第3話 モンスター
「もう朝か……なんかこの台詞昨日も言った気がするけどまぁ良いや。」
今日はそろそろ城の外に出てこの辺の地理に詳しくならなければならない。
その為にはまず、マティさん達に許可を取りに行かなくては。
まぁ街の探索ぐらい許してくれるだろう。
「と、その前に飯飯! 今日はジョールさん一体どんな料理を運んでくるのかなぁ」
「失礼します」
ドアを開けた人物はジョールさんではなかった。
「あれ? ジョールさんは?」
「ディアンヌ氏は風邪をひいてしまわれて現在部屋で休んでおります。その代わりにこの私、アビッセ・ドゥファーラムが、暫くの間代理をさせていただきます。どうかお見知り置きを」
執事って皆 どうかお見知り置きを て言うんだなぁ。にしてもジョールさんは大丈夫なのだろうか。
後でお見舞いに行けたら行こう。
「どうもご苦労さまです。今後ともよろしくアビッセさん」
「ではでは~」
なんだかジョールさんと比べて軽い人だなぁ。さっさと食べて外出の許可を得よう。
「ふぅ~食った食った! さて行くか!」
―東棟廊下―
「街へ探索へ行かしてくれ? 勿論OKよ。ただ、盗賊や詐欺師がウジャウジャいるからその辺は気をつけて」
「ハイ。分かりました。ありがとうございます」
早速僕は荷物をまとめて街にでかけた。城を出るときに門番の人が「行ってらっしゃいませ!」と声を掛けてくれたので、少し気分が良くなった。特別な待遇を受けるってやっぱり良いな。
「にしてもデカい街だなぁ。人も気持ち悪い程いて迷子になるかもな……いや、それだけは絶対に避けなくては。街に出て迷子になったらマティさん達に迷惑がかかってしまう。まぁ迷った時は城を目印に進めばいっか! 取り敢えずそこら辺ブラブラしよっと」
街には様々な人がいた。奇妙な果実を売っている人。変な機械を売っている人。怪しげなアクセサリーを売っている人。芸を披露している人。道の隅っこで寝ている人。穴を掘ってストレス発散してる人。色々いすぎてなんだか楽しいや。少なくとも半年此処に住んだくらいじゃ、この街には飽きやしないな。
その中には、僕のことを知っている人もいた。
「おいアンタ、別の世界から来た人間だろ? 丁度いいやサインしてくれ」
見た目40代くらいの髭の濃いオッサンが僕に色紙と羽ペンを渡してきた。
もうここまで有名になってるのか。異世界来ただけでセレブ扱いか……悪くない。
僕は慣れない羽ペンで一生懸命サインした色紙をオッサンに渡した。色紙と言っても、現代にあるような硬く、真っ白な紙ではなく、薄く茶色びた城の地図と同じような素材で出来ている紙だ。なのでサインする時は近くの台に載せて書かなければならない。
「よっしゃ! 別世界人にサイン貰ったぜ~!」
オッサンが自慢気にそう叫ぶと、周りの人達も「俺も!」「私も!」と言わんばかりに大群で僕の周りに押し寄せてきた。
「ちょ、ちょっと! じゅ、順番! 順番守って! 僕はどこにも行きませんから!!」
僕の声は虚しくも大群衆の騒音によってかき消されてしまった。
その後、ロクに街の探索もできず、ずっとサインを書かされ続けられたのは言うまでもない。
「そろそろ城に帰らなきゃ…………はぁ、結局今日行けたのは王城前の噴水広場だけ。これじゃ外に出てないのと同じだよ……」
僕はフラフラしながらもなんとか自分の部屋にたどり着いた。
「街の探索はしてきたー? ってアレ? 何があったの?」
「話すと長くなるんで……」
「そ、そう。あ、晩御飯ここに置いておくね! そんなに落ち込まないで、まだ明日も明後日もあるんだから」
「落ち込んでるってゆうか……なんかもう疲れました。いろんな意味で」
「ま、まぁあんまり無理はしないほうが良いよ。それじゃ、お休み~」
彼女が部屋から出て行っても僕はベッドから動かず食欲が無いので、ディナーは下げてもらった。
そして もう寝よう。と思ったその時だった。窓の外を見てみると団長が素振りをしていた。
「こんな遅い時間に、まだやってるんだ」
僕は不思議と眠気が覚め、団長のいる中庭へと駆けて行った。
―中庭―
「フンッ! ハッ! オラッ! ヤッ!」
「よし当たったぞ!」
「何に当たったんですか、団長」
「うぉ! ビックリした!」
「団長の驚いた顔初めてみましたけど斬新ですね。で、こんな遅くまで何をやってるんですか?」
「新しい技の開発だよ。ちょっと見てて」
「ムンっ!!」
「おぉ……」
思わず感心の声をあげてしまった。団長の身体が空高く舞い上がったと思ったら、次の瞬間剣を持ちながら空中で身体を回転させ、最後に下にある的に重力・体重を加えさせ、威力の上がった一突きを的確に突いている。
やはりこの人は凄い。僕が今まで出会った人物の中で一番尊敬できる人だ。
「重い鎧を着けておきながら、よくそんな事が出来ますね。最早人間業じゃないですよ」
「最近は空を飛ぶモンスターを討伐しているからね。脚力を鍛えたんだ。鎧を外したらもっと飛べるぞ!」
モンスター……討伐……
「団長、お願いがあるのですが」
「ん? 何だい?」
「僕もモンスター討伐に連れっててもらってもよろしいでしょうか? 武器と防具なら持ってます」
「う~ん。まぁ……良いかな! 君にとってもいい経験になると思うし」
「ありがとうございます」
「明日にはもうモンスター討伐の任務をするんだ。その時君も一緒に連れってってあげるよ。丁度弱いモンスターだし、狩りに慣れるには丁度良いかなと思ってる。さぁ、そうと決まれば早く寝る!」
「はい! 明日はよろしくお願いします!!」
僕は団長に深々と頭を下げ、自分の部屋へと戻り、まだ中庭にいる団長の姿を見た。あんな凄い人と一緒に狩りに出られる……そう思うと興奮してなかなか寝付けなかった。まぁ任務は午後からだから、遅刻する心配はないけど。流石に昼まで寝られない。そんな事を考えてる内に、僕の瞼は段々と重くなっていった。