早速だが我のモブ人生が危ういのだ!!
入学式を終えた次の日。今日はとてつもなく重要な儀式がある。だからしくじるな。と、朝からずっと心に念じてきた言葉を登校している今もずっと復唱している。
心の中で。だって心の中のことを口に出して言うという主人公のような所業はできん!我にとっては今は絶対やっては行けない禁止事項になっているのだからな!
それはさておき、とにかくどうすればあの儀式を乗り越えられるか。あの主人公達が自らを示し、輪の中へ溶け込むために情報を差し出し、時に笑いを産み出すこともできる。が、今の我にとっては考えることでさえ苦痛でしかないあの儀式っ!
そう、“自己紹介”っ!何と忌々しい!あの頃はまだ仕方ないと割りきっていたが、今はもう違う!モブにならなければ…。モブに…。モブにぃ……。朝起きて今更ながら気づいた(モブ)初級者に遅いかかる最初の難関、自己紹介。
皆が興味を示さないのなら脅威はない。だが今は違う。恐らく新しい環境に変わった際有用な人材と無用な人材とを区別し、自らの人生を最高の主人公らいふとするために皆が全ての者の自己紹介を審査するのだろう。
どうせ聞かれるのなら、これから先関わりを持たれたくないと思われなければならないっ!ならどう自己紹介をしようか…。注目されない…関わりたくない…。んー、んー?ん?あああああああああ
(閃いたっ!)
思わず声に出してしまいそうになるくらい感情が昂ってしまった。しかし、多少駆け引きの要素が入る。どうする、普通に皆を真似して自己紹介をするか、それともこの策を使うか…。
っともう学校か。とにかく、成功させるのみ!
キーンコーンカーンコーンと電子音によって再現された鐘の音が、儀式がもうすぐそこだと告げてくる。またそれと同時に熊田が教壇に近い戸から教室に入ってくる。
「おーい、そこ!チャイムが鳴ったろ、早く座れ」
何故だろうか、今の熊田の姿は罰を下す死神にしか見えない。熊田の体格は鍛えられているのかじっしりとしてまた引き締まっている。力任せに首を撥ね飛ばしそうな体格をした死神だ…。恐ろしい…。
「えー、1限目は。んー、そうだな。まずは自己紹介からやろうか。説明は後の方がいいだろう。」
他の生徒は「はえーよwww」「えー、どっちもめんどくさーい」なんて口々に言っているが、彼は…
さ、、早速自己紹介!?先日の校長の話といいここの学校は我を殺したいのか!主に心の部分を!
まあいい、どの案を使うかはもう決めた!これに賭ける!
「てかさー、うちらからやるのもめんどいしせんせーからやってよねー、自己紹介」
と金色の髪をした女がいう。何だあの髪の色は?神にでもなったのか?
ここで髪だけにと思った我は神だな!神だけに!
「いいぞー、その代わりお前らちゃんとやれよ!」
「はいはーい」「分かったから早くやってー」
生徒から急かされようやく自己紹介を始める熊田。
「もちろん知ってるだろうが、俺は名前は熊田だ。担当教科は体育。ではなく国語だ。」
「その図体で国語かよ!」「いが~い」
「言ってる途中で会話を挟むな。次挟んできたらペナルティだぞー。で、好きな食い物は、チョコケーキ。趣味は裁縫と筋トレだ。こんなもんでいいか?」
「いいけど、ほんと意外すぎるww」
「案外可愛い感じぃ~?」
クラスは熊田の自己紹介で多少打ち解けていけそうな雰囲気を持ち出してきた。それより、
自己紹介に対する反応がすごいのだが!?
熊田のこの短い自己紹介。ただそれだけで、さっきのように声を大きくして話すもの以外の者も隣の知らぬ誰かと会話をしていた。これが主人公になろうとするものたちの儀式かっ…!これではどんな策を使っても危うい…。と一人葛藤していると
「んじゃ順番は窓際から廊下にかけて列ごと。それでやっていこう。それじゃ一番目のやつスタート!」
「えー、どうも!僕の名前は…………」
は?窓際から?自己紹介?何の冗談だ、笑わせるな熊田よ。ハッハッハッハ。どうしよう、どうしよう。我は窓際の一番最後の席。一列ごとに6席入っている。つまり六番目。だめだ!早ければ早いほど印象は強くなるはず…もうだめだ…。このままでは主人公への道へ一歩踏み出してしまうっ!なんとかしなければ…。なんて考えているともう次に自分の番。よくある話である。
皆自己紹介早すぎじゃ、もう諦めよう。
我!ここに眠る!
「よし、次窓側最後のやつ!」
「は、はいっ!」
…声が上ずった。どのくらいかと言えば野犬のうなり声が子犬のきゃんきゃんになったくらい。
先ほどまで少し騒がしいくらいのざわめきが消えた。我はもう詰んだ。いや、むしろ変なやつだと認識させることで主人公への道は塞がれたのでは!うむ!そうに違いない!我の勝利だ!
ともかく、ここで続けなければこの好機が最悪の結末へ向かう爆弾になりかねない。
「えー我の名前は……」
と、無事(?)に我は自己紹介を終えることができた!これはもう祝杯を上げなければ、嫌、これは主人公たちの行う行為だ。そうだな、自分を誉めてやらねばならんな!……。なぜだか悲しいのう。
ともかく!我は最初の難関 自己紹介 を突破することができた!これからはモブ道を極めることができる!脱主人公万歳なのだ!
はい。正直何言ってるか自分でもわかんないっす。嘘です。はい。という訳で我のモブとしての人生、ひとまず危機を脱した!ということですね。パチパチ。