2月
私は2月の寒空の下、外に連れ出された。
さくっさくっ
一歩一歩その音を楽しむようにリズムよく歩く彼女の少し後ろを、彼女より大きな歩幅でゆっくり歩く。
今朝、突然家にやってきた彼女に散歩に誘われ、文句をいつものことだと心に留め、寒さを我慢して外へ出た。本当は、今頃暖かい部屋の中で、温かい紅茶でも飲みながらゆっくり読書でもしていたかった。
二月の風は冷たいうえに痛く、晴れてはいてもまだまだ冬であることを実感させられる。しかし、この晴れた空の下を楽しそうに歩く彼女を見ていると、彼女の周りだけはまるで暖かな春のように見える。これはきっと彼女特有の雰囲気の為せる業だろうと改めて感心した。
「氷張ってる!」
突然聞こえた彼女の声から、霜柱の上を音を楽しみながら歩くことには満足したことを察した。彼女はこちらを振り返り、水溜りに張った薄氷を『見て見て』と言わんばかりに指差して同意を求められた。
「朝冷え込んだからな」
たったこれだけの返答だったが、彼女はその返答に満足したようで、にっこり笑うとまた前を向き歩き出した。
北風が吹いて、なびくマフラーを押さえる彼女の表情は見えないが、おそらく笑顔でいるはずだ。
「もう一つ向こうの橋まで行きたい」
たどり着いた橋の上で軽く休憩をとっていると、そうリクエストされた。もちろん、駄目だと却下することなどできるわけもなく、頷いた。
まるでスキップでもするかのような彼女のうきうきとした様子に、いつのまにか心の中にあった文句も不機嫌もどこかへ消え、こちらまで楽しくなっていることに気付く。
「こんな日に散歩するのもいいでしょう?」
眩しい笑顔をこちらに向け言ったその言葉で、いつも部屋にこもって仕事ばかりしている私を、彼女の我侭という形をとってでも連れ出そうとしてくれたことに初めて気付き、私は笑うしかなかった。
もう一度彼女の眩しいくらいの笑顔を見たいと思って、名前を呼ぼうと思ったが思い直し、彼女の背中を見つめてから空を仰いだ。