第18話(空港での別れ)
『アシアナ航空102便は、ただいまソウルから到着しました。』…
空港は、思ったほど混雑していなかった。
和尚の見送りには、愛子も来ていた。ぼくは愛子に、「おまえ、裏切ったな」とこっそり言った。
「なにを?わたしが??」
「結花に、この日を教えただろう」
「だって話に出たから。翔ちゃんと一緒に行くから、そのとき一緒にお茶でもしようねって」
「ぼくが??結花と愛子と??」
「ちがうの?」
ぼくは、結花が和尚の出発の日を、自分から知りたがったことに胸がざわついた。
「あっ、知り合いがいる!翔ちゃん、ちょっと和尚に伝えてて」
愛子が飛び跳ねて、数メートル離れた場所へ行ったとき、和尚がツイードのジャケットに、肩からデイバッグをかけて、出発ロビーのまえに現れた。
ぼくは、彼を真正面に迎え入れた。
「いよいよだな」
「まあな。やっとこれからって気もするけどな」
「愛子、あっちで知り合いとしゃべってるぜ」
「相変わらず、変わったやつだな。…まあ、またそのうち会えるさ」
でも、ぼくは思った。そのうちなんて、別れの言葉と同じだと。
空港のアナウンスが流れた。
『ノースウエスト航空12便デトロイト行きは、ただいま最終の出発案内をしております。…お急ぎ手荷物検査場へお越しください。』
そのとき、「ゆかぁ〜!」という愛子の声が聞こえた。
ぼくと和尚は、同時に愛子の視線の先を追った。
そこには、結花がいた。
彼女は、小さな荷物とともに、あの切り絵を握りしめていた。
「和尚………」
ぼくはいけない、と思った。結花が、和尚に連れ去られていく。
和尚が動揺したのが受け取れた。
やがて、彼と結花との距離が接近し、和尚はデイバッグを肩から外した。
彼らは、一瞬ぎゅっと抱きしめ合った。
だが、和尚はすぐデイバッグを手にとって、後ろを向いて手荷物検査場へ大股で歩いていった。
「和尚!」
結花が叫ぶ。
「わたし、チケット持ってるのよ!」
和尚が一瞬、振り返って凍りつく。
ぼくは、もう駄目だと思った。
「来るな!」
その瞬間、なぜかぼくの手は、結花の背中を押していた。
「行け!」
不審に思った警備員が、結花に近づいていく。
和尚は、彼女の手をとって、警備員になんでもないんだ、というふうに伝えた。
そして、ぼくを振り返りながら、2人は出発ロビーのなかへ消えていった。
「さよなら。結花、和尚」
これが青春の1ページってやつですか。
ぼくはもう、50ページはめくってしまったような気がする。これ以上はない。
結花と、和尚と、ぼくの青春物語は終わってしまった。
ぼくのそばに、愛子がやって来る。
「あれ?結花は?どこへ行ったの?」
ぼくは、その質問には答えられない。
涙で、なにも答えることが出来なかった。
〜次回、エピローグに続きます。〜