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「やはり、宰相様も印象はよろしくないのですね。」
「え、ええ・・・それもあるのですが、他国に行かれたいのですか?」
「そうですね。視野を広めたいという意味では、その通りです。でも、他国に限った話しではありません。我が国でもいろいろなところを見たいと思っています。」
「そう、なのですね・・・」
きっと複雑な思いなのだろう。
利用しようとは思わないが、他国に取られるのは嫌だと。
「ご安心してください。宰相様が思っているようなことには、なりません。」
「え・・・?」
「ノアは、貴族籍を放棄したいと考えているんだよ。今ほど宰相がゼンで良かった。陛下が、先輩で良かった、と思ったことはないね。」
「どういうことか、説明してもらっても?」
「ああ。ノア、良いか?」
「はい、父上の思うままに。」
「まったく。複雑だな。他の者の前で言うなよ?違う意味にとられる。むしろ、そっちに感じる者のほうが多いだろうからな。」
僕としては、信頼してるからという意味なんだけど・・・
他の意味?
ああ、そうか。父上が家族の絶対的存在とも、とられるか。
「納得しました。すみません、父上。」
「いや、いいんだ。さて、理由は簡単だ。ノアは、ステータスもいいうえに、頭もいい。そのうえ、魔法や剣術も、これから国一番になるだろうな。そんな者が貴族だったなら、どうなるか。宰相なら、わかるだろ?」
「はっ!利用しようとする者がでてきますね。ないとは思いますが陛下や、王家が指示すれば、貴族であるノア様は、動かねばならないこともある、ということか。」
「その通りです。辺境伯に指示できる者は多くはない。でも、利用されるかもしれない。貴族会議で、戦争をしようと言われたら?辺境伯一家である僕が、次期当主の兄上を出して、僕は出ない、なんてわけにはいきません。むしろ、我が家なら僕が一番に出るべき人間でしょう。ただ、僕は無用な争いは起こしたくない。殺生だってしたくない。僕のせいで、死ぬ人間が出てくるのは嫌です。だから、騎士になるという道もあり得ない。騎士は国が雇用主だから。だけど、人助けはしたい。それに僕は、意志をもち生きる者を他国の人間だから、平民だから、という理由で助けないということはしたくないのです。騎士は守るべき相手が決まっている。僕は誰であっても助けたい。だから、冒険者なのです。」