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食堂に着き、皆揃って食事を進める。
すると、おもむろに宰相が話しかけてきた。
「先程、たまたま声が聞こえたのですが・・・ノア様と執事の声が。あれは、ノア様だけがやられていることで?」
「ん?あれとは何でしょう?」
「"トーマス、今日の予定は?"というお話しをしていたではないですか。それです。」
「そうですね、他の家族がやっているかは知りませんが、僕は毎日やっています。それをすると、僕もトーマスも、一日の始まりにシャキっとするというか・・・なんというか。毎日のルーティーンなので、やらないとしっくりこないのです。」
「ルーティーン・・・?」
あ、そうか。ルーティーンって意味の言葉がないんだった。
「ルーティーンというのは、毎日決まったことを続けることを言うのです。たとえば、寝る前にティータイムを毎日楽しむ人もいますよね?そういう、毎日する決まったことをルーティーンと言っています。」
「ほう。それは興味深い。」
「私たちの場合は、必ず毎朝やっています。たとえ、僕が予定を知っていたとしてもです。」
「それはなぜ?」
「毎日のルーティーンですから、やると”さあ!やるぞ!”という気持ちになります。それに、どちらかの記憶違いがあっても、1日の始まりに確認できますから、もし間違いがあったとしても、影響が少なくなります。」
「なるほど。実にいい案ですね。取り入れても?」
「もちろん。特許などではありませんから。」
トーマスも、主が褒められて、宰相にまで採用されるようなことになって、嬉しいのだろう。
後ろを見ると、ニコニコのトーマスがいた。
「それにしても、ノア様はすごいですね。」
「宰相様、お伝えできておらず申し訳ありません。一介の辺境伯の子と言うだけで、まだ何もなせていない僕に、様をおつけするのも、敬語をお使いになるのもおやめ下さい。」
「あっ・・・申し訳ない。ノア・・・君といると、なんだか大物オーラがあって、ついつい・・・」
「いえ、公式な場ではありませんので。でも、今後は。」
「そうだな、うん。このような制度といい、剣術、魔術ともに、才能がある。今後も活躍を期待してます。」
「ありがとうございます。」
そう話したり、兄上の勉強や剣術などの話しもして、父上や陛下との学友時代の話しを聞いたりして、なごやかに朝食を終えた。
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「リートルテ辺境伯、ご家族様。この度の急な訪問に応じていただき、ありがとうございました。陛下にもくれぐれもお伝えします。」
「宰相様、遠路はるばるお越しいただき、激励をいただき、ありがとうございました。どうぞ、陛下にもよろしくお伝えください。」
ここまでは、形式的なもの。書記官もいるしね。
そのあと、書記官が先に門を出ると、近づき話しをしていた。
「今度は、通常の手続き踏んでくれよ。準備が大変で敵いやしない。」
「いや、すまなかった。今度こそ。陛下にも元気だったと伝えるよ!王都に来たら、飲もう。」
「ああ。それから、子供たちのこと、頼むぞ。」
「もちろんだ。陛下も私たちも、旧知の仲だ。脅されちゃったし、悪いようにはしないさ。」
そう言いながら、手を振って帰って行った宰相だった。