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5夜目「超越至極の急展開!」

 魑魅魍魎の集合体が、巨人や巨獣のように姿を変化しながら、得夢(エルム)たちに突進してきた。


 居醒(いさめ)が対物ライフルで迎撃するが、ノックバックはおろか、止めることも叶わない。


 それでも居醒が撃ち続けるが。


「撃っても撃っても再生してくるーーっ!」


 得夢たちはどこを攻撃すれば良いのか検討すらつけられなかった。


「必ずどこかにナイトメア・トレジャーが隠れてるはず!」


「でも得夢ちゃん、あんなにでかいと、どこから狙えばええのんやーーっ?」


 戸惑う夜船たちに、魑魅魍魎の大巨人の鉄腕が打ち下ろされる。


「来るっ、来るーーっ!」


「させないっ!」


 その一撃を、春眠(しゅんみん)が大鎌のシールドで受け止めた。


 あまりの強さに床がベコリと穿たれる。


「ぐっ……、何度も受け止められそうにないわ!」


 春眠は身構え直して苦痛を浮かべた。


「あいつ、硬いんか、柔らかいんか、どっちなんやーーっ?」


「また来るーーっ!」


 夜船とねんねが斜に構えるが、どうして良いかわからずへっぴり腰だ。


「みんなっ、固まってちゃだめだ! バラバラに飛び回ろう!」


 得夢の指示で、皆がハヤブサスキルで散開する。


 しかし廊下の床や天井、壁面の至る所から、巨人の墓石がいくつも突き出してきた。


 それらは得夢たちの自由を徐々に奪って、行動範囲を小さくしてゆく。


 魑魅魍魎の大巨人の攻撃や、墓石の突きを死に物狂いで躱し続けているうちに、いつしか退路は墓石の壁で塞がれてしまっていた。


 気がつけば、得夢たちは1カ所に追い詰められて、逃げ場がない。


 春眠が咄嗟にシールドを広げるが、魑魅魍魎の大巨人は力任せに攻撃を繰り出してきた。


「ミンチだっ! ミンチだっ! ミンチ肉ーーーっ!」


 春眠のシールドがついには打ち壊されて消え失せた。


 魑魅魍魎の大巨人が両手の平を組み合わせて、とどめとばかりに振り上げる。


 凄まじい一撃が振り下ろされようとした、そのとき!


 大巨人の脳天から股の付け根まで、一筋の光が駆け抜けた。


 大巨人の目玉のようなものが、ギョロリと後方へ向き。


「がっ……?」


 頭が左右に分かれて、バナナの皮をむくように裂け出した。


 ナイトメア・トレジャーの大きな塊が中から現れ、それが小さな結晶となって崩れ落ちると。


 魑魅魍魎の大巨人は、派手に砕け散ったのだった。


 茫然自失の得夢たちの目の前に、髪をなびかせひとりの貘が現れた。


 縦ロールのツインテをした彼女は、長い柄の両端に刀がついた武器を両手に携えている。


 得夢たちと似た防具を着ているが、それより更に裾が長くて白く輝いている。


「あなたたち、災難ね」


 謎の女性は微笑みこそしなかったが、それは決して威圧的なものではなかった。


 不動の姿勢をとるその麗人は、気高くて、そして気品に満ちている。


「救助の人ですかっ?」


 得夢が胸をときめかせて尋ねると。


「いいえ。ただの通りすがりなの。知った顔がいたものだから、見に来ただけよ」


「えっと、どこかで会いましたっけ……?」


「あなたたち、有名よ。武器商人を乗っ取ろうとした貘としてね」


「あっ、あは~~っ。あれはしょの~……、何というか、若気の至りというやつで~……。へへへ……」


「もちろん、武器商人を救ったついでにという噂話だけど。真実はそっとしといた方がいいかしら」


「ご想像にお任せしますぅ……」


「ところでその制服、(わたくし)と同じ学校ね。何年生?」


「1年です!」


「そう。救助の貘も間もなくここへ来るはずよ」


「やっぱりここは夢魔の罠ですか?」


「そのようね」


「あのっ、名前を聞いてもいいですかっ?」


「私は(とばり)。3年の丑三(うしみつ)(とばり)よ」


「帳お姉様……」


 得夢たちが吐息のようにそう呼称する。


「あの程度の夢魔なら一太刀で倒せるようにおなりなさい。そうじゃないと、極深層では稼げないどころか、命を投げ出すだけよ」


「あんなのが他にもいるんですかっ?」


 居醒が後ろ髪に問いかけると。


 帳は立ち止まり、横顔だけを居醒に覗かせた。


「ナイトメア・ダイアモンドは見たことがあって?」


「いえ、まだ……」


「それが答えよ」


 帳は須臾の間、思いを巡らせた。


「あなたたち、大事な人を守れる力を身につけておかないと、ずっとお友達ではいられなくてよ。よろしくて」


 帳はそう言い残すと、すっと姿をかき消した。


 得夢たちが身を震わせて感激する。


夜船(よふね)ちゃんっ、今の見たっ? 瞬間移動スキルだよっ!」


「最上位ランクの貘は半端ないでぇ、得夢ちゃんっ!」


「かっくいいっ! ねんねの憧れ! はううっ」


「帳お姉様……、なんて素敵な人かしら……」


 うっとりとどこかを見つめる居醒だが、春眠はそんな居醒にほっぺたをぷうっと膨らませて見せた。


「なによ? 嫉妬してるの?」


「居醒ちゃんっ! 浮気は重罪よっ!」


「わたし、まだ誰とも付き合ってないじゃないっ!」


「いいえっ、居醒ちゃんはみんなのモルモットなんだからーーっ!」


「それって実験台って意味ーーーっ?」


 得夢が「まあまあ、落ち着いて」とふたりの高揚感を慰める。


「夢から帰ったら、ちゃんとお礼を言いに行こうね」


「得夢、ねんねも行く!」


「うちらでも買収できひん人が、同じ高校におったなんてなあ!」


 夜船たちが帳の話題で盛り上がるが。


 春眠だけはムスッとしていた。


 居醒がしょうがないなぁと、宝石を取り出して。


「春眠は見る専門なんだから、こういうの好きなはずでしょ?」


「どうかしら!」


「ほら、これあげるから機嫌直して!」


 居醒が大きなルビーを差し出すと、春眠はそれを睨めつけた。


「リアリズムがない憧れなんていらないわ! わたしはね、泥沼の愛憎劇が見たいのよーっ! はふーーっ!」


「あなた、どんな目で友達見てるわけーーっ?」


「でも、ルビーはいただくわっ!」


「この現実主義者ーーーっ!」


 なんだかんだで春眠と仲直りができた居醒であった。




「得夢ちゃん、これからどうしよう。救助が来るまで待つ?」


 居醒がそんな話を切り出したとき。


「みんな、あれを見てーーっ!」


 春眠が通路の奥を指さした。


 鼻から下を包帯でぐるぐる巻きにされた人が、小型の異形の生物に担がれて、廊下の先の丁字路を横切っていく。


「肌が緑よ! きっとエメラルドがお宝ねっ!」


 春眠は両手を合わせて飛び跳ねた。


「あれってゴブリンッ?」と、居醒。


「コボルトやないっ?」と、夜船。


「ホビットとみた」と、ねんね。


「なんでもいいよっ! 助けに行こうっ!」


 得夢たちがハヤブサスキルで丁字路まで直行する。


 壁に身を寄せ、角の向こうを覗き見た。


 水面のような壁面がある。


 波紋の先では石の台座に包帯の人が寝かされていて、その周りを異形の小人が松明と短刀を振り回しながら乱舞している。


「また水の中っ?」


「居醒、これは違うかも」


 そう言って、ねんねがおっかなびっくり突ついてみせる。


「水面の向こうが俯瞰で見えるから、転送装置の類いじゃないかな。夜船ちゃん、どう思う?」


「得夢ちゃん、これはたぶん、行ったら戻ってこれない一通の転送装置やで……」


 異形の小人をかき分けて、大きな異形が現れた。


 大きな異形は涎を垂らして、両手にデザートナイフとデザートフォークを持っている。


「ボスっぽいの出た」


「危殆に瀕する事態だわっ!」


 ねんねと春眠が前のめりになる。


「行こう! あれぐらいなら倒せるかもしれない。救助の人もきっとこれに気づくはず!」


 得夢たちは助走をつけて、水面の壁に飛び込んだのだった。




 世界がぐにゃりと歪んで場面転換する。


 得夢たちが転送されてきたことで、その場所にいたであろうコウモリが逃げ出した。


 天井や周りの壁は天然の岩肌で、明かりは異形の小人たちが灯す松明だけだ。


 ここはどうやら広大な洞窟の中らしい。


 落下と同時にハヤブサスキルで散開し、得夢たちが異形の小人たちに斬りかかる。


 奇襲が功を奏して、反撃を受けることなく異形の小人たちを次々と切り伏せた。


 異形の小人は動かなくなりはしたが、死体がそのまま残存していて、報酬も降ってこない。


 残すは異形のボスだけとなった。


「その子を解放しろっ!」


 得夢たちが武器を突きつける。


 しかしボスは怯むどころか、得夢たちを嘲笑った。


「引っかかったな!」


 ボスがそう言い捨てると。


「引っかかったな!」

「引っかかったな!」

「引っかかったな!」


 死体と化したはずの異形の小人たちが、むくりと起き上がってきた。


 異形の者たちの緑の肌から体毛がモサッと生えだして、頭にネコの耳がひょこりと立ちあがる。


 得夢たちは背中合わせになって、武器を構えた。


「何が起こっているのか、まだわかってないようだなあ」


 耳をひょこひょこさせながら、ボスがそう言うや否や、ボスの片目と鼻が腐って落っこちた。


 異形の者たちはみな、ネコのゾンビと化していた。


「まだわからんかあ?」


 洞窟内の岩肌が茶色くなっていく。


「この洞窟、チョコレートの匂いがするわ!」


 春眠が足下の石を拾って鼻に近づけた。


「まさかっ?」


 得夢はハッとして、大剣の柄にかじりついてみた。


「お菓子になってる!」


 夜船とねんねも武器や石を少しかじった。


 そして、ひとつの答えにたどり着く。


「ほんまや! 動物ゾンビに、お菓子の世界。これってまるで……」


「居醒の夢の中!」


 得夢たちが居醒に目を向けたときにはもう、どこにも見当たらなくなっていた。


「居醒ちゃんっ、どこっ?」


 ボスゾンビネコが腹を抱えて嘲笑する。


「居醒ちゃんをどこにやった!」


「その娘ならここにいるじゃないか」


 ボスゾンビネコが石の台座を指さした。


 鼻から下の胴体を、包帯で縛り上げられた居醒が横たわっている。


「興味本位で一方通行の世界へ入っちゃいけないなあ」


「居醒ちゃん、待ってて! こんなやつら、すぐやっつけたるから!」


 夜船が手近にいたゾンビネコに斬りかかるが、ハルバードはいともたやすく折れてしまった。


「なっ……!」


「それ、ただのお菓子だから」

「それ、だたのお菓子だから」

「それ、だたのお菓子だから」


 ゾンビネコたちがブツブツつぶやいた。


「得夢ちゃん! 防具が元の制服に戻ってるわ!」


 春眠がスカートをバタバタさせた。


 得夢たちはそうして、事の重大さにようやく気がついたのだった。


 ねんねがナイトメア・ゴールドをばら撒いて。


「最強装備!」


 しかし、ナイトメア・ゴールドはひとつも受理されなかった。


「ここは超極深層悪夢だ。武器商人が介入できる世界ではない!」


 ボスゾンビネコがそう宣告すると、突如世界が牙をむいて、得夢たちに強い重力が働いた。


 鉛のリュックを背負っているかのように身体が重い。


 まともに立つこともできなくなって、得夢たちは膝をつく。


 息をするのも意識しないと呼吸が止まってしまいそうだ。


「おまえが居醒ちゃんに取り憑いている夢魔のラスボスなのかっ? なぜ居醒ちゃんを苦しめるっ!」


 得夢が跪きながら声を振り絞る。


「あのお方がおまえたちの相手などせん。そして一生見ることもない。理由も知る必要もない。なぜなら我らの餌食となるからだーーーーーっ!」


 ボスゾンビネコの目や口が裂けるように引きつって、ゾンビ化け猫へと変化する。


 ゾンビ化け猫は身体を巨大化させて、両手を掲げ、鋭い爪を光らせた。


 そして地を揺るがすような咆哮を号令にして、ゾンビネコの無数が一斉に飛びかかってきた。


 得夢たちが武器を投げつけるが、むしゃむしゃと喰われてしまう。


「なにかっ、手はっ……」


 得夢の額に汗が伝う。


「スキルも、切れてるっ……」


 強重力に耐えかねて、ねんねは地面に手をついた。


「くそーっ、最後の最後まで抵抗したるーーっ!」


 夜船が力の限り胸を張るが。


「得夢ちゃん……、また5人で会いましょ」


 春眠はみなに明るく微笑んだ。


 得夢たちが最期の事態を覚悟した――そのとき!


 地面が大きく揺れ出した。


 天井が地割れのように裂け渡り、チョコレートの大岩が崩れ落ちてきた。


 そこからゴリゴリという轟音が鳴り響いてきたかと思いきや。


 巨大な円筒形の白い物体が突き出した!


「なにあれっ、UFOッ?」


 先端にたくさんのライトとドリルがついていて、にゅうっと洞窟内に侵入しては、ズドンと地面に落下した。


 それはまるでファイバースコープ型の掘削機だ。


「よっしゃあああっ、繋がったああああっ!」


「この声って……」


「だいぶ待たせたなあっ、お姉ちゃんたちっ!」


「寝坊ちゃんーーーっ!」


 得夢たちが希望を目にして歓喜する。


「これからリミットをぶっ壊すから、ありったけの強化をするがいいっ! ぜんぶ寝坊のおごりだあああっ!」


 円筒の側面がパカリと開いて、シャボン玉を作るストローの先のような形になった。


 そこへ洞窟の岩壁がボロボロ剥がれて吸い込まれていく。


 ゾンビ化け猫は愕然として戸惑った。


「馬鹿なっ、ここは超極深層の悪夢だぞっ! 武器商人ごときがっ……」


「武器商人を舐めんなーーーーーっ!」


 洞窟内の壁がついに砕けて、悪夢の秩序が瓦解する!


 南中した太陽の日光が、グバアァッと差し込んできた。


 陽気な大気とともに、大勢の貘たちが救助に洞窟へ飛び込んできた!


「あなたたち、災難ね」


「帳お姉様っ!」


 得夢たちを蝕んでいた強力な重力が払われて、得夢たちが意気軒昂に立ち上がる。


 居醒も包帯から解放されて自由になった。


「力が全身全霊みなぎってくるーーーっ!」


「今なら勝てるで! 得夢ちゃんっ!」


「無事で良かったわ! 居醒ちゃん、怪我はない?」


「この日の光、治癒効果があるみたい! さあ、春眠、あのゾンビ化け猫をやっつけるわよーーっ!」


 ねんねがふふんと鼻息を荒くして。


「超人的に、行ってみる?」


 得夢たちは頷いて、声を合わせてオーダーする!


「超人装備! 超人スキル! 超人のエンチャントーーーッ!」


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