1月
「頭の良い一樹には私の気持ちなんてわかんないのよ!」
まさかね、センター試験一日目に振られるなんて思いもしなかったよ。
彼女は目に涙を浮かべて叫ぶようにそういうと「さよなら」を残して僕の前から消えた。
こんな日に降らなくてもいいじゃないかと言いたくなる雪と彼女の赤いコートの後姿が僕の脳裏に鮮やかに焼きついた。
一年半付き合ってたからショックはショックだったけど、まぁ仕方ないかと僕は翌日もきちんと試験会場に行ったよ。冷たいと言われればそうかもしれないけど、現実ってそんなもんでしょ。試験会場に彼女はいなかったけど。
「で?」
何も。そのまま僕は無事大学試験に合格、高校卒業して、今君とここにいるってだけさ。
「彼女は?」
どっかの私大に進学したって風の噂で……。ついでに、彼女は僕と同じ大学に行きたかったらしいってのも後から噂できいたよ。僕は付き合ってたのに、一度も聞いたことはなかったし、噂だから真偽の程はわからないけど。
目の前に座る彼女は大学に入っていつの間にか付き合い始めていた人だ。コーヒーの入ったカップを優雅に傾けながら「そう……」というと葉桜にかわった桜に目を向けた。
彼女の察して欲しかった気持ちってなんだったのかな。君にはわかる?
「きっとあなたにも私にもわからないと思うわ」
なぜ?
「だって話を聞く限り、あなたや私とあまりに違いすぎるタイプの女性じゃない」
彼女の言葉がすっと体に入ってきた。
そうか。
「私達は似たもの同士でしょ」
確かに。全てを言葉にしなくても伝わるね。で、何でこんな話になったんだっけ?
「今日がセンター試験と大学の試験の結果取寄せ申請の期限だったからでしょ」
あぁ、そうか。
カップをソーサーに戻す彼女の仕草に見とれていると、彼女が僅かに笑った。
「安心なさい。私はその彼女みたいに叫んだりしないから」
さぁ、そろそろ次の講義が始まるわ
立ち上がった彼女に少しだけ見とれて、一歩遅れて立ち上がる。
それはそれで少し寂しいかもしれないと小さく苦笑をもらす。さよなら、と目の前の白いテーブルに記憶の中の雪と赤いコートのコントラストを置いて、表情を出さない彼女を追う。
君は心の中を言葉にしてはくれないから、考えていることがなかなかわからないけれど、僕の過去に今少しだけ妬いてくれているのは嬉しいかな。
僕らは似たもの同士。だからこそ駆引きをしながら離れられずにずっと居たいと思うよ。
1月ということでセンター試験を思い出して。雪が降ってたな、と。そして大学に入学して5月くらいに大学試験の結果を取寄せ手続きをしたな、と鎖のように思い出したので。あまり1月と関係ないような気もしますが……
それにしても、天真爛漫とは程遠い彼女でしたね(振った方の彼女の方が天真爛漫だと思います…)
でも、僕(一樹)にとっては天真爛漫かもしれない、とも思うのです。