらかと言えばカッコいい系だと思ってて……」


 本当は男です、なんて言うわけにもいかない。しかし素人の意見なのでお姉さんのオススメに従っておいた方がいいような気もする。


「どうなりたいかは自分次第。君自身が決めなよ」


 ど、どうする。


 自分としてはカッコいい系だと思うけど、それで落ちたら元も子もない。


 俺は潔く意見を変えた。


「じゃ、じゃあ、可愛い系でお願いします……!」


「OK! とびきり可愛くしてあげるよ!」


 出来上がったのはまさに「アイドル」のように可愛いメイクの女の子だった。


 文句のつけようもない出来栄えだ。


「頑張ってきなよ。期待してるよ」


「あ、ありがとうございます……!」


 お姉さんは意味ありげに微笑んだ。

 

 この後、実はメイクの担当の人なんておらず、俺たちのやる気を見て何か秘めたる才覚を感じたプロデューサーが直々にスタッフに頼んで取り計らってくれたのだと知ったが、この時はただオーディションのことで頭がいっぱいいっぱいだった。


◇◇◇


「はい、笑って〜!」


 芸能事務所の中に撮影所があるなんて知らなかった。何から何まで知らない世界だ。


「君がハルカちゃん? 次に撮るから待っててねー」


「は、はい……っ」


 一樹も同じように緊張しているのだろうか。

 まだ姿が見えないのでメイクの途中かもしれない。


「もしかして、こういう撮影はじめてかい?」


「はい。一体どんな顔していいのやら……」


「あれっ、その子、新入りですか?」


「そうなんだよ、アオイちゃん。とは言っても、まだオーディションの段階なんだけどね」


「なるほど……」


 先に写真を撮っていた女の子に話しかけられる。あの子もアイドルなんだろうか。


「じゃあ、私のを見て行ってもいいよ?」


「えっ……?」


「参考になるか分からないけど、見本がないよりはいいのかなって」


 見知らぬ女の子はそう言って柔らかく笑った。内巻きのボブカットが垂れ気味の目に似合っている。正直これまでアイドルになんて興味はなかったけど、それを見て素直に可愛いと思ってしまった。


「はい、じゃあ撮るよ〜!」


 カメラマンの前で次々とポーズを決めていく。

 表情も次々に変えていく。


 すごい。ポーズと表情で自分を演出してる。

 どれも同じ人なのに違った性格みたいに見える。


「終わりです! お疲れ様!」


「……君も、頑張って」


「……あ、ありがとうっ!!」


 一瞬だったけれど、ささいな優しさだけで心を奪われそうになっていた。あれがアイドルの素養だとしたら、こんな俺なんかで務まるのかな…………?


◇◇◇


 写真撮影が無事に終わり、俺と一樹は合流した。


「結論から言うと合格です。君たちは寮に住みたいんだよね?」


「は、はい……っ!」

「住まわせていただけるんですか……?」


「ああ。空きはあることにはある……ただし、他人と相部屋だ」


「えっ!?」

「ハ、ハルカと一緒じゃダメなんですか……!?」


「元々原則として、住む相手を選べないようなシステムになってるんだよね。君たちだけの希望を聞いたら、他の子たちにとって不公平になってしまう」


 そういう事情なら仕方がないけれど、俺たちの事情が特殊なだけに複雑だ。本当は男だと告げるわけにもいかないし。


「悪いけどそうしてもらうね。部屋番号はランダムだから、一人部屋の誰かの元に割り振られることになるよ」


 結局押し切られて一樹と別の部屋になってしまった。今の体は女とは言え、こんなことになって大丈夫だろうか。


 渡された鍵の部屋に着く。同居人がなるべく良い人であることを願ってガチャリと鍵を回した。


「あれっ、君は……?」


 部屋の中の人と目があってドキリとする。

 というかソレどころじゃない。


「さっきの子だよね? オーディション受かったんだ、おめでとう!」


「は、はい……ありがとうございます…………ッ」


 同居人はさっきの子じゃないか……!!


 間の悪いことに相手は風呂上がりのようだった。

 生地の薄い半袖パジャマに自然と心臓が早くなる。


 どうしよう。

 早速問題ありそうだ。

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