第12話(遊園地)
ぼくは、ごみ箱から回収した切り絵を、セロテープでとめて自分の部屋に保管しておいた。
なんとなく、それが彼らの亡くなった子どもへの供養になるような気がしたからだ。
「遊園地に行こうよ。3人で」
愛子から電話があったのは、春休みに突入してすぐのことだった。
「結花もこの頃パッとしないしさ。翔ちゃんも勉強ばかりしてないで、行こう行こう」
ぼくは、3人で、というところに、なにか愛子の策略めいたものを感じた。だが、ぼくには天からの配剤を拒否する気はまったくなかった。
「翔ちゃーん。こっち!」
駅前に着くと、愛子の明るい笑顔と、結花のおだやかな笑顔があった。
結花はぼくと秋にドーナツ屋で会ってから、何回かメールをくれていたが、会ったのはそれ以来だった。
「なにに乗る?」
愛子は、どうやら絶叫マシンを乗り回す気でいるようだった。
「んー。ぼく、こういうの苦手なのね」
「結花は?」
「わたしもちょっと…」
「わかった。じゃ、一人で行ってくる!」
愛子は行列のなかに突っ込んでいった。あの様子じゃ、40分は待つことになるだろう。
「やってくれるな、あいつ」とぼくはつい、つぶやいてしまった。
「なにが?」と優しく結花が尋ねてくる。
「いや。それよりぼくらも、なにかべつの乗り物に行こうよ」
遊園地というものは、だいたい奇数人数で行くべきではないのだ。なにを乗るにしても、二人と一人の組み合わせになる。愛子は、このことも考慮してくれたと思われた。
ぼくは愛子に感謝して、結花と二人でコーヒーカップのなかに座って、くるくると踊った。
結花は、ストレートの長い髪をなびかせて、楽しそうにあたりを見回していた。
「ねぇ。結花」
「うん?」
「だいぶ、元気出てきたみたいだね」
「うん。これも、翔ちゃんの励ましのおかげ」
「ぼく、ほんとに嬉しいのよ。結花の笑った顔が見れて」
「ふふふ。翔ちゃんが、へんな顔の写メくれたりするから、わたし、それ思い出して毎日笑ってたのよ」
「受けた?」
「受けた受けた。学校の友だちにも見せてまわっちゃった」
「あーー!!あれは結花限定だったのに」
「それならそうと、書いておいてくれないと」
結花はくすくす笑いながら、コーヒーカップから軽やかな足取りで降りた。
「ああ、なんだか気持ちが吹っ切れた感じ」
ぼくは、結花のこころのなかから、和尚がどれだけ消えたのだろうと考えた。最高値を100%とすれば、いまは80%くらいか?
ぼくは、いまがチャンスだと正直思った。
「ねぇ、結花。そこのベンチでアイスクリームでも食べない?」
「そうね」
まだ肌寒い季節なのに、ぼくらはアイスクリームを二人でなめた。ぼくのアイスはペパーミントチョコで、結花のは甘いストロベリージャムだった。
ぼくらは、しばらく黙ったまま、ベンチで行きかう人を眺めていた。
そのときぼくは、結花はぼくの言葉を待っている、と思った。
「ねぇ、結花。ぼくらまた、やり直し出来ないかな?」
ぼくは勇気をふりしぼって、言った。
「え」
「まえみたいに付き合えないかなってこと」
「翔ちゃん…」
「ぼく、結花のことがまだ好きだから」
「でも翔ちゃんは、こんなわたしでいいの?」
「ぼくには結花しかいないと思ってる」
「翔ちゃん…」
結花は、少し考えてから、ぼくの方を見てゆっくりと言った。
「わたしも。優しい人がやっぱり好き」
ふんわりと、ぼくらの横で風船が一つ、飛び上がっていった。
「…ありがと。ぼくは全力できみをお守りしましょう」
観覧車で、ぼくが結花の手を引いて二人で乗ると、愛子がそのあとから乗り込んできて、満足げな笑みを浮べた。
「いい夕日ね〜」
愛子はニコニコしながら、暮れゆくレジャーパークの風景を背景に、ぼくら二人に言った。
ぼくは、愛子をじっと見て、結花にわからないように小さく親指を立てた。
愛子は、ますますにっこりした。
結花とぼくの二人は、その後、並んで外をゆっくり見た。
ぼくはそっと、結花の手を握った。