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10月

 僕の隣にはいつも彼女がいて笑っていた。

「いちょうのはっぱがかぜとダンスしてるね」

「そうだな」

 小さな彼女は、風に舞う黄色い銀杏の葉を指差して笑顔を浮かべていた。

 



 自宅近くの銀杏並木を今、一人で歩く。最後に彼女と一緒にここを歩いたのは何年前だっただろうか。もうずいぶんと前だということは確かだ。

 少し寂しく思いながら銀杏を見上げた。風に舞い、並木道を覆っている銀杏の葉に、木々の間から零れる光が当たって黄金色に輝き、それがまるで過去への道しるべのように見えた。

「銀杏の葉っぱが風とダンスしてる」

 そんな思考に陥っている時に、後ろから聞こえた懐かしい台詞にはっとして振り返る。

「お父さん」

 駆け寄ってきた彼女は僕の腕に自分の腕を絡めた。

「久しぶりにいいでしょ」

 そう言って鮮やかに笑った。

「そうだな」

 頷いて再びゆっくり歩き出す。降り積もった銀杏の葉が乾いた音を奏でた。

「お父さんとここをこうして歩くのって何年ぶりだろうね」

「いつだったか、私転んで銀杏まみれになったのよね。そうしたらお母さんが『ぎんなんがなくてよかったわ』って言って。お父さんの方が慌てて私を抱き起こしてくれたんだよね。まぁ、ぎんなんの香りも嫌いじゃないんだけど、かぶれるからなぁ」

 ふふ、と小さく笑いながら彼女は思い出したことを言葉にしていた。僕にはその思い出達がまるで昨日のことのように思い出される。相槌を打つだけで話を聞いていると、ふと声が途絶えた。訝しく思って彼女を見れば、俯いていた。絡めていない方の手で彼女の髪を優しく撫でると小さく「ありがとう」と聞こえた。

 そのまま何を話すでもなく、腕を組んだまま静かに銀杏の葉を踏みしめて歩いた。

 銀杏並木が途絶えたところで、歩いてきた道を振り返ると、黄金色の道が長く続いていた。

「バージンロードより銀杏並木の方が……」

 小さく呟いた彼女の声は途中までしか聞こえなかった。聞き返すのも憚られて空を見上げると雲もなく青かった。

「お父さん、ありがとう」

 彼女の声に、はっとして隣の彼女を見れば、少し離れた所からこちらを見て、綺麗な笑顔を浮かべていた。

 小さく頷くと、彼女はさらに笑みを深めて来た時と同じように腕を絡めた。

「さ、帰ろう。実は、お母さんに、お父さんを連れて帰ってくるように頼まれていたのよね」

 そう言って僕の腕を引っ張り始めた彼女はとても楽しそうで、幼い頃ここへ来るために僕を引っ張っていた彼女と被って見えた。

「ありがとうな」

「え?何?」

 小さく呟いた言葉は銀杏の葉の奏でる音で消されてしまって彼女には聞こえなかったようだ。聞き返す彼女には答えず、少し歩幅を広げて歩き出した。

「幸せになれよ」

「当たり前じゃない。幸せになるわ。お父さんとおかあさんのようにね」

 彼女は最高の笑顔で答えてくれた。

 どうか君が歩く道がこの黄金色に彩られた道になりますように。


ありがとうございました。途中長い間開いてしまいましたが、これで一応完結です。


どの月がよかったでしょうか。感想等いただけると嬉しいです。

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