34
「ノア、ご挨拶を・・・」
そう父上に言われ、一歩前に出て一度礼をする。
「はい。只今ご紹介に預かりました、ノア・リートルテでございます。本日は、僕のためにご足労いただき、誠にありがとうございます。洗礼式を終えたばかりの若輩者ではございますが、どうぞ今後は、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します。短い時間ではございますが、どうぞお楽しみください。」
そう僕が挨拶をすると、大の大人、しかも貴族の高貴な方々がポカーンとしている。
数人いた子供たちは、何?という感じで、大人の顔を不思議そうに眺めている。
挨拶、何か変だったかな???
数秒の間、沈黙が続く・・・
どうしていいか分からない僕は、父上や母上を見上げたり、隅に控えている兄上たちにも視線を送るが、ボーっとしていて、どうにもならない。
トーマスに視線を送ると、トーマスはハッとして、視線が合ったが、首を横に振られてしまった。
えー・・・どういうこと?どうにもならないってこと?
仕方ない。前だけ、見てよう。
時間にして、10秒くらいだろうか。
二番目に我に返った父上が、咳払いをして、言葉を続ける。
「ええー、コホン。この度のノアの洗礼式ではステータスも非常に良く、それ以前の幼いころから才覚を見せている自慢の我が子です。どうぞ、今後ともよろしくお願い致します。」
皆呆然としていたが、父上の一言で皆我に返ったようだ。
女性は扇で顔を隠し、男性は口を閉じた。
さすが、お貴族様だ。
父上の言葉で締め、一度檀上を降り、家族や執事と袖の中に入っていく。