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江戸前ハンバーグ


 頭のてっぺんから生えているアホ毛が気になって仕方がないのです。

 リュージの目の前にいるのは、身長140センチ、髪は優しいベージュ色。まとまったサラサラしたショートカットの髪。そして服装はなんといってもセーラー服。


 

 そう高校二年生始業式の朝、ベッドの上にて。

 目が覚めるとリュージの部屋に女の子が居た。


「なんだ、寝起き前の夢はリアルに感じると聞くが、こりゃ凄い。可愛い女の子が僕の部屋にぃ……」

「何、寝てんすか大後輩君」


 微かに耳へ入ってくる声は俗に言うショタボ?


「寝てないよお、もう起きるよお母さんん」


 寝ぼけているのは間違いない。そこにいるのはお母さんではないからだ。


「何、でかくしてんすか大興奮君」

「へぇ朝から面白い事を……っ!?」


 お母さんでもそんな卑猥な事を言わない。そこではっきりと目が醒める。勢いよく体を起こし布団で体を覆う。無意識に下半身を隠してしまった。


「起きたら挨拶ぐらいしてくださいね後輩君」


当然の反応だ。リュージは声が出せないいまま、セーラー服の可愛い女の子を眺めるしかなかった。


「胸、無いんだなお前」


無意識にも声が出たしまった。男だ、本能だ、そこに女がいたら胸を見るだろう。


「見ないですよ、この変態後輩野郎君」

「なんで心が読めるんだよ。あとそんなに漢字を並べるな、醜いわ」

「協力してください。戦争を無かったことにしたいんです」

「すまん、待ってくれ。階段を何段とばすつもりだ。ちゃんと一から説明してくれ」

 今から数十年前の事なのです。世界規模の大きな戦争がありました。そのせいで、この女の子は住む所を無くしたというのだ。そうして最近

この家に住み着いたのだ。

「待ってくれ、どこからが作り話でどこまでが……」

「何言ってんすか後輩さん。私はこれでも長生きなんだぞ!」


 見事なまでに脳が追いついてもいなければ、理解しようともしていなかった。仮にもし女の子の言っている事が正しければ、これは超常現象となる。


「僕はなんて呼べばいい」

「ワラシ。ワラシでいいんすよ後輩ちゃん」

「ワラシちゃんの正体って一体全体何だ」


 確かに気にはなる所だ。ワラシちゃんは一体何者なのか。見た目はセーラー服を着た女子高校生。なのに年齢はお婆ちゃん。


「家に住まい、その家に幸せをもたらし、離れる時さ来たのであれば、幸福は去る」

「まさか……」


 座敷童子という者は一種の妖怪。そのような類いな存在がどうしてこの部屋に。

 リュージが産まれてから十数年。妖怪、幽霊なんてものは見た事も触れた事すらなかった。それなのに突然こうして目の前に座敷童子が現れた。話す事も出来れば、触れることも出来るのだ。


「君がこの家の座敷童子だというのか?」

「それは少しだけ違うのだよん後輩きゅん。確かにこの家の座敷童子をしているが、そんな事に意味なんてありゃせんのだよ。なぜこの家に私が居るのかというとだな。昔、君の先祖の屋敷には住まう妖怪だったのだ。座敷童子だったのだ。亀崎隆二君、君の御先祖様はね大きな御屋敷に大勢の人々。それはもう楽しい日々を過ごしていたよ」


 語りはじめたワラシの顔は真剣で、悲しそうで、でも光を見失う事なく。落ち着いたトーンでリュージに話しかけるのであった。


「それから? 楽しい日々は終わってしまうのか?」

「戦争が起きたの。辺りは焼け野原になってしまったわ。屋敷も人も財産も全てなくなってしもうた。亀崎家の時代はここで閉幕なのだよ後輩くん」

「ん? そうなると今ここにいる僕は一体どこの亀崎なんだ?」

「何をくだらん事ぬかしておる。もちろん私が知っている亀崎家の子じゃ。さっきも話したろうに盆暗君」

「名家っていっても僕は何の名家なの? 普通の家だしお母さんからは昔の事なんて聞いてないよ。お金持ちでもないし」


 一六七〇年。江戸にて『てんふら』という食べ物が世にでまわる。歴史の話はすると長いが、まぁ少しだけ。


「昔、亀崎家は江戸に住んでいた。貧乏だったのでなにか商売は出来ないかと考えた訳なのだ。そこで後輩君の御先祖様は天ぷらを開発し、見事大ブレイクという訳なのだが……、真似するやつらが出てきてしまった。このせいで亀崎の名は知れ渡る事はなく、時が流れたのだ。ま、残念な話なのかも知れない。だが、またそれは事実。大金持ちになった亀崎家。貴族となった、だが夢の時間はあっという間だった。戦争で全てが消えた。人も金も地位さえも。残ったのは君 とその母だけだ」

「それは本当なのか?」

「本当だよ、なんでこんな事で嘘つくのさ後輩」

 


 ワラシがいったことは本当のことだった。

 朝食の時にリュージが母に聞いたのだ。昔は名家、今はただの一般家庭。昔の地位なんてものは今更実感なんて湧くはずもなく……ワラシの存在に突っ込まれたのだ。


「ね、リュージ。あんたってロリコンだったの?」

「えええええお母さん突っ込む所ってそこなの!」

「まあ、確かにあんたの妹ではなく他人よね、このこ。で、誰なのこのこ、こんな朝早くから。盛んなことね」

「なにか誤解してるよね! ねえお母さん!」


 ごくごく普通の朝ごはん。普通といっても基準はそれぞれなのかも知れないが。


「白米、味噌汁、ほうれん草のおひたしに……え、なんでワラシには納豆があって俺にはないわけ?」

「あら、このこワラシちゃんっていうの? 可愛い名前ね」

「え、なんで無視なの?」


 そんな会話がリサの部屋に聞こえていたのか、リビングに入ってきた。


「朝から女連れ込んでる兄貴には納豆なんて食べる資格ないのよ」


 冷血。いや、ツンデレのジャンルに部類されるのだろう。それがリュージの妹のリサだ。


「じゃ、私学校行って来るから、行ってきます」

「忘れ物ない?」

「ある訳ないじゃない」

「兄も学校へ行かなくては、おーーい妹よ、兄を忘れているぞ」

「は?キモマジキモっ」


 妹にそんな事を言われるが慣れたものだ。


「ななななんでです?どうしてキムチ悪い兄を演じてるいるのです?」

「キムチ悪いって言い間違えてるのを訂正しないのもどうかと思うぞ」


 そんな会話を交わしながら、朝ごはんの時間は過ぎてゆくのだった。 

 登校中にもついて来るワラシ。妖怪なのだがどうやら周りの人間に見えているらしい。


「なぜここまでついて来る」


 小声でワラシに言う。

 こんな登校時間に、誰がどう見ても中学生ぐらいにしか見えない女の子とリュージは歩いている。ここら辺では見かけない制服、そして何よりも自分の妹にしたいほどまでに可愛らしい。


「めっさ見られているぞお主。人気者じゃのう」

「なんの拷問だよ」

「そうじゃ、そうじゃ。ここら辺でハンバグっ落ちていないか?」


待て待て待て。なんなんだハンバグって何だ?


「お姫様、ハンバグとはなんぞやですか?」

「後輩君はバカかなんか肉を焼いたやつだろーが」


 なるほど。この付近でハンバーグが食べれる場所といえば学校近くの朝から空いている喫茶店ぐらいだ。


「目の前だよ」


二人はもう学校近くまで来ていた。そうしてそこにはあの喫茶店があったのだ。外見はとてもシンプルで、灰色コンクリートの壁に畳1畳分ほどの横に広い窓ガラスが一枚埋め込めてある。


「不思議だな、中は見えないガラスなのか」

「今は八時半、開店は六時半からだぞ! なかなか朝の通勤の人達に人気なんだよ」

「さっき朝ごはんたべたけど、まぁワラシだけ一人で学校が終わるまで待たせるわけにも行かないからな。ここのマスターとは仲が良いんだ。話をつけてみるよ」


そう行って二人で喫茶店の方へ進む。その足は止まる事なく、気付けば右手がドアノブに、


「ここのハンバーグはとっても旨いんだ!」


そう言いながらドアを開け中へ……「あれ?」二人の脳は思考停止した。


「後輩君、床がないぞ」

「なんだこの感覚は……」



 開けたドアの先は店内ではなく、暗い暗い闇しかなかった。そうして二人はどこまでもどこまでも落ちて行くのだった。






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