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最後の公爵の挨拶が終わり、大広間の方へ向かったのを見届けて、まずはお出迎えが完了した。
「よし、じゃあ行こうか。」
そう言って、母上に手を差し出す父上。
母上は、ゆっくりと手を乗せる。
洗練された本物の貴族のエスコートの申し出と、お返事。
いつもは、そのままエスコートを始める父上だが、今日はそうではないらしい。
「ノア。ノアもおいで。」
「え!?でも・・・」
と、言いよどむ僕。
エスコートしている手と、反対の手を僕に差し出している父上。
手を繋ごうという意味かな?
でも、公の場にその状況で登場するのは・・・
と一瞬の間に、いろいろなことを考える。
つん、と眉間をつつかれた。
目を開けると、母上が僕の眉間をツンとした状態でいた。
「ノア、緊張してるだろ?なに、壇上へあがるときまで、こうしてようって訳じゃない。大広間まで、こうして行こう。大丈夫、一人じゃない。」
と、力強く父上が伝えてくれた。
「そうですよ。ノア、甘えていいのよ?」
「はい!母上、父上、ありがとうございます。」
暖かいなぁ。家族って、幸せだな。
と噛み締めて、大広間までの道を父上と手をつないで歩いた。
あ、なんで僕がこんなに緊張しているのかって?
前世では、人前に立つことなんて全然なかったんだ。
学生のときだって、発表とかがあってもなるべく目立たないようにしていたし、注目されることが苦手だったから。
それに、転生してから家族や騎士以外と会うのは初めてだし、貴族社会は油断も隙もないと言う。
いくら、我が家に好意的な貴族だからと言って、ヘタをすれば揚げ足を取られかねない。
貴族の子供が初めて御披露目させる機会ということで、洗礼式パーティーは、マナーや社交においても比較的緩いとは聞いているけど、普段のパーティーでは値踏みされることもあると聞く。
隙を見せられないと、だいぶ緊張しているのだ。