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Absolute Zero 4th  作者: DoubleS
第七章
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69/146

残された時間 2

「私としては、三条、あんたの考察は十中八九間違っていないと思う。薬の件にしてもそうだし、家の中を見たことも、そう」

 低い声を出した雨野は固い表情を崩さずに続ける。

「実は、この前、彼女について松原先生と話したんだけど、先生も何か彼女には秘密があるってことをほのめかしていたのよ」

「……と言うと?」

「…大っぴらにはできないらしくて、私にも話してくれなかったけど、何か秘密があって、しかも、本人はそれを知られたくないと思っていることは確かだと思うわね」

 髪を指で撫でながら、雨野は霧矢の視線を合わせた。

「先生の話を私なりに分析すると、彼女の秘密は誰かに知られると信用に関わることであり、本人も絶対に知られたくはないってことだって言える」

 しかし、霧矢はそこで疑問が生じた。

 確かに、自分が精神病であることを言いたくはない人がいたとしてもおかしくはない。しかし、それを誰かに知られたとしても信用に直接的に関わるかといえば素直にはうなずけない。

「それに、これは田中彩に関してのことでもあるから、うつ病と関係している可能性は低いわね。彼女の病気と、学校がなかなか問題解決に踏み出せない理由の関連性は考えにくいわ」

「話が見えてきません。詳しい説明をお願いします」

 首を回すと霧矢は説明を求める。雨野はいったん霧矢から視線を外した。

「私が先生と話し合ったのは、あくまで彼女の学校生活についてであって、彼女の秘密についてではないわ。私は先生にどうして学校が大々的に動けないのかと聞いたら、田中にも中里にもいろいろなしがらみがあって、うかつに動けないから、と答えた」

「…じゃあ、そのしがらみっていうのは、田中とも関連している……?」

 雨野はうなずく。霧矢はわけがわからず、首を回した。

 時雨の病気は中里時雨本人の問題であり、田中彩の入り込む余地はない。そのため、時雨の病気とはまた別のことが、学校での問題の原因となっているということだろう。

「…彼女にはその精神病以外にも秘密があるってことよ」

「謎の多い人だな……無理に知りたいとは思わないけど、気になるのは否めないですね」

「…精神病や家族関係については、彼女のプライバシーだから、無理に追及する必要はないと思うけれど、私としては、学校内での秘密は知りたいと思うわね」

「でも、あいつがうつ病なら、たとえ、学校のことでも、話したくもないことを無理に問いただすのは、よくないですって。先生だって話せないって言うくらいなんですから、本人が積極的に話してくれるとは考えにくいですよ」

 霧矢の反論に、雨野はもちろんそれは百も承知していると答えた。

「それを問いただすことによって、多少学校内で起きていることの全貌が見えてきたとしても、それで彼女が傷つくことになってしまったら、何にもならない。特に、彼女がうつ病の可能性があるというあんたの仮定が正しいのなら、精神的に傷つけることは絶対にダメ」

「ええ、その通りです」

 何故、霧矢たちが問題解決をしようとしているのか。それは、中里時雨の学校生活を改善し、彼女が心安らかに学校生活を送ることができるようにするためだ。

「でも、田中と中里の間に、伏せておきたい何かがあるというのは、初耳でした。確かに、それが何なのかわかれば、今後の方針も立てやすくはなるでしょうが……」

 だが、学校側が徹底的にそれを伏せ、しかも、噂も特にない以上、一年三組のメンバーに聞き込みを入れても効果は見込めないだろう。何しろクラスの女王と爪弾き者の機密事項だ。取り巻きに聞いたとしても、そう簡単に話してくれるとは思えない。

 結局のところ、それを知るためには中里か田中本人に聞くしかない。しかし、それができるのならば苦労はない。

「ああ…もうイライラする……」

 指でテーブルをつつきながら、霧矢はコーヒーを口に含む。

「…調べる方法は、他にないんですかね……」

 霧矢のぼやきに雨野は曇った表情で口を開く。

「あんたの大嫌いな方法だろうけど、心当たり自体はあるわね。彼女を傷つけずに、正確に情報を集める方法が」

 霧矢は目を丸くする。しかし、雨野がここまで言葉を濁すのも珍しく、霧矢は黙っていた。

「…外部に依頼する。どれくらいお金がかかるかはわからないけど、ツテはあるでしょ」

「まさか……」

 ここにきて、霧矢は雨野が「霧矢が大嫌いな方法」と言った理由を察した。確かに、霧矢にとっては避けたい方法であることは間違いない。

「それは、できればやめた方がいいと思いますが……」

「相川探偵事務所。あの組織なら、高校生の身辺調査くらい朝飯前だと思うけど?」

 霧矢は首を横に振った。だが、雨野は乗り気のようだ。

「まあ、あんたはあの殺し屋とは関わりたくないのかもしれないけど、身辺調査で人が死ぬなんてことはないはずよ。予算は聞いてから決めるとして、連絡してみましょうか。上手くいけば、よくわからない彼女の家族関係についてもわかるかもしれないし」

 霧矢はうなずけなかった。塩沢に関わりたくないというのもその理由の一つだが、何よりも他人のプライベートに探偵を依頼してまで探りを入れるということにためらいがあった。霧矢にそんなことをする権利はどこにもないし、そんなことをしたいとも思えなかった。

「三条、あんたは嫌かもしれないけど、私は効果的だと思うわよ。誰も傷つかないし、調査結果を決して外部に洩らさなければそれでいいと思うわ」

 霧矢は乗り気ではなかったが、雨野は自分が責任を取ると言い、携帯電話を取り出した。

「…で、仮に依頼するとして、予算はどうするんです?」

「それは、聞いてから決めると言ったでしょう」

 霧矢はため息をついた。

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