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5 やっぱり、オチはコレ

 『なでしこ園』に戻ると、まだ誰も起き出してはいなかった。

 どうやらギリギリセーフ。

 そうっと靴を履き替え、音をさせずに廊下を歩き、自分の部屋の扉を開ける。


「……!」


 目の前には、サラちゃんがいた。泣きべそをかいている。


「サラちゃ……」

「お、起きたらアオイちゃん、いなくて……」

「あ、ご、ごめん!」


 ぎゅうっと抱きしめると、サラちゃんもぎゅうっとしがみついてきた。


「ごめんね、アオイちゃん。アオイちゃん、私のために怒ってくれたのに、私がアオイちゃんは悪くないって言えなかったから……!」


 サラちゃんはサラちゃんで気に病んでたみたい。

 わたしは園長先生の説教が終わったあと、ふてくされてすぐにベッドに潜っちゃったから。

 そういえば、二人で話す時間は全くなかった。


「わたしこそ、ごめんね。口で言えばいいのに、叩いちゃったから」

「ううん」

「それにね、サラちゃんのために怒ったんじゃないよ。腹が立って我慢ができなかったの」


 サラちゃんの体を離して、頭を下げる。


「ごめんね。わたしが暴れたからサラちゃんまで怒られちゃったよね。もうちょっと我慢するようにするね」


 かあっとなるのは自分で自分を認めてなかったから。

 それに気づいた今ならきっと、少しは我慢ができるようになった、はず。

 ありがとう、テーへんさん。


 そんなことを考えながら力強く頷いて微笑むわたしに、サラちゃんもホッとしたような笑顔を見せた。


「あの、でもね?」

「うん? なあに?」

「私はすぐ言いたいこと飲み込んじゃうけど、アオイちゃんがね、バーッて言ってくれるからね。それでね、ちょっとスッキリするときもあるの」

「そうなんだ……」

「だから、私が嫌な役をアオイちゃんに押し付けてたかも。ただウジウジと後ろに隠れて……」


 サラちゃんはサラちゃんで、そんな風に思ってたのか。ちょっと意外。

 わたしは言いたいことを自由に言っていただけだから、気にしなくていいのに。


「そうか、役割分担すればいいんだ!」

「え?」


 急に叫び出したわたしを見て、サラちゃんがきょとんとした顔をする。


「もしわたしが暴れそうになったら、サラちゃんが止めて?」

「え?」

「うまく喋れなくても、わたしの腕を引っ張ったりしてくれればいいなって。だからね、わたしが言いたい事はいっぱい言う。……あ、ちょっとは我慢するけど」

「……でも、それじゃあ……」


 今までと変わらない、と思ったのかサラちゃんが申し訳なさそうな顔をする。

 違う。全然、違うよ。

 自分がただ言いたいことを言うのと、サラちゃんのことも考えて言いたいことを言うのは。


「わたしは言いたいことを言ってスッキリ。サラちゃんはそれが聞けてスッキリ」

「……」

「だけどやり過ぎはマズいからサラちゃんはわたしは止めて謝る。わたしは謝るの苦手だけど、サラちゃんが一緒にいてくれたらちゃんと謝れると思う」


 わたしは人の悪かったところを言うばかりで自分の悪かったところは全く考えてなかった。

 ムカッてくると、そういうの吹き飛ばしちゃうから。


「うーんと……それでいいの?」

「それ()いいの。一緒に助け合って頑張ろう、サラちゃん!」


 わたしはサラちゃんの手をギュッと握った。


「とりあえず、ミカちゃんに謝るの、手伝って?」

「……うん」


 こくりと頷くサラちゃんの頬の涙は、すっかり渇いていた。

 お互い、抱えていた大きい荷物を下ろしたような、晴れ晴れした顔をしている。


 良かった。やっぱり、帰ってきてよかった。

 ううん、違う。それもよかったけど、その前にテーヘンさんに会えてよかった。

 わたしも少しは役に立ててるといいな。ありがとう、テーヘンさん。



   ◆ ◆ ◆



「やり過ぎだそうですよ、エクス(フォー)


 テーヘンが不満そうな声で隣にいる少女に文句を言う。


「だって、あそこがお試しモードのピークでしょ? 『リナ』がどう出るか興味があったの」


 少女はそう答えると、クスッと笑った。ゆるくウェーブのかかった茶色い髪が肩で弾む。

 しらっとそう答える少女を、テーヘンがジロリと睨んだ。


「わざと、現実と似たような状況に持っていったでしょう」

「……」

「アオイさんに現実を思い出させるように仕向けましたね」

「そんなことはないんだけど」

「――前にも言いましたがね」


 テーヘンが凄みのある声を出しつつ少女を睨み続ける。


「わたしの仕事の邪魔をしないでもらえませんかねぇ?」

「あら、テーヘンさんの仕事はデータを取って感想を聞くことでしょ? 邪魔はしてないはずですけど?」

「うぐぐ……」


 少女の言葉に、テーヘンが喉を詰まらせる。

 そんなテーヘンの様子を見て、それまですました顔をしていた少女の瞳に、ギラリと強い炎が差した。


「だいたいねえ、あんな子供を『ドール』にしようとするなんて、テーヘンさんはあくどすぎるわよ!」

「…………」


 エクス4と呼ばれた少女の言葉に、テーヘンは目を逸らす(ゴーグルの奥なので定かではないが)。


 エクス――それは、このゲーム世界で様々なキャラの中に入り演じる、地球人の演者のこと。

 特別な素質が必要で、以前にウンチャカ人のゲームに参加した中からスカウトされ集められた、特別な存在。

 このゲーム世界に何度も入りキャスティングされ、その時に応じていろいろなキャラを演じる。

 テーヘンがよりゲーム世界を地球に近づけるため、その情報収集としてはどうしても必要な人材。


 エクス4と呼ばれた少女は、正規のエクスとしては4番目。

 若干16歳ながら、小学生から大人までさまざまな人間を演じ、今回のようにアドリブも交えながら場を支配する凄腕の演者だった。


 そして『ドール』とは、現実世界の記憶を失い、完全にゲーム世界の住人となった者のこと。

 もともとが地球人である以上、プログラミングする時間も調整する手間もかからない、ゲーム世界において優れたキャラクターとなる。

 本来、まだ子供だったアオイに持ちかけていい取引ではなかったが、本人が強く望めば話は別。

 成長途中である子供のプログラミングは、特に難しい。

 手っ取り早くゲームを完成形に近づけるためには、非常にいい機会だったのだが……。


「職務違反ギリギリね」

「ウソは全くついていませんし、何の問題もないはずですが」


 そう言い返したものの、テーヘンの方が明らかに分が悪かった。

 しおしおとてっぺんのトンガリが傾いていく。


「はぁ……肝心なステージに限ってエクス4がキャスティングされるのはどういう訳ですかねぇ」

「肝心だからじゃないかしら。私、エクスとして優秀なのよ?」

「それは、よーく存じてますがねぇ……」


 テーヘンのその言葉を最後に、『社長令嬢・リナ』の舞台が完全に閉ざされる。


「じゃあ、これでアガリよね。お疲れさま!」


 閉鎖を見届けたエクス4の姿がすっと消えた。

 少女を見送ると、テーヘンは浮き輪の内側に並んでいるボタンをプチプチと操作し始めた。

 次の地球人のターゲット情報を確認し、一つ溜息をつく。

 気を取り直し、ピンとてっぺんのトンガリを立てる。すっと、その姿が消えた。



”はぁ~~、えんや~こら~あ~~。つぎぃの~、お客さまの~、もと~へぇ~~”


 テーヘンの音痴な歌声が、何もなくなった空間に何とも言えないおかしな響きをもたらしていた。




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テーヘンさん初登場
テーヘンさんのお客さま

ついにテーヘンさんがゲーム世界にいざないます
続・テーヘンさんのお客さま ~タクヤの場合~

久しぶりに帰ってきました
お帰り・テーヘンさんのお客さま ~アオイの場合~
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