「雨の日のひと時」
冬には珍しい、大雨の日だった。
重く敷き詰められた雲には隙間がなく、光を遮る。
リビングの電気が、部屋を煌々と照らす。
私は、リビングの窓際にあるクッションチェアに座っていた。
手元にはいつもと変わらず、文庫本がある。
微かに窓を打つ雨の音が心地いい。
物語に思考を委ねていると、ふっ、と手元が暗くなった。
「幸」
「ん」
私は顔を上げた。
にぃにが私を見下ろしている。いつもより少し顔色が悪い。
わかっている。やはり、こういう日はダメなんだろう。
にぃには、いつもはねぇねを頼る。でもねぇねは今日、運動部の友達から練習相手を頼まれて学校に行っている。
私は立ち上がってソファに移動して、横をポンポンと軽く叩いた。
「一緒に本読もう」
「あぁ」
にぃにが座ったのを見て、私は再び小説を開いた。
___にぃには、こういう大雨の日や、暗い場所が苦手だ。
何があったのかは、あまり聞いていない。
ねぇねからは、にぃにはパパとママに会うよりずっと前に、苦しい思いをしたんだよ、と言っていた。
パパとママの間に生まれたのに、それより前?……産まれる前?
詳しく聞きたいと思った。
けれど、私に伝える気はあまり無いのだろうと思って、詳しいことは聞かなかった。
(にぃには、にぃにだから)
結局それだけだ。
目の前にいる人が、私にとってのその人だ。
ふと、肩に重さが乗った。
見ると、にぃにが少しだけこちらに身体を寄せて眠っていた。
穏やかな寝顔に、私は少しだけ微笑んで、安堵のため息をついた。




