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   神にこいした少女 ③

「しかしこんな小さい村じゃからなぁ。村人との会話は狭間に任せた方が良さそうじゃ」


 村の中を巡るように歩き、畑を耕しているご老人から野菜を貰った。よき人間が住む場所のようじゃ。外から来た人間に辛く当たるのが一般的だと思っておったのが恥ずかしくなるの。


「ここには住めぬが京都などよりかはマシじゃな」


 あそこは私らのような存在には住み難い場所じゃし。一度行こうとした時には散々な目にあったものじゃ。それはともかくこの村は、東京に比べると住み難いがそこに住めぬならばここに住んでも良いというぐらいには良い場所じゃろう。

 周囲には森があり、電灯などはない。電気なども余り通っておらぬじゃろう。このような土地がまだある事には驚きを禁じえないのぅ。

 故に、私としては馴染み深い照明器具などがあるのじゃから良い事じゃ。


「ふむ。先ほどのご老人から聞いた話じゃと学校は右で、祠が左じゃな」


 学校へ行くのも良いのじゃろう。されど今は、祠じゃろうか。昨日山野が言った事も気がかりじゃし、神がおるにせよおらぬにせよ挨拶ぐらいはしておくべきじゃろう。

 ここの守り神という話じゃしな。

 村から外れた獣道を少し歩く。獣の気配は微かにするのじゃが凶暴な獣はおらぬようで何よりじゃ。獣は怖いしのぅ。下手をすれば人間や妖怪よりも厄介な相手じゃし。


「うむ。ここが祠じゃな」


 古い、けれど村人に大切にされているらしい祠を視界に納める。特に神の名はかかれてはおらぬがこれで間違いないじゃろう。

 祠自体にも村人の信仰を受けて軽く力が宿っておるのぅ。良い事じゃ。


「ふむ。……しばしの間村に邪魔をするが余り気にせぬようにして貰いたい。一時の旅人のようなものじゃ。仕事さえ終えれば私らは帰るからの」


 手を叩き、目を閉じて祈りを捧げる。……高野の巫女がもし居ればこのような簡略化したものではないのじゃろうが。今度メールで聞いてみるかのぅ。バス停まで行かぬば電波がないから困ったものじゃ。


「……そんな長々とお祈りをしても神様は叶えてくれないと思うよ」


 振り向き、後ろに飛び去る。私に気配を感じさせないとは何者じゃ?


「……別に神に願っておるわけではない。考え事をしていただけじゃ。……何者じゃお主」


 気配が感じられなかった事はそれ程問題ではないのじゃ。けれど、何の感情も持たずに近づける人間など数少ない。付喪神は情を感じる事に関しては他者の追随を許さぬ妖怪なのじゃから。


「うん? うん。何者かと言われても。そうだね、この村に住んでるってぐらいだね。それにここに人が居るのは珍しかっただけだよ。昨日掃除をしたから今日は居ないはずなのにってね」


 人懐っこい笑みを浮かべて言う言葉に嘘の色はない。けれども、何じゃろうか。この男から違和感がするのは。

 妖怪は総じて感情のバランスがどこか狂っているはずじゃし妖怪ではないじゃろうが。

 けれど人間かと言われるとそれもどこか、違和感があるのじゃ。


「……人間か?」

「うーん。それを聞かれると困るなぁ。とりあえず君らを害そうとは思っていないし、まだ用はないよ」

「まだとは?」

「その言葉の通りだよ。ヒントだけ、いやほぼ答えを言ってしまうとね。君らの目的は私なんだけれど、君らを呼んだのは彼女なんだ。理由を知るために君らはやっているからね。ただ彼女は悪戯好きだから直接聞いても教えてくれない。この村の人もこの遊びに参加してくれていると考えていい。なにせ娯楽が少ないからね。彼女に理由を聞きたいなら聞くための条件を満たすといい。推理ゲームのようなものさ」


 ……何を言っているのじゃ、こやつは。目的が見つかったならば後は狭間に言うて達成すれば良いだけなのじゃぞ。

 理由のある想いを無視するのは、無論良くない事じゃが。


「言っておくけれど私は強いよ。うん、いや、違うか。凄い、だな。更にヒントだ。私は人の元気を操れるような力を持っている。正体のヒントだよ。君のご主人様に伝えてみてくれ。うん。理由を探して、目的を聞いて欲しい」

「……待て」

「待たないさ。ヒントは言ったよ。だから頑張ってね。君の灯りでゲームを照らしてあげてね」


 一瞬身体が冷えたような錯覚に囚われ、視線を向けた時にはすでにもうあの男の姿はなくなった。……なんじゃ、ゲームとは。私らを使ったゲームなど神罰が下るぞ。


「しかし、全く。狭間と私が頑張る必要が、あるようじゃな」


 どうにか私が付いてきた意味があったというものじゃな。




「というわけじゃ、狭間。どう考える?」

「どうと言われてもね。……そういえばその彼の姿形はどうだったんだい? それがとりあえず正体のヒントになるかもしれない」


 姿……。ふむ。容姿のぅ。


「髪は黒じゃった。顔は女っぽかったの。声は男っぽかったのじゃ。全体的に細く見えたのぅ。目も黒じゃったよ。化け猫の類でもないと思うのじゃが」


 元気とはおそらく精気の事じゃろうしな。それを取る妖怪は数少ない。


「ふむ。西洋のいんきゅばすあたりだろうか。あれなら妖怪という括りから少し外れる。……けれど、村人まで参加しているとなると害を為すわけでもないのだろうが」

「わかんねぇぜ。参加しなくちゃいけないって契約でもあるのかもしれねぇしな。西洋の悪魔だったらそこん所はお手のもんだろ?」

「いや、だがあの男はそこまで怪しい気配はなかったぞ。……そうじゃな。うむ、お主に近い」


 山野のような、神と呼ばれる種族。おそらくは国津じゃろう。大穴で天津なのやもしれぬが、流石にないじゃろうな。聞いた話では天津神のほとんどは地に興味を持っておらぬようじゃし。


「ふむ。神で元気、か。……生憎と僕の知る神の中には居ないね。バス停まで戻り高野君に問いかけてみようか」


 巫女ならば知ってそうじゃが、しかし正直な話あの男の正体なぞどうとでも良いような気がするのじゃがの。


「どうでもいいんじゃねぇの? 実際戦うって事にはならねぇだろうし。とりあえず、依頼主を探すのが先だろ」

「うむ。今回は変則的な依頼じゃしな。最も大事な事は、依頼主の理由じゃよ。ゲームを行う理由と、依頼をした理由じゃろう。それが目的に繋がるじゃろうしのぅ」


 あの男の退治か封印。しかし神の退治とな。いかに狭間がかつて神殺しを行っておったとしても簡単に殺すわけにはいかぬじゃろうに。


「そうだね。それで、男が言ったのは彼女か。これなら依頼主の目星はある程度付きそうかな。聞いてきた情報によるとなんだが」

「ここに居る村人は、女性が十八人。ご年配の方が八人。妙齢の方が母を含めて五人。私たち子供が五人ですよ。幾人か出ていってしまったので、仕方のない事なのですけれどね」


 襖が静かに開けられて入ってきたのは昨日も居た、どこか私には近づき難い雰囲気を出している菜実さんが入ってくる。この子ものぅ。高野の巫女にどこか似ておるのじゃよな。

 強いて言うのならば雰囲気じゃろうか。


「……貴方も参加していらっしゃるのですよね?」


 狭間が目を細めて菜実へと問いかける。


「はい。質問などは受け付けておりますので、どうぞ。あっ、でも依頼人かどうかを聞けるのは二回までですよ?」


 柔らかい静かな笑みを浮かべて菜実は口を隠す。私にもこのぐらいの優雅さがあれば良いのじゃがな。言うても詮無き事じゃが。


「ふむ。そうじゃの。今日の夕飯は何なのじゃ?」

「今日は猪鍋ですよ。あの方がどうせなので、と獲ってきてくださったので」

「お、マジか。懐かしいな牡丹鍋。俺も昔はよく食ってたぜ」


 はしゃいでおる山野は置いておこう。しかしまぁ猪鍋は食べた事がないので私としては少しばかり興味がそそられる所じゃな。

 別に食わないでも平気じゃが、味を楽しむのは悪くないしの。


「うん。懐かしいね。あれは珍味だよ。すぐに捌いた物が美味しいんだ。……ここでは猪を良く狩猟しているのかい?」

「いいえ。何かお祝い事があった時にあの方が獲ってきてくれるんです。今日は久々の事なので成功を願って、という所ですね。二、三頭獲ってきたので他の村人にも振舞われていると思います」

「なるほどのぅ」


 だからどこか村に喜びの感情があるのじゃな。私らが来たのはよい事じゃったか。


「んじゃ飯食って朝か昼になったら聞き込み開始すっか。あぁ、時間制限とかねぇんだろ?」

「そうですね。一月以上ここに居座るのでなければ平気ですよ」


 短いと見るか長いと見るかはわからぬが急ぐ事でもないようじゃな。しかし一月も、私が持つわけがないがの。いかに暮らし易いとは言え元気か否かは重要じゃ。

 狭間と目配せをして頷く。うむ、わかっておるようで何よりじゃ。


「ふむ。それならご飯を食べてから色々と話を聞くとするよ」


 山野が頷く。私も、頷いておこうかの。……最悪失敗した所で何かあるわけでもないしのぅ。依頼主には悪いがそういうものじゃろう。


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