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江戸前サムライ

「なんだなんか見える……」




 まるで水の中にいるような浮遊感、そしてこれは、



「戦争……?」



 紅く燃えあがる炎。そうして逃げ惑う人々。けれどみんながみんな助かる訳ではなかった。建物が崩れ、悲鳴と共に消えゆく命。


「母さん?」




 夢のようなその感覚は心地が良く、もうこのままここにずっと居たい。そう思える程だ。

 リュージのお母さんが赤ちゃんを抱きしめている。



「この子の名は何にしようか?」

「そうね、あなたは何かいい名あるかしら?」



「父さん……父さっ!」



 叫び、手を伸ばす。が、聞こえる事もなければ触れる事も出来ない。



 見る事しか出来ない、残酷な夢なのだから。けれどこの夢は誰が見せているのだろうか。誰の目線なのだ……。





「ほれ、起きんかい。アホが!」



 気を失い倒れているリュージの上で馬乗りをするワラシ。



「いつまで寝とんじゃい。このナスが!」


 そんなくだらない言葉しか言えない。そしてリュージの頬を引っ叩くが、全くもって起きる気配がない。


「わかったわい、君がそんな態度ならこちらとしても良い方法がある。まだ誰にも使っていないが……」

 ワラシはそう言うと、スカートの右ポケットから赤い飴玉のような物を取り出した。それを握り手を胸に当てる。



「慈悲を、我、妖憑きにして座敷を守りし怪異。大王様我に、我に力を下さいませ」



 そう言うとワラシはリュージの頬を、


「ペロ、ぺぺぺぺぺ、ペロ」


「お前はバカなのかあぁぁぁあなんで舐めるんだよ!」


 勿論、飛び起きる。




「あら、やはりこの妖術は伊達に強力と言われてないな! 凄いぞ私! 偉いぞわっち!」

「次、やったらハンバーグが食べられないようにしますよ?」

「ちっ……ごめんなはい……」


舌打ちをするワラシだがリュージは優しい。


「まあいい、こんな所で言い合っても仕方がない……あ、見てみろワラシ」


 リュージはそう言いながら右の方を指さしたのだ。そこには見た事もない世界があったのだ。



美しい余程に緑色の山々、木でできたたくさんの家、広くどこまでも続く田んぼ、賑わう人々、頭がちょんまげの人……。



「え……、まさか……」



勿論すぐにリュージは理解した。ここがどこなのか。だかそれが現実なのか夢なのか。



「勘弁してくれよワラシどーゆーつもりだよ、お前の仕業だろう?」


ワラシに話しかけるが言葉を返すことが出来なかった。



「どうした? そんなぼけっとして」

「わしの生まれた地だ、わしが育った地にちがいない……」



そう言うワラシは目を光らせていた。過去へ戻って来た。故郷へ帰ってきたのだ。懐かしい自分の生まれ育った場所へ。


「江戸なのか……ここは」

「勿論だ! きっとあの時代じゃ!天ぷらだ!」


ワラシにはわかる。妖力で感じることが出来るのだ。ここがいつの時代なのか、空気を感じれば直ぐにわかるという。



「ワラシが生まれ育った地ならば、この時間軸にはワラシが二人いることにならないか?」

「ん、なぜじゃ?」


「もしこれが最近のアニメで見た感じだと異世界転生になるのだけれども、そもそもここは江戸かもしれない。そうなればタイムスリップだ。もし仮にこの移動がタイムリープだった場合、僕はこの時代には存在していない。となるとタイムリープは不可能だ。すると必然的に自然的にこれはタイムスリップとなるわけだ。じゃ、ワラシが二人いることにならないか?」



リュージが言った事は最もな事だった。もし仮にワラシ同士が会うことがあり、その時代に干渉しすぎるとする。そうすれば大きく未来が変わってしまうかもしれない。それともすでに時間軸の分岐が始まっているのか。ありゆる話だ。なんにせよこの時代に来た限り、気をつけて行動をしなければならなくなる。



「と、言ってもワラシがワラシに会わなければ問題はないだろう」

「まぁ、そういうものなのかのう?」

「でも、このまま帰り方も分からないとなるとここで暮らす事となる。まずはあれだ、なんたら異世界生活とかやっていた、あれをしよう」


「ん?」


リュージはそう言うとカバンをひっくり返し所持品を確認し始める。


「こんな王道なストーリーを歩き始めることになるなんてなあ……まぁおおよそ夢ではないだろう。最近のご時世、転生転移なんてよくあるらしいからな……ま、二次元に限る話だと思うが……。とりあえず所持品だ。ワラシ、何持ってる? 全て出してみろ」


「お主、今何を言ったかわかっておるのか!?」


「何って、これから生きていくのに所持品確認だ」


「乙女に向かって全てさらけ出せなど!」


「聞き間違いが酷いぞ。勝手な脳内変換はやめてくれ、話が進まないだろうが」



町の入口、門がある。そんな所で2人が話していると勿論目をつけられる。怪しまれる。案の定、

「お前さん達どっから来たもんだ?」


身長はそこまで高くはない。だが袴姿に、日本刀を持ち、頭はちょんまげ。そんな侍が話しかけてきてしまった。



「変わった服装だな、もしや異教のものか貴様……」

「なんとテンプレなセリフですかオサムライさん」


「質問に答えろ!」

「まってまって、質問してなくない?」



「どこから来たのだ! こんな所に一人で来るなんて怪しいにも程がある」



一人で来るのは怪しいのか。そもそも、この人なぜ怒っているのだろう。それとリュージは一人ではない……。


「え、一人ですか?」

「貴様は何を言っている。お前はどうみても一人だろうが。なぜ質問に質問で返す」



と、侍とリュージが言い合っているとワラシが、



「お主よ、わしが今から言うことは聞いていないふりをしろ。この時代の者には座敷童子の姿は普通見えやしないのだ。基本は妖怪の類いだ。人を脅かしたりする時には姿を現すだけで、普段は人間には見えないのだよ。なぜ、君が住んでいる世界でわしが学生達に見えたか不思議に思っているのだろう。それは時代と共に様々な事が変化するのだ。一人で本当はずっと寂しかったのだ。誰かと話がしたい、触れたい。そうずっと思い長い月日が過ぎた。何れ、妖力の使い方が変わっていた。認識してもらえるように存在自体、進化したという事だ。だが、タイムスリップをし、その力は退化してしまったのだ。この時代の妖力は莫大なものだ。それを封じているのが大王様だ。時代事に沿った存在の仕方、ルールに従わねばならん。だからここでは君にしか私は見えないのだよ」




真剣な眼差しで話すワラシはどこか寂しそうだった。今までどんな思いで、何百年と過ごし、どれだけ辛い事があったのだろうか。その話をいつか聞かせてけれるのだろうか。力になれないだろうか。



「荷物をまとめろ、ついてこい」



そうしてリュージは侍に連れられ町へ入ることが出来たのだ。

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