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Absolute Zero 4th  作者: DoubleS
第一章
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ライトな人体実験 4

 ゆっくりと眼鏡をかけた女子高生が霧矢の方へ歩いてくる。

「文香か。また気配を消して近寄ってきたね。やめてって言ってるのに」

 霧矢は文香の顔をじっと凝視する。文香は仏頂面のまま、霧矢をにらみ返した。

「…木村、相当お疲れのようだな。徹夜でもしたのか?」

「なぜわかる」

 文香の目の下にはくっきりと隈ができていた。年頃の女子ならば、非常に慌てるところだろうが、文香は基本的に理系女子で洒落っ気はゼロに等しく、隈がはっきりと顔に顕れていた。

「……文献を読み過ぎた。気が付いたら、午前四時。二時間ほどしか寝ていない」

「文献って、トマスんとこの研究所から盗んできたアレか?」

 文香は弱々しくうなずく。霧矢は「お疲れ様です」とねぎらいの言葉をかけると、三人で学校へ向かって再び歩き出した。

「それで、一晩中何の文献を読んでたんだ」

「…魔法薬調合法という文献だ。早速、今日の放課後試してみたいと思う」

 霧矢はそれを聞くと、文香をにらみつける。文香は表情を変えず、霧矢の顔を正面から睨み返した。文香は低い声で、

「どうした、三条。私の顔に何かついてでもいるのか? だが生憎、私は化粧をしないし、先ほど言った通り、徹夜で目の下には隈ができている。文句でもあるのか?」

 霧矢は無言で文香をにらみ続ける。晴代は二人の様子を見て苦笑いしていた。晴代も霧矢が文香をにらみつけている理由をしっかりと理解しているからだ。

 霧矢は、にらみ合いで根負けし、結局先に口を開いた。

「実際にやってみようとする心意気は結構だが、それをいったい誰に試す気だ?」

「誰に投与するかは未定だ。まあ、その時の気分で決めるつもりだが」

 相変わらず、臨床試験を通り越した人体実験を普通にやる気らしい。危険であるのは言うまでもなく、霧矢は万が一のことがあっては困るのでやめるように言うが、文香は聞き入れようとしない。

「万が一のことがあったら、どう対処するつもりだ」

「会長の契約異能や有島副会長の回復術なら、簡単に解毒できるはずだ。いざというときはそれで何とかなる」

 生徒会長である雨野光里は、あらゆる呪い、毒を解く癒しの風を操る契約異能を風華との契約で手に入れていた。また、副会長である有島恵子は光の魔族のハーフであり、ケガを治療する魔術を行使することもできる。

「それは、そうかもしれないが、会長たちで何とかなるという保証はないだろ!」

「大丈夫だ。本に書かれているものを忠実に再現するだけだ。害はないはずだ。それに、誰かにこっそり盛るなどとするような真似は今後しないから、安心するといい」

 一応、過去のことは過去なりに教訓にしているようだ。人をだまして飲ませるつもりはないらしいが、それでも不安を払拭することはできなかった。

「お前の過去を見ていると、とてもそうは思えないんだが」

「信頼しろ、と言っても、無理ならばそれでも構わん」

 霧矢はため息をつくと、これ以上言っても無駄とばかり、早足で歩き出した。晴代は文香に対して苦笑いしながら、霧矢が雪道に残した足跡を追い始めた。


 晴代や文香よりも早く、霧矢は学校に着く。ゆっくりと廊下を歩き、コートを脱ぐ。教室の脇の金具にコートを掛けると、霧矢は教室の戸を開ける。

「おっす。三条、おはよう」

「ああ、おはよう」

 西村に挨拶を返すと、霧矢は自分の席に腰を下ろす。西村の方を脇目で見てみると、何やら書き物をしているようだった。

(……まあ、いいや)

 別に彼に対して問いただす必要があるものでもない。それよりも、霧矢が今、気を付けていなければならないことは、文香の行動だった。残念なことに、霧矢と彼女のクラスは違うため、四六時中行動を見張っていることはできないし、晴代ともまた別のクラスのため、晴代に監視を頼むこともできない。こうなってしまうと、自分の食べ物にとことん注意を払っておくことくらいしかほかにできることがなかった。

 とにかく、霧矢としては、中学校のときのバレンタインデーのような事態になることだけは絶対に嫌だった。またしても、薬物でノックアウトされることになったら、運が悪ければ、期末試験までバッドコンディションが続くことにもなりかねない。

(実験台にされることだけは、願い下げだ)

 霧矢は、神経をとがらせながら、机の上でペンを指先でくるくると回す。魔法薬などという未知の薬品を飲まされたりしたら、自分の命さえ危うくなってしまう。

「なあ、三条。さっきから、何でそんなに落ち着かない様子で、顔を歪ませているんだ?」

 不審な表情で西村が霧矢に問いかけてくる。

「それは…木村が…」

「はい、席に着け~」

 霧矢が答えようとした瞬間、教室の戸が開き、担任が入ってくる。西村は舌打ちすると、教卓の方を向いた。

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