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   九十九神屋 終

「なぁ朱莉よー」

「なんじゃ山野」


 土蜘蛛を駆逐し終わり気を抜いたのか山野が問いかけてくる。……ふむ。なんじゃろうな。


「大将の過去話聞いた事あるか?」

「どれじゃ」


 ふむ。幾つかは聞き覚えがあるがのぅ。具体的にどれの事をさしておるのやら。


「あぁ。前の彼女の話だ」


 前の彼女と言えば、ゴーレムの付喪神じゃったか。それなら聞いた事はあるのぅ。


「ああ。それは俺も聞いた事あるっすよ」

「わしもあるのぅ」

「僕もあるなー。皆、ある程度は聞いてるんじゃないのー?」


 こやつらは狭間が言う時に寝てるようで起きてるのじゃから油断ならぬのぅ。普段は店の中でただの商品としておるので厄介じゃ。

 それはそれとしてじゃ。私と山野と狭間を抜いて、九十体の付喪神らへと振り向き、睨み付ける。山野が問いかけたのは私になのじゃが。


「んじゃ聞きたいんだけどよ、前の彼女ってのは何で大将と一緒に行こうと思ったんだろうな?」


 狭間の魂を探しながら周囲を見渡し、岩の嵌った場所を見つける。

 ここに閉じ込められておるのじゃな。こういう時に適切なのは、まぁ山野でいいかの。


「壊すのじゃ」

「あいよ。んで、何でだ?」


 岩を持ち上げてずらす山野の馬鹿力に呆れながら、更に問いに呆れ果てる。そんな簡単な事もわからぬのかこやつは。

 じゃがまぁ、人の気持ちに鈍感なのじゃとしたら納得は出来るがの。


「あぁ。そりゃなー」

「茶太郎黙れ」

「……すみませんす朱莉さん」


 全く。私と山野の会話に露骨に入り込もうとしないで欲しいものじゃな。


「理屈から言えば、狭間のおった里の者には敗北したじゃろ。ならば外に出たいと思ったのじゃろう。それに自分よりも弱い者を見たのも初めてじゃっただろうしな、そこに惹かれたかもしれんの」


 守りながら戦う事により枷を作り、自らを高める。

 精進する者としてありえない話ではあるまい。


「はぁん。お、居た居た。……って、なんだかなぁ」


 ふむ。見つけたか。……なんとまぁ。二人して眠っておるとは。仲の良い光景じゃなぁ。


「山野、お主が狭間を持ってくと良い。私が高野の巫女を運ぶとするかのぅ」


 中に張っておった簡易の結界を静かに燃やして進む。……ふむ。狭間の服を掴んでおる、か。恋する者として理解できるのぅこの気持ち!


「おい朱莉。何してんだ」


 にまにまとしておったかもしれぬ。流石に締まりのない顔は見られたくないしのぅ。


「ああ、すまぬな。よっと。二人ともぐっすりじゃな。疲れたのじゃろうか」

「大将もこんなだしな」


 無理に背負う。高野もあまり大きい方ではないが。足が付いて地面に付き添うじゃ。仕方あるまい、少し背を大きくするかの。

 家に帰るまでならば持つじゃろう。

 服も同時に長くして、と。うむ、山野と同じぐらいの身長があれば十分じゃな。


「てめぇの背でかい姿は慣れねぇなぁ」

「仕方あるまい」


 二人で二人を背負い周囲の警戒を他の者に任せて歩く。山道は山野がおるから楽じゃなぁ。


「さて、先ほどは理屈で言うたがの」


 月を見ながら歩き、先ほどの問いにもう一つの答えを示すために言葉とする。


「ん? あぁ、わかりやすかったぜ?」

「そうではない。もっと簡単なのじゃ。有体に言えば、惚れたのじゃな」


 言った瞬間に山野は怪訝な顔になりおる。……わからぬかのぅ。狭間もわからぬような事を言うておったが。そもそもこやつらは女の決断を軽く見すぎじゃろう。


「全く。惚れたのじゃ。さもなくば簡単に付いていくはずがなかろう?」

「いやでもよー、大将いい所一つも見せなかったんだぜ? どこに惚れる要素あったんだよ」


 やれやれ。わかっておらんなぁ。女心の機微を理解せぬとは、私以外の女にはもてぬな、うむ。……ならば理解せぬ方が良いのじゃろうな。


「一目惚れじゃよ。そこに理由などは、あるまい?」

「そういうもんかね」

「うむ、そういうものじゃ」






「ねぇ鏡」

「なんだい」


 夢を見ている。彼女はもう居ないのだからこれが夢でないはずがない。


「私は貴方を愛していたし、巫女もきっと貴方を嫌いではなかったわ」


 縁側でお茶を飲む僕の隣で彼女は笑う。腕は僕のつけた物で片目も僕があげた物だ。


「……もう居ないのだから」

「そうね。私が言いたいのは大した事じゃないのよ。ただ、ええ。あの娘には、良くしてあげてね」


 全く。夢とは言え、何を言っているのやら。

 彼女がそんな事を言うはずがないだろうに。あんなに嫉妬深い女だったのだ。


「失礼ね。貴方に相応しい女以外は認めないだけよ」


 思考を読まないで欲しい。


「ただ。だから。あの娘には優しくしてあげてね」


 そう言うと彼女は立ち上がり、外へと向かい歩き出す。……お節介だね。


「さて。それじゃあ巫女が待っているから行くわね」

「ああ。僕のしばらくしたら行くよ」

「待ってるわ。それじゃあね」




 ……妙な夢を見た。寝心地が悪かったせいだろうか。そう思い地面に手を付いてみると布団の感触がある。嗅ぎ慣れた臭いは僕の部屋のものだが、何故か女性の匂いが鼻腔をくすぐる。

 目を開けて横を見ると、高野君が居る。


「……だからか」


 変な夢を見たのは。色々と起きた時に厄介そうだ。高野君もそうだが、彼女の父親に何か聞かれたらどうしたものか。

 溜息を吐き非常に面倒な気持ちになったのでもう一度目を閉じる事にした。

 今だけは現実から逃げておこう。どうせ、起きたら逃れられない現実が待っているのだから。


というわけで完結です。

読んでくださった皆様ありがとうございます。


疑問などありましたら適当にどうぞ。


大陸記の方も良ければご覧になってください。それでは。

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