答えは存在するのか 6
放課後になり、霧矢は生徒会室に向かおうとするが、西村に呼び止められた。
「今日、中里が生徒会室に来たいらしい。いつもの会長との訓練のスタート、ちょっと遅らせてもらえるか?」
「別に構わない。僕も先生にちょっとした仕事を頼まれた。遅れていくから先に行っててくれ」
りょーかい、と間延びした声で西村はつぶやくと、霧矢に背を向けて歩き出した。彼が教室を出ていくと、霧矢はカバンから携帯電話を取り出す。メニューから上川晴代のアドレスを選択し、メールを打ち込む。
(……西村、悪いな。嘘ついて)
直接彼女と会って話してみてもよいのだろうが、霧矢の提案を既に実行してしまっていたのなら、その現場を誰かに見られると面倒なことになりかねない。
――例の件についてだが、結論を教えてほしい。それと、今、生徒会室に行くな。中里と西村の二人に鉢合わせすることになる。もし、僕の提案を受け入れるなら、会長には僕の方から辞めるということを伝えておく。きっと、会長もお前を責めたりはしないから安心しろ。
送信ボタンを押すと、霧矢はため息をついた。
もし霧矢が晴代の立場ならば、躊躇なく連中との縁を切ってしまうのだが、そこが一匹狼の男子と普通の域を出ない女子の違いなのだろう。
普段の霧矢なら、よくわからん。の一言で切り捨ててしまうのだが、今回ばかりは人の幸せがかかっている分、簡単に切り捨ててしまうわけにはいかない。
カバンに教科書類をしまいながら、霧矢は遠くの景色を見た。そういえば、今朝、マジックカードを受け取る約束を有島としていたが、それすら遠い過去のことのように思えた。それだけ、今日起きた出来事は重大なことだった。
「まったく、面倒事ばかり起こりやがる……」
携帯電話のディスプレイを眺めながら、霧矢は誰もいなくなった教室から出た。少し時間を潰すのであれば、図書室が適していると考えた。
図書室に向かう廊下を歩きながら、霧矢は足元を見ながら歩いていた。人気は少なく、下を向いていてもぶつかることはなく、気が付いたら図書室の前にいた。
普段来ることはあまりない場所だが、霧矢は図書室の雰囲気は決して嫌いではない。むしろ、本の紙の香りが漂う静かな場所は好きな部類に入る。興味を引く題名の本を適当に取り、椅子に座ると、霧矢はページをめくった。
新書を一章ほど読んだところで、ちらりと時計を見ると、そろそろ生徒会室に行ってもよさそうな頃合いだった。読みかけの新書の貸し出しカードを記入して、霧矢は図書館を出た。
先ほどからずっと待ってはいるが、晴代からの返信は来ない。返事が来ないということは、霧矢の提案をはねつけて、生徒会を続ける。すなわち、連中と敵対する覚悟があるということなのだろうか。
生徒会室の戸の前まで来ると、中での話し声が漏れてきた。幸い廊下には誰もいないため、中で何が起こっていたとしても、知る人間は霧矢だけだ。
「……西村、とりあえず、あんたは少し静かになさい」
「……だが、そんなことがまかり通ってたまるか、上川! お前はそれでいいってのか!」
「…だって、宣言しちゃったものは…仕方ないし……」
「……三条は何を考えてんだ! そんな腐った考えをするとは思わなかったぞ!」
「……でも、すみません。あたし、やっぱり生徒会を辞めます。宣言しちゃった以上、宙ぶらりんになるわけにはいかない……」
どうやら、メールを送ったものの、時間的なすれ違いがあったらしい。霧矢は漏れてきた声を聞きながら、深呼吸した。そのまま、生徒会室の戸を開けた。




