6夜目「超人装備で全開だっ!」
得夢たちの制服が光を放ち、超人仕様の防具へと変化していく――。
スカート丈はよりキュートになって。
ブラウスやアウターがぎゅっと凝縮されて、必要最小限の意匠になる。
機能性と美を兼ねそろえた超人的装束は、得夢たちを華やかに着飾る防具となった。
「てゆっか、これはもう制服の飾りがついただけの下着だわーーーっ!」
居醒が恥ずかしそうに手で隠す。
春眠はそんな居醒にときめいた。
「トロピカルなデザインねっ!」
得夢とねんねと夜船はというと、ビーチに遊びに来たかのようなハイテンションで大手を広げた。
「何を恥ずかしがっているんだいっ、居醒ちゃん!」
「超人は肉体こそが防具っ!」
「超人に防具など必要ないってわけやでっ、居醒ちゃんっ!」
「みんな恥ずかしくないのっ?」
「むしろ、裸でもいいっ!」
「むしろ、見せつけたいっ!」
「むしろ、脱いでやるーーっ!」
「脱ぐなーーーっ!」
春眠が渦巻き模様の瞳で訴えてきた。
「居醒ちゃんっ! わたしたちも乙女の限界超えちゃいましょっ! きゃふーーっ」
「この人、洗脳されちゃってるーーーっ!」
得夢とねんねと夜船も春眠と連なって。
「強さと恥じらいはジレンマだしっ!」
「だが恥じらいこそが正義っ!」
「乙女の恥じらいで世界を救うんやーーっ!」
「みんな、なにわけのわからないこと言ってるのーーーっ!」
次に得夢たちの両手に具現化されたのは、オペラグローブのような、肘上までが覆われている長い手袋だ。
そして太ももの絶対領域を残しつつ、膝上までカバーした厚底編み上げのストレッチブーツが両足に現れる。
「あれっ、得夢ちゃん、肝心の武器が出ないわっ!」
居醒が手をぶらぶらさせて困惑する。
ねんねが念仏のようにつぶやいた。
「超人は肉体こそが武器っ……」
「それはもういいからっ!」
「これはもしかして……」
得夢は腕を切りつけるように打ってみた。
すると、思い描いたように、身の丈数倍の大剣が手の先に現れて、地面をざっくり切り裂いた。
「おおーーっ」
腕の動きが止まると大剣は消え、手袋だけの状態になる。
居醒が得夢の真似をして、空手チョップをしてみると。
手の先から4丁の対物ライフルが現れて、ガトリング砲のように回転しながら連続的に弾丸を発射した。
「しゅごいよ、得夢ちゃんっ!」
「てことは、このブーツも?」
夜船が飛び跳ね、キックの体勢になるや否や、つま先から火炎を纏いし長大なハルバードが現れた。
狙った大岩が跡形もなく粉砕される。
ねんねの手足の先からは、大ぶりの氷結ブレイカーが。
春眠には極大の大地の鎌が現れた。
「これなら360度どこから来ても倒せるわっ!」
春眠が手足を広げて、くるりとターンしてみせる。
「折れる心配もあらへんわっ!」
「最強の小回り、抜群の破壊力」
「正に超人装備ねっ!」
夜船とねんねと居醒は手の平をぎゅっと握って頷き合った。
「救助のみんなが雑魚を退治してくれてるうちに、わたしたちはあのボスをやっつけよう!」
得夢のかけ声に、みなが拳を突き上げる。
「みんな、いっくぞぉーーーっ!」
「おおーーっ!」
得夢たちは超人スキルで飛翔して、ゾンビ化け猫との間合いを一気に詰め寄せた。
「おい、ゾンビ化け猫! 2度と居醒ちゃんの夢に関わるな! じゃなきゃ、痛い目に遭わせるぞ!」
「くっくっくっくっく……」
「なにがおかしいっ!」
「勘違いしちゃいけないなあ。1の立方根は所詮1ってことさあ」
「なにが言いたいっ!」
「いくらリミットが崩されたとはいえ、ここは超極深層悪夢。ただの極深層ですら攻略できないおまえたちが、少しばかり強化されたところで通用するのかなあ」
ゾンビ化け猫は腹を叩いて、うにゃうにゃと波立たせ。
頬を目一杯膨らませたかと思えば、口からゾンビネコの大群を吐き出したのだった。
まるで巣を突かれた蜂のように、ゾンビネコの大群が得夢たちを襲撃する。
居醒が対物ライフルで迎撃するが、弾丸が当たってもゾンビネコはやられなかった。
進行を押しとどめるので精一杯だ。
「得夢ちゃんっ、このままじゃっ!」
「超人装備でも倒せないって、そんなはずがっ……」
居醒の弾道を迂回して、ゾンビネコが得夢たちに襲いかかってきた。
みなが武器を具現化して身構える。
「これはやばいで得夢ちゃんっ!」
「超人的にピンチ」
夜船とねんねが怖じ気づいた、そのとき。
流れ星のごとく、丑三帳が現れた。
帳が通った軌跡にいたゾンビネコが、一筋の剣筋で大量に薙ぎ倒される。
「帳お姉様っ!」
「あなたたち、闇雲に攻撃してはダメよ」
「でも、どうずればいいんでずかぁ……」
得夢たちが涙目で懇願する。
「しょうのない人たちね。お菓子の袋が開けられないときにはどうするの?」
「ハサミで開けます」
「ハサミがなければ?」
「歯でこう、ガジガジっと」
「お行儀の悪い子ね。そういうときは『切り口』から破いて開けるものよ」
得夢はピンと来た。
「もしかして、夢魔にも切り口があるんですかっ?」
「超人なら目を凝らせば見えなくて?」
得夢たちはゾンビネコをようく見澄ましてみた。
すると……?
肩の辺りや、脇腹に、切り口に似たvの字のマークが光って見えてきた。
そこから切り取り線のようなものがゾンビネコの身体を横断するように伸びている。
得夢はひとり飛翔して、手近なゾンビネコに近づいた。
そして腕を振り上げ、ゾンビネコの切り口から切り取り線に沿わせて大剣を振り抜いてみた。
今まで少しもダメージを通せなかったゾンビネコが両断されて、いともあっさりと砕け散ったのだった。
「こういうことかっ!」
春眠も、ねんねも、夜船も、居醒も、見よう見まねで斬ってみる。
「わたしにもできたわっ!」
「手刀でも倒せそう」
「これぞ超人技やでっ、得夢ちゃんっ!」
「連射ができれば銃でもまったく問題ないわっ!」
成長する得夢たちの様相に、帳は少し目を細くした。
「本当に世話の焼ける後輩ね。でも飲み込みの早い子は好きよ」
帳は踵を返し、地面を這いずるゾンビネコの群れへと飛翔していったのだった。
ゾンビ化け猫が吐き出すゾンビネコの大群を、得夢たちは切り口から切り取り線をなぞるように切り倒していく。
右腕で切り伏せ、左腕で薙ぎ伏せ、両足をも使ってゾンビネコを斬り裂いた。
ねんねは群れの中央に突っ込んで縦横に回転し、両手両足から具現化したブレイカーで4体同時に氷結粉砕する。
「ねんねちゃんの攻撃速度は4倍ねっ!」
春眠が両手を合わせてキュンとする。
「どんなに回転しても目が回らない。さすが超人」
ねんねはもはや生ける手裏剣のようである。
「わたしは狙いを定める視野が4つほしい~~~っ!」
せっかく両手両足から攻撃ができるというのに、居醒はそれを生かし切れていなかった。
片腕を突き出し照準を定めながら、ゾンビネコを1匹ずつ倒している。
「居醒ちゃんっ、心眼で夢魔を狙うんやっ!」
「そんなの無理よっ!」
「殺気を読むのっ!」
「いまは超人」
「居醒ちゃんにもできるはずっ!」
夜船と春眠とねんねと得夢、みんなに気を引き立てられて、居醒はできるような気持ちになってきた。
「やってみるっ!」
心静かに瞳を閉じて。
耳をそばだて、ゾンビネコの気配にアンテナを張る。
研ぎ澄ましていると――。
どこに、どれだけの夢魔が、どれくらいの速さで向かってくるのかが、空気の流れや、音、臭いといった殺気で全身に伝わってきた。
その内の最も間近なゾンビネコ4体に四肢を向け、具現化した対物ライフルで切り口から切り取り線を撃ち抜いていく。
居醒は刃物武器と寸分変わらぬ早業で、ゾンビネコを4体同時に撃破することに成功したのだった!
「やったわっ!」
「居醒、グッジョブ」
「その調子よ! 居醒ちゃんっ!」
「ねんねちゃんと居醒ちゃんがいれば、こんな大群もあっという間やでっ!」
「今までの苦戦がウソのようだねっ!」
ねんねも春眠も夜船も得夢も、みな活気づいてきた。
うじゃうじゃいたゾンビネコの大群が、見る見るうちに減り出してゆく。
ゾンビ化け猫はすべてのゾンビネコを吐き出してしまったようだ。
「仲間はみんな倒してやったぞっ、ゾンビ化け猫ッ!」
ゾンビ化け猫が、息を切らしながら睥睨する。
「肩慣らしはできたみたいだな。いいだろう。俺様が相手してやるーーーっ!」
ゾンビ化け猫はさらにひと回り巨大化し、ついには剥き出しの爪で襲いかかってきた。
生爪を振り下ろし、噛みつき、牙をむく。
猛烈な速さの攻撃を、得夢たちは躱しながら、ゾンビ化け猫の切り口がどこにあるのか見澄ました。
ところがだ。
「得夢ちゃんっ、切り口が見当たらへんでっ!」と、夜船。
「背中にもない」と、ねんね。
「体毛で隠れてるのかしらっ?」と、春眠。
「切り取り線だけ見えるけど、なんだか変よっ!」と、居醒。
切り取り線はぐるぐると渦巻いて、胸の中央に吸い込まれている。
得夢はそれをじっと見つめて……、はっとした!
「みんな集まってっ! 輪になろうっ!」
得夢たちは円を組んで、互いの背中を抱き寄せた。
両足から武器を具現化したまま、ドリルのように回転する。
そして射たれた矢のごとく、ゾンビ化け猫に突っ込んだ!
「そこだーーーーーっ!」
得夢たちは高速回転しながら、ゾンビ化け猫の渦巻き状の切り取り線を切り裂いてゆく。
削岩ドリルと化した得夢たちが、ゾンビ化け猫の胸をえぐり、穿ち、ついには貫いた!
「ぐがああああああっ……。そんなっ……、俺様は超極深層のっ……!」
ゾンビ化け猫の巨大なナイトメア・トレジャーが、小さな結晶となって粉砕する。
身体の構成を維持できなくなって。
「これは悪夢だ! 何度でも蘇ってやるーーーーっ……」
ゾンビ化け猫は破裂した。
救助に来てくれた貘たちが、歓呼の声で得夢たちに拍手した。
「やったなーーーっ!」
「おめでとーーーっ!」
「お見事だーーーっ!」
帳も祝福の手を叩く。
「あなたたち、いい夢になりそうね」
「帳お姉様っ!」
「これがナイトメア・ダイアモンドよ」
キラキラと美しく輝く透明の鉱石が、雨のように降り注いできた。
「見て、居醒ちゃんっ! ダイヤだわっ!」
「こんなにいっぱい!」
春眠と居醒は手の器でダイヤの雨を受けて止めた。
「夢研で宝石店開きたい」
「うちらも1億の女になれるかなあっ?」
ねんねと夜船は妄想しながらにんまり顔だ。
「帳お姉様のお陰で超極深層の夢魔も倒せるようになりましたっ!」
得夢が帳にお辞儀をするが。
「調子に乗ってはダメよ。ダイヤがまだまだ小さいわ」
帳は得夢たちに微笑みかけた。
「これで小さいのっ?」
「1カラットはあるでっ?」
居醒と夜船がダイヤを光にかざして目を丸くする。
「それにダイヤが最上級ではなくてよ」
得夢たちが「ええっ」と色めき立つ。
「みんな、まだまだ上があるんだって!」
「ワクワクするわね、得夢ちゃんっ!」
「春眠っ、わたし興奮してきたっ!」
「ねんね、ぜったい宝石商になる! はううっ」
「うちらの未来は大金持ちやーーっ!」
得夢たちと帳のところへ、寝坊が疲れた様子でとぼとぼとやってきた。
「この深層の夢魔は全部退治できたみたい。帳にはずいぶん貸しができてしまったなあ」
「それなりにハラハラさせてもらったわ」
「寝坊ちゃんっ、助けに来てくれてありがと~~~っ!」
抱きつこうとする得夢たちから飛び退いて、寝坊はかしこまって土下座した。
「この度は寝坊たち武器商人の不手際でこのような危険な目に遭わせてしまってごめんなさいっ!」
「そんな! うちらは無事やったし、結果オーライやでっ! なあっ、得夢ちゃんっ!」
「そうだね、夜船ちゃん。これがきっかけでとてもレベルアップできたしね!」
終わり良ければ全てよしと喜ぶ得夢たちだが。
「あなたたちはとても運が良かったのよ。無事で済まなかった貘もいるの」
帳が得夢たちを戒める。
「犠牲者がいるんですかっ?」
帳は静かに頷いた。
「乗っ取られた原因を解明して、予防策が確立するまで、運動会は中止にするよ」
「それが賢明ね」
寝坊もなんだか帳には頭が上がらない様子のようだ。
帳が居醒に目を向ける。
「それにしても、あなた……」
「居醒です!」
「ここは居醒さん個人の夢のようね。これは詳しく調べてみる必要がありそうよ。今度、私と一緒に寝ましょ」
「お、お、お姉様と一緒に寝てもいいんですかっ……!」
居醒の赤面した顔に、春眠は膨れっ面を見せつけた。
「居醒ちゃんはわたしの大切なお友達です! だからわたしも一緒に寝ます!」
「うちにとっても大切な友達や! 一緒に寝たいっ!」
「ねんねもっ! ねんねもっ!」
春眠と居醒に抱きついて、夜船とねんねが手を上げた。
「ベッドなら悪夢研究部にあるのでいつでも来てください!」
「そんな部があったのね。覚えておくわ」
「待ってますっ!」
みなが帳の手を握る。
「それはそうと、寝坊さん。今日の活躍ぶりに対して、この子たちのランクが低いようだけど」
「帳、わかってるよぅ。姉ちゃんたちは上位ランクの武器やスキルを見事に使いこなしてた。だから本日をもって、上級ランクの貘に認定だあああ!」
「やったあーーーーーっ!」
こうして、大波乱の大運動会は帳や得夢たちの活躍によって、一件落着となったのであった。
おしまい!
最後までお付き合いくださいまして、
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式宮百花