村長の選択
翌朝。再び村の主だった面々が集められた。
「このままでは埒があかない」
「じゃあどうするんだ」
「もう村を捨てるしかない」
「あいつが追ってこない保証なんてないぞ」
紛糾する議論の間じっと目を瞑って聞いていた村長が皆を制し、静かに告げる。
「……ワシが、諏訪の神様に祈りを捧げてくる。お告げがもらえるまで、帰らんつもりじゃ」
「そんなんでどうにかなるもんかい!あんた、自分だけ逃げるつもりじゃないんか?」
誰かが言った言葉に怯む事もなく、村長は深々と皆に土下座した。
「……もう、これぐらいしかワシに出来ることはない。隣の村にも相談したが、増援どころか“もう来んでくれ”と言われた……本当に申し訳ない」
毒気を抜かれた村人たちはそういう事なら、と矛を納め、その日は解散となった。
◇◇◇
家に帰った与一は寝っ転がりながらブツブツと静にこぼしていた。
「祈ってどうにかなるなら誰も苦労しない。刀の一つでも用意してくれりゃいいのに……」
「でも、あんたが危険な目に遭うよりはよっぽどええよ」
静はできるなら見回りもやめてほしい、とそれとなく与一に伝えた。
「それは出来ない。それに、お前たちが襲われないとも限らない」
与一は命に換えてもあの化け物には家の敷居を跨がせない、と強く心に誓った。
【次回予告】
村長の祈りは神に届くのか。
静かな絶望に支配された村人の心は荒む。




