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我が魔力に慄け異世界 お前らが召喚したのは、地球最強の魔法使いなんだが  作者: おいげん
第三章 帝国への侵攻

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第28話 波状攻撃

 敵軍襲来。

『魔のガイアス』と敵味方両方から恐れられてきたこの砦は、現在地獄の一丁目になりつつある。


 ふむ、敵性勢力の漸減が目的なのか。

 それとも襲来してきているのが主攻なのか。

 情報が錯綜して判断がつかない。なので籠城しての防衛戦に移行するべきだろう。


 壁上から立ち込める砂塵を睥睨していると、顔を青ざめさせたフレリアがやって来た。見るからに疲労の色が濃い。本来ならば休ませるべきなのだが、状況的に厳しいだろう。


「リオン、最悪です……恐れていた事態が勃発しました」

「全方向から攻撃を受けていることよりも、か? 少し休んだ方がいい」

「いえ……敵の主攻は前面に展開するヴァレンティナ王国軍です。指揮官のマクシミリアンは魔族殺しとして名を馳せた将軍で、ウェスティリアでは賞金首となっているほどで」


 それはそれは。

 魔族が金にモノを言わせて解決することをよしとしないことを、俺は知っている。

 だがそれでもなお、首を取らねば気が済まない相手ということだろう。


「俯瞰していたが、随分と変わった陣形を取っている。通常は中央に歩兵、両翼に騎兵、そして後衛に弓兵が人間側の基本と思っていたのだが」

「歩兵と歩兵の間に騎兵。つまりは混成部隊になっているのだろう」

「ああ。あれでは攻めるにせよ守るにせよ、行動の柔軟性が確保できないと思うぞ」

「ですが……私たちはあの陣形を未だに突破できずにいます。リオン、絶対に野戦は挑んではいけませんよ」


 フレリアが釘を刺したくなるのも理解できる。

 上から見てもちぐはぐな並びであり、どう考えても正攻法で圧殺可能そうだ。

 

「援軍のアテは……聞かない方がよかったか」

「残念ながら。このような状況になったのも全ては私たちの失策です。リオン、貴方だけでも……」

「じゃあ俺もその言葉は聞かなかったことにしよう。友人同士なのだから、頑張って生き残らないとな」

「リオン……」


 スパイクの魔力砲撃によって随分と城壁は崩れてしまっている。

 一気呵成に突撃してくる様子はないが、何か胸騒ぎがするな……。


「リオン、危ないっ!」

「む、術理展開メソッド——【近距離転移】」


 極近距離——数メートル先に飛ぶことができるテレポーテーションだ。

 緊急避難として使用を想定していたが、この術理は体への負荷が大きい。

 なので乱発すると翌日全身がゴキゴキになって動けなくなる。


 フレリアを抱きかかえて飛んだせいか、いつもより痛みが激しい。

 だがそれよりも。


「なんだ、この飛礫は。いや、空中で無数の槍が放たれたような」

「ヴァレンティナは【木偶】の保有数が少ないのですが、その分優れた技術力を保有しています。これは攻城兵器の一つである【散弾バリスタ】でしょう」


 まき散らされた小さい槍を検分する。なるほど、理解した。

 これは上空に打ち上げ、そこから慣性落下するときに外殻が割れるのだろう。

 すると中からまるでショットガンのように仕込まれた槍がバラ撒かれるという寸法だ。


「伊達に賞金首というわけではないな。この兵器は明らかに城壁を狙ったものではない。確実に命だけを奪いに来る仕組みになっている」


 俺はフレリアに屋内退避させ、他の兵にも無暗に外へ出ないように伝えておいた。

 マクシミリアン、か。

 さぞや魔族の死体を今まで積み重ねてきたことだろう。


 だが、この戦で俺が終わらせてやる。

 あまりにも命を蔑ろにしすぎだ、クソ野郎。



 散弾バリスタの斉射が続く中、敵軍の歩兵部隊がゆっくりと前進してくるのを確認した。どうやら長梯子を使って登ろうとしているのだろうが、そうはいかない。


「フレリア、いいぞ。敵の発射が止んだ」

「わかりました。長弓兵と投石兵は敵の足止めを! 弩兵は指揮官級の狙撃に徹しなさい!」


 先の戦いを目の当たりにしたせいか、少し感性が狂ってしまっている。

 敵が散弾バリスタを止めたのは、恐らく仲間に当てないため。

 

 ヴァレンティナ兵がバリスタの殺傷圏内に入る前にピタリと停止している。

 何故だ。

 何故その重みを、命の重みを魔族にも適用しない?


 人間界から見れば慈悲深く、安心して背を任せられる指揮官だろう。

 だがこちらからの風景は反吐が出る。


「撃て。一兵も逃すな」

「おおおっ、仲間の仇だ!」

「マクシミリアン、出て来い!」


 怒りの炎に身を任せたガイアス守備隊と儀仗騎士団の運動力負荷が高い。

 このままでは部隊が息切れするやもしれん。

 であれば少し援護射撃に入ろうか。


「折角プレゼントをしこたま贈ってくれたんだ。こちらもお返しをしなければ礼を失するだろう」


 散弾バリスタから放たれた槍の残骸。

 それら全てが俺の武器であり、攻撃手段になる。


「術理展開——【恩寵受けし破軍の弓掛(ヘラクレイシア)】セカンダリフォルダからプライマルフォルダへ……Run!」


 彼の神力を得て、我が力は無双に成れり。

 撃ち抜く弓はヒュドラを屠り、投げる槍は大海を割る。


「走れ、槍よ!」


 単純な投槍に見えるが、魔力で周囲をコーティングしてあるため決して折れず。

 膂力を増しているために決して防げず。

 誘導能力を付与してあるため決して避けれず。


「うがっ!?」

「ぎゃっ!」


 着弾と同時に小規模なクレーターが広がる。

 小型の爆発物が破裂したような状態だ。


「む……なりふり構わず後退……いや、違うな。何を狙っている」


 一見すれば潰走していく敵前衛部隊にウェスティリアの兵士たちは歓声を上げて喜び合う。

 緒戦勝利。そう称してもいいほど完璧な撃退だった。


「フレリア」

「わっ、驚きました。突然現れないでください!」

「火急の要件だから許してくれ。これは偽装退却ではないのか?」

「……その可能性は高いかと。ですが兵を休めるには好機です」


 一抹の不安を覚えるが、今は全力で戦った兵士たちを引っ込めるのが先だ。

 だが俺の悪い予感はこういう時ほど当たってしまうらしい。


「敵軍、再度襲来! 散弾バリスタ来ます!」

「第二波ですか……やむを得ません、兵士を起こして迎撃しましょう」


 指揮官のフレリア、そして守備兵大将のヘンリエッタが代わる代わる指揮を執るが、敵の攻撃は止む気配を見せないでいた。


「今……何回目……ですか……?」

「まだ七つ目だ。ん、訂正しよう。八波目が来るぞ」

「これが敵の……狙いでしたか」


 単純だが簡単な理屈だ。

 凡戦をただひたすらに繰り返す。

 圧倒的な兵力差にのみ許される、力押しの極み。

 

 結果守備兵は疲労のために力尽き、立ったまま死ぬこともある。

 

「このままではガイアスは陥落するでしょう。リオン、私たちは総力で打って出るべきと思いますが」

「……そうか。敵の本命はやはり野戦にあるのか」

「どういうことでしょう? このまま平押しされればいずれ私たちは……」

「わかっている。だが耐えるんだ」


 説明には時間を要したのだが、フレリアを思いとどまらせることはできた。

 一見して無造作に見える敵の陣形は、歩兵を消耗することによって騎兵戦に特化した編成へと変化する。


 敵は人命を重視なんてしていなかった。

 歩兵は捨て駒であり、撒き餌でもある。

 籠城を放棄して出撃すれば残存している無傷の騎兵に蹂躙されるだろう。

 

「おい、奴らを見てくれ! 野郎、あいつらなんてことを!」


 しくじった。

 今の兵士たちに《《アレ》》を見せては絶対にいけなかった。


 敵兵は盾に何かを括り付けている。

 それは魔族。盾のサイズになるまで刻まれた――四肢を落とされた魔族たちだった。恐らく進軍ルートにあった村々を襲い、住民を捕獲してきたのだろう。


「あっちでは火に子供を放り込んでやがる……人間どもめ、そこまでして私たちが憎いのかァッ!!!」

「ヘンリエッタ様! ご命令を!」

「もはや我慢の限界です。どうか我らに死んで来いとご命令下さい!」


 耐え忍んできた魔族たちの、決定的な何かが切れたようだ。

 

「これよりガイアス守備隊は決死隊として敵陣に突入する! このヘンリエッタ・ザクセンが先陣を切って敵を穿って見せよう。全軍、我に続け!!」

「おおおおおおおおおっ!!」


 まったく……やってくれるな。

 どこのバカが作った価値観だか知らんが、よくもこんな残酷な世界にしたもんだ。


「リオン、お願いします。ヘンリエッタを止めてください! 私たちの兵も同調する者が続いてしまって……」

「フレリア、ダルシアンの統率を取って守備に上がらせるんだ。ヘンリエッタたちは俺がカバーする」

「リオン……ごめんなさい。私たちが不甲斐ないばかりに……」

「必ず地獄に叩き落としてやる。案ずるな」


 それでは行こうか。

 俺の眼前での非道、その命で償ってもらうぞ。

お読みくださりありがとうございます!

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