26.1.9 「夕暮れ」
依頼人が安心した様子で事務所を後にして、詩音は自分のデスクに戻るとホッと一息ついた。
今回も、無事に終えることができた。
依頼された浮気調査は、蓋をあけてみれば依頼人のちょっとしたコミュニケーション不足が生んだ勘違いで、双方対話の場を設けるとあっという間に解決した。
「お疲れさま」
ガチャ、という音と共に、後ろからかけられた声にゆっくり振り返る。
「哲人さんもお疲れさまです」
哲人さんは事務所のドアを閉めると、鞄から2本の缶を取り出した。
「ほい」
「わぁ!ありがとうございます」
渡されたのは、最近買っていなかったミルクティー。
思わず年甲斐もなくはしゃいでしまう。
「相変わらず好きだな、それ」
「えぇ、甘すぎず苦すぎずなこの味が好きなんです」
デスクからソファに移動して、蓋を開ける。
口に広がる味は、昔から変わらない味だ。
隣で哲人さんがもう一つの缶を開ける。この人も昔から変わらず、有名カフェ店監修の微糖のコーヒー。
「今日は早く上がれたんですね」
「あぁ。手が空いてた山岸が手伝ってくれた」
哲人さんの同期で親友な山岸さん。最近顔見ないな、とふと思い返す。県警関連の依頼で出くわしたら挨拶するけれど、平和にもここ最近は地域系の依頼がほとんどだ。
「俺たちが早く帰れるってことは、平和な証拠だな」
「そうですね。平和なのはいいことです」
窓の外から差し込む夕日に、目を細める。
「さてと、帰ろう」
「えぇ、そうしましょう。
そろそろ子ども達も帰ってくる時間ですから」




