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【完結】灰ノ雫 ~Noah et Luna~  作者: tori
 April Holiday

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 救世主はティアと過ごす

「あー…少しだけ眠いな」

 

 残り数少ない休日の九時頃。

 それを潰すかのようにティアから「お会いできますか?」という連絡が入り、ノアはショッピングモール街近くにあるバス停へと向かっていた。


「ノア、お疲れ様です」

「あぁお疲れ」

  

 バス停で待っていたティアの私服姿を見て、ふと思ったこと。

 それはティアが肌の露出を抑えている格好が多いということだ。狐の面を被っているのは相変わらずだが、真夏ではないのに、寝間着は長袖に長ズボン、今の私服姿だって長袖のワンピースに黒タイツで脚を隠して完全防備をしている。


(寒がりなのか…?)

「…私の服に何か付いていますか?」

「あー…ボタンが付いているな」

「そういう冗談は、私の前以外では口にしない方がいいですよ」


 誤魔化そうとした結果、ティアに冷ややかな視線を送られた。

 自分で言うのもあれだが、確かに今のは軽々しく口に出さない方がいいかもしれない。

 

「…で、どうして俺を呼び出したんだ?」

「このエデンの園に来てから、行ってみたかった場所があるんです」

「行ってみたかった場所? どこだよそれ?」

「この島の真反対。私たちが今いる場所と対称に位置する場所です」


 どうしてそんなところに行きたいのか、そんな問いはしなくとも、ティアがそこへ行こうとしている理由は何となく察していた。


「…この距離の間にバス停がないワケを調べに行くのか?」


 利用をしているバスを使えば、この島を一周して様々な施設への交通便をとして利用できる。その間の距離もある一か所の部分を除いては一定間隔で施設が建てられているのだ。


「ええ、その通りです。教会とドームの間、そこだけ倍以上の距離が空いている。これは前々から妙に思っていました」

「やっぱりお前も気が付いていたんだな」


 その法則を唯一乱しているのは、ここから丁度島の反対側の場所。

 教会とドームの間だけバス停が置かれていないのに加え、通常の間隔であれば十分程度かかる道が、そこの間隔だけ三十分以上も掛かるほどの距離が空いている。一部の者なら、学校へと通学している最中に可笑しいと薄々勘付いているはずだ。


「ノアなら既に調べ終えていると思っていましたが、まだ手さえ付けていないようですね」

「この世界のことを調べるのに必死で時間が足りなかった。記憶喪失というのも楽じゃないんだぞ?」

「楽だなんて思っていませんよ。普通に生きることさえも楽じゃないので」


 停留所にやってきたバスに二人は乗り、三十分ほどかけて移動をする。ティアは席の隣で持ってきた本を読みながら時間を潰し、ノアはジュエルペイの画面をじっと見つめながら考え事をしていた。


「…何を考えているんですか?」

「あー、次の殺し合い週間をどう乗り切ろうかと作戦を考えてる。お前はどんな内容の本を読んでいるんだ?」

「見てみますか?」


 ティアが読んでいた本をこちらに渡す。

 彼女がどんな本を読んでいるのかと少しだけ想像を膨らませながら、書いてある文に目を通してみた。


『ちょっと!? 何よこの女…!?』

『私のお腹には赤子を授かっているのにあなたは他の女を選ぶのね!?』

『この外道! 今すぐ家から出て行って!!』


「…ティア? この本は?」

「主人公の男が三人の女をたぶらかして、修羅場を潜り抜けるドロドロの恋愛ストーリーです」

「……あ、そうですか」

 

 頬を引きつりながら、その本を丁寧に返す。 

 ティアがこのような類を好き好んでいるとは想像だにしなかったことで、変に敬語を使ってしまった。


「まもなく~、教会前、教会前に到着します~」

「降りましょう、ノア」


 二人で教会前のバス停へと降車し、バスが去っていくのを見送ると辺りを見回しながら


「ここから歩きだな」

「ええ、そうですね」 


 ドームへと向かって、ノアとティアは共に歩道を歩き始めた。


「……」

「………」


 ノアは歩くこと自体が別に嫌いというわけではないので苦とはならない。

 しかしそれは一人で歩く場合に限り、誰かとこのように無言のまま歩くのは拷問に近いほどの苦しみを与えられるのだ。よく考えてみれば、自分の周りにはルナ、ブライト、レイン、というような積極性に溢れる相手ばかりで、常に話を振ってもらっていた。


 いつの日か話せるようになったと自負していたのは気のせい。

 殺し合い週間以外では、自ら話を振らないティアと二人きりになってそれが良く分かる。


「…ティア」

「何ですか?」 

「歩くの疲れないか?」

「歩き慣れていますので特には」

「そうか…」

 

 どんな話をすればいいのか全く見当もつかなかった。ルナはどうやってあそこまでコミュニティの幅を広げることが出来たのだろうか。今更になってその部分だけを尊敬してしまう。


(…! 第一キャパシティを使って、喋りの上手い人を真似すればいいのか!)


 自分が生きていた時代に流行っていた番組の司会者を思い出す。

 大人数を相手に話の振り方がとてつもなく上手かったため、救世主としてこれぐらいはこなせないといけないと思いながら、勉強の為に動画を何度か拝見していた。それを今こそ発揮するときだ。


「ティアはこの休日何してるん?」

「…休日ですか? 休日は自分の部屋で本を読んで過ごしています」

「それ完全に引きこもってるやん! 少しは外に出て運動しないと、埃が被ってしまうで! …本だけにな!」

「……ノア? 急にどうしたんですか?」


 一ミリたりともウケない。

 なんなら場の空気が完全に凍っている。やはり人の喋り方を盗んで再現しても、容姿が違うだけでこんなにもシラケたりしてしまうのだ。自分の中で良い勉強になったと深く心に刻み、第一キャパシティを発動することを中止した。


「キャパシティを発動するほど、私と沈黙したまま歩くのが嫌なんですか?」

「いやいや! そういうわけじゃない! ただ、何か話そうにも思いつかなくてな」

「頭を悩ませるぐらいなら、無理をして会話を交わさなくていいと思いますよ。言いたいことがあるときに口は使うものですから」


 ティアがこちらに向けた顔を前方へと戻したとき、その場に脚を止める。


「…ノア、あれは?」


 ティアの視線の先には、人型をした何かが倒れていた。

 それはもぞもぞと動いて、浜辺へと這いずりながら向かおうとしている。


「…アレから創造力を感じ取れないな」

「どうします? 近づいてみますか?」

「そうだな。何かあっても俺がどうにかするよ」


 息を呑みながら二人でそのもぞもぞと動く人型の元まで接近してみれば、それは服を着ていなかった。全裸でうつ伏せになりながら、ひたすらに浜辺へと向かう。


「…大丈夫ですか?」

  

 ティアが声を掛けてみたが、一切応答はない。

 ただ無心に浜辺へと向かっているだけ。


「……おい、聞こえてないのか?」 


 今度はノアが試しに声を掛けてみる。


「動きが、止まりましたね」 


 すると、ノアの声には反応をしたようで這いずり回る動きをその場で止めた。


「こんなところで何をしてる? 服も着ていないし、一体どこから来たん……」


 硬直している人型の、肩らしき部分をノアが左手で掴み上向きに向けさせ―――



【縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�縺雁燕縺ョ縺帙>縺�】



「――!?」 

「な…何ですかこれは…!?!」 


 その瞬間にノアの首を両手で絞めながら、聞いたこともない言語をひたすらに叫び続ける。それにも驚いたが、何よりも目を疑ったのはその人型の顔。口、目、鼻が本来の正常となる位置には付いておらず、福笑いで完成した顔のようにバラバラの位置に付いていたのだ。


「チッ、離せ!!」


 ノアは舌打ちをしながら、人型を浜辺の方へと突き飛ばした。両手で首を絞められたが、その力はあまりにも貧弱で、ほんのちょっとだけ呼吸がし辛くなる程度の被害。


「ノア! 大丈夫ですか!?」

「あぁ大丈夫だ。それよりも、こいつ……」


 突き飛ばした人型は再び浜辺の方へと這いずりながら向かっていた。この人間なのか人間じゃないのかさえ不明なモノは、一体何なのか。それを考えていると


「…! 下がるぞティア!!」


 上空から何者かが接近してくるのを感じ取り、ティアの腕を引いて人型から距離を取った。


「――あいつは」


 その人型の上に着地をしていたのは、白いローブを身に纏いゼルチュの側近として務めているペルソナ。仮面のせいで、相も変わらずその表情は窺えない。

 

【縺ゅ≠縺ゅ=縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺」縺√▲縺√▲縺√≠縺√=】

 

 言語は分からずとも、その下に敷かれている人型が悲鳴を上げていることは何となくだが理解ができた。何故ならペルソナが着地をする瞬間に、上半身の臓器が潰される音や、背骨が真っ二つに折れたりする音が、同時に聞こえてきたからだ。


「……」


 ペルソナはそんな悲鳴などにうろたえたりはせず、無言のまま右足を振り上げた。


「……! おい待て、そいつはまだ生きて―――」


 ノアがそう言いかけた途端、人型の頭が風船のように破裂する。

 大脳、小脳、あらゆるものが辺り一帯に飛び散り、ティアの狐の面にも脳汁らしきものが掛かってしまう。


「…ペルソナ、だったな?」

「……」

「お前が殺したそれは何だ?」


 その問いにペルソナは何も答えない。

 ただ右手に付けたジュエルペイを操作して、誰かに連絡をしているようだ。


「だったら―――」 

「……」


 ノアが構えた途端、ペルソナもほぼ同じタイミングで構えた。

 これの狙いはペルソナに臨戦態勢へ入らせること。創造力を感じ取れないペルソナがどれほどの実力者なのか、それを試すために行ったのだが…


「…ダメ、か」

「………」


 本性を表すことは一切なかった。

 ノアはその結果に溜息を付いて、臨戦態勢を解いた――

 

「…なんてな」


 と思わせて、ペルソナの目の前まで接近をし、創造力を込めて創り出したナイフを突き刺そうとする。


「……」

「――なっ!?」


 しかしそのナイフは、ペルソナの指先一つで光の塵へと変わった。

 

(創造破壊…しかも創造力が弱い個所をあの一瞬で的確に狙った) 

「……」 

(こいつ、何者だ?)


 Sクラスの生徒たちよりも実力は恐らく上。

 もっと言えばこのエデンの園でトップを取っている可能性だってあり得る。あの一瞬だけでそこまでの実力が備わっていると実感したのだ。


「不意を突いて悪かった。お前が一体どれほどの実力なのかを知りたかったんだ」 

「……」


 ノアがペルソナに軽く謝罪をすれば、側に転がる死体と共に白色の霧となって消えていく。


「…ティア、大丈夫か?」


 ペルソナが完全にその場から消えたことを確認すると、隣で呆然としているティアに声を掛けてみる。


「ノア、あのペルソナと呼ばれている者は…確かにあの人間を殺して――」

「…いや、あれは人間とは捉えられていないらしい」

「それは…どういう意味ですか?」

「ペルソナのネームプレートを見たか? あの人型を殺す前も無色で、殺した後も無色だったんだ。このエデンの園で人間を殺せば色は変わっていく。確かにゼルチュはそう言っていた。それを踏まえて考えてみれば…あれは人間じゃなかったとしか考えられない」


 ノアの話を聞きながら立ち尽くしているティア。

 そんな彼女を心配した彼は肩に手を置いて「大丈夫か」と声を掛ける。


「…ノア、私の脚は竦んでしまったようです」

「脚が竦んだだって? それはしばらく待てば治りそうか?」

「……厳しいかもしれません」

「…じゃあ、バス停まで俺が背負ってくよ」


 足が竦んで動けなくなったティアを背負いながらバス停まで歩くノア。

 そんな彼の脳裏には、あの人型が発していた理解不能な言語が何度も繰り返し再生されていた。


(…俺は、アレをどこかで聞いたことがある)


 辺りに響く波の音。

 ノアの耳にはそれさえも入らないままだった。

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