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僕が近寄ると、その何かがこちらを向いた。
『君が、ノアか?』
「はい。」
『そうか。私を助けてくれてありがとう。私はペガサスだ。それと、フェンリル・・・いやリルの世話もしてくれてありがとう。リルは、生まれたばかりのころから、私たちもお世話していた。なに、神界では幼子は皆で育てるのだ。普通のことさ。こちらに来た時も、まだまだ子供だったようだ。そんなリルがこんな立派に大きくなってきているのは、そなたのおかげだろう。』
"ああ、やっぱり。ペガサス様でしたか。いえ、リルは神様が私へ授けてくれた、大事な家族だと思っていますから。当たり前ですよ。"
『なるほど。さすが神に認められるだけはある。』
"いえ、それほどでもないです。普通ですよ。"
『そなた・・・自己肯定感が低いのではないのか?それとも謙遜か?』
"え?"
『謙遜も度が過ぎれば、嫌みだぞ?』
"ああ、典型的な日本人の・・・あ”。"
『日本人、とな?うむ。聞いたことないな。私は長いこと闇に支配されていたらしい。神様とリルは知っているのだろうな。なるほど。』
"えっと・・・はい。"
『そうか。うむ。決めたぞ。そなた、私と契約しないか?』
"え!?"
『なんだ、私じゃ不満か?私ならリルの世話も見れるぞ?』
”い、いえ・・・そういうことではなくてですね。”
『ああ、そうか。そなたは貴族なのだな。そうか。利用されたりするのでは、面倒事に巻き込まれそうだと考えているのか。』
”ええ!?ペガサスって心でも読めるのかな・・・”
『まあ、念話ができるくらいだからな。そなたも練習すれば、出来るようになると思うぞ?まあ、練習しなくても出来るようになるかもしれんが。』
”ええ!?そんな・・・”
『知ろうと思わなければ、分からないさ。』
”え、でもこわっ・・・”
それって戦術を頭で考えても、相手にバレちゃうってことだろ?
戦いにおいても、社交においても、そんなことが出来る人間が強いに決まってる。
本能のまま戦う魔物とか、本能のまま戦う人間じゃなければ、意識せずとも事前に何をしようとしているか、頭で考えてしまうものだ。
それが筒抜け・・・僕はつい、ブルっと身ぶるいしてしまった。
『それで、そなた私との契約はどうだ?なに、神様から提示をさせればいい。王侯貴族であろうと、ノアの意思に背くものは、魔力を回収する、とな。』
”えーっと・・・それは。はい。もちろんです。”
実質僕に選択肢なかったような・・・
んーてことは名前だよな。名前・・・いいのないかな。
なんか、安直だけど
”ペスってどうですか?”
『いいね、気に入ったよ。』
その返事をもらったから、魔法を行使した。
_コンタクト・ペス_
こうして、ペスが浄化され、魔物もいなくなり、スタンピードは幕を閉じた。
ペスを連れ帰った僕に、父上がビックリしてひっくり返ってしまったり、母上が目を開けたまま失神したり、兄上がやたら僕をほめてきたり、姉上がほおずりをして離さなかったり、ペスのご飯はなんだと使用人がてんやわんやになりながらも、日常が戻ってきたのだった。