夕暮れのスナイパー
夏の日。
夕暮れに時折吹く風。
木の枝が風を受けて
ゆっくりと上下に頭を振る。
今回のターゲットは大物だ。
仲間はみんな尻込みをして、やる前から諦めた。
だが俺は違う。
それが困難であればあるほど
そして大きければ大きいほど。
俺の中の獣が頭をもたげ
獲物への動物的な欲望が俺を支配する。
準備は整った。
銃口と獲物の間には
夏の湿った風の他にさえぎるものは何も無い。
俺は一つ息を吐き出し
トリガーに指をかけた。
その時、風が止まった。
今まで聞こえていた雑音も今は聞こえない。
景色はその色を失い、
俺の目は獲物以外を映すことを放棄した。
獲物と俺だけの静寂の世界。
俺はこの瞬間がたまらなく好きだ。
研ぎ澄まされた集中力が
俺にこの世界を見せてくれる。
このとき、銃は俺の体の一部になる。
トリガーに掛けた指が機械的に動く。
そして放たれた弾丸は
イメージ通りの軌跡を描いて
獲物に吸い込まれてゆく。
「はい、残念。また挑戦してね。」
俺の手から、銃が奪われる。
「だから大きすぎるって言ったじゃん。」
弟の声がする。
戻ってきた喧騒の中、俺は弟にたずねた。
「小銭あまってない?」
「ねーよ」
焼きそばを買いに去っていく弟の後姿を見送ると
俺は次の戦場へ向かう
そう
射的の次は金魚すくいと決まっている。
今年こそ黒い出目金をゲットするのだ。
色を変えた空に
屋台の提灯が鮮やかに映える。
今年の夏はやけに暑い。




