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「はああ。」
僕は盛大にため息をついて、続けた。
「わかった。父上、邸の前で騒がれては、領民に迷惑です。ここはひとまず、中へいれましょう?」
「はあ・・・嫌だが。本当に嫌だが、仕方ないな。」
父上もため息。そりゃそうだろ。
夜分遅く、先触れもなしにやってくる人間が、まともな人ではないのは明らかだ。
幸い、まだ湯あみはしていない。
だけど、一応。礼儀知らずの人間でも、こちらは礼儀を通す。
着替えて、玄関へ向かう。
家族全員がそろっていた。
僕を心配して、みんな来てくれたんだろうけど、
これじゃあなんか、逆に手厚く歓迎しているように見えないか?
なんて思ったのだけど、無情にも時間が来たようだ。
玄関が開き、伯爵夫妻と、子息が出てきた。
え・・・見た目もサイアクだな!
一言で言うなら、デブだ。
「やあやあ、手厚い歓迎ありがとう。おたくのお隣の侯爵につかまってしまって、なかなかこちらに来れず、こんな時間になってしまったよ。アッハッハ」
なんだ、この人。
悪びれる様子もなく、侯爵につかまっていたことを自慢してるようだな。
ほんとにバカなのか。
なんでこんな人に、爵位があるんだ。
もったいない。
「デーブル伯爵ですね。このような時間に、何用でしょうか?」
「ん?いやはや、ご子息の噂を聞いて、ぜひうちの息子の婚約者に、と思ったのだ。」
「そういう場合は、普通釣書が先ですが?」
「いやー、息子がご子息に興味を持ちましてね。善は急げというやつですよ。」
「だとしましても、こちらとしてはこのような時間に来ていただいても、何もおもてなし・・・いや、困るんですよ。」
「それは、申し訳ない。だが、そちらにも都合がいいだろう?」
「どこがでしょうか?」
「あら、辺境伯ともあろうお方がそのようなことも分からないのですの?王都の伯爵家に嫁として平民になるしかない次男が来れるのよ?しかも辺境の田舎貴族が、王都に進出できるのですもの。願ってもないでしょう?」
「ブヒッ、こいつなら抱けるな。」
子息は汚らしく息をしながら、僕をなめまわすように見つめる。
キモイ。
早く終わってくれ。
父上は玄関から先に入れず対応していることからして、歓迎されていないと分からないものなのか?
王都では、これが普通なのか?
「とりあえず、今日のところは宿にでもお泊りください。先触れもいただいていないもので、何もできませんので。」
「あら、失礼しちゃうわ?行きましょ、あなたたち。」
そう言い、帰って行った。
よかった、泊まるとか言いださなくて。